当院に来院されるウサギの多くは、食欲不振を訴えることが多いです。
よくウサギを犬猫と同じに考えて、食欲が無くなって数日経過してから受診されるケースが多いのですが、これは間違いです。
ウサギは草食獣であるため、寝ているとき以外は乾草などを口に入れてモグモグしているのが正常です。
水も乾草も口にしなくなって、一日経過していたら異常事態と思って下さい。
何らかの対処しないと命に関わることもあります。
ドワーフホワイトのパフちゃん (3歳、避妊済、体重900 g)はペットホテルに預けられている中、突然食欲不振が一日続くとのことで来院されました。
パフちゃんは大きさの不定型な軟便・下痢便が認められ、腹部を触診すると膨満感があり、圧痛を感じているようです。
便の一部には、体毛が絡んでおり毛球症の可能性も考えられます。
まずはレントゲン撮影を実施しました。
上写真の赤丸は胃を、黄色丸は盲腸・小腸を表します。
胃内に餌の食渣があり、盲腸内にはガスが貯留しています。
今回のパフちゃんは、消化管ガス貯留による腸管蠕動の停滞、ひいては食欲不振に至ったものと考えられました。
この消化管疾患をウサギ消化器症候群 (RGIS) と称します。
RGISについては、以前コメントさせて頂きましたので詳細については、ウサギの疾病をご覧ください。
治療法として、まず盲腸内のガスを抜くことが必要です。
このガスがなぜ生じたのかは、胃内の毛球かもしれません。
あるいは、ストレス等で消化管内の腸内細菌叢が崩れて、ガス産生菌が増殖して盲腸鼓張をもたらした可能性もあります。
いずれにせよ、パフちゃんは入院して頂くこととしました。
入院中は、ガスを抜くためにジメチコンという消泡剤、消化管内の毛球除去のためにラキサトーン、腸蠕動促進薬のプリンぺラン、ガス産生菌粛清のための抗生剤を投薬して経過をみることにしました。
下写真は消泡剤を飲んでいるパフちゃんです。
翌日になりますとパフちゃんは食欲が少し出て来ました。
乾草も水も口にできるようになってきました。
入院二日目のレントゲン写真です。
胃内にガスが認められる点と盲腸内のガスが消化管下方へと移動し始めているのがわかります。
入院3日目からパフちゃんの食欲はさらに向上し、軟便も治まってきました。
入院4日目のレントゲン写真です。
胃内のガスは完全に抜け、盲腸内のガスもかなり抜けて来ました。
あとはご自宅で内服をしていただくことで大丈夫と判断し、入院5日目に退院となりました。
下写真は退院当日の足取りもしっかりしたパフちゃんです。
ひとくちにウサギの食欲不振といっても、その原因は歯科疾患であったり、消化管内の毛球・異物・ガスであったり、子宮疾患・肝腎不全がからんでいたり様々です。
ウサギは自然界では肉食獣に捕食される立場にありますから、疾病の兆候を隠します。
飼い主様が、ウサギの食欲不振に陥る前に気づかれると良いのですが、病院に来院される時点で疾病は進行していることが殆どです。
今回は、パフちゃんをホテル預かりしていたショップの方が注意深く異変に気付かれ、迅速な対応をしていただけたのでガス産生菌による腸毒素血症を未然に防ぐことが出来たと思います。
ウサギは食欲不振が丸一日続いたら、即受診されることをお勧めします。
最後に、退院時に飼主様から頂いたお土産をご紹介させて頂きます。