ハクビシンは、特にアジア地域で広く分布する小型の哺乳類で、夜行性の習性を持っています。また、ハクビシンは害獣として駆除の対象となっている場合が多く、自治体によってはペットとしての飼育を明確に禁止しています。今回の症例は自治体に許可を得て飼育され、ハクビシンには獰猛なイメージがあるかもしてませんが、人馴れした珍しい個体でした。
症例概要
患者情報
- 種別:ハクビシン
- 性別:雄
- 年齢:不明
- 飼育環境:室内飼い/時折散歩に出る。
- 餌:キャットフード
- 予防歴:無し
症状
- 右眼の赤みと白濁
- 右眼を痛そうにする
- 角膜の浮腫
検査(初診時)
視診: 右眼には白濁、血管新生、肉芽腫が認められました。角膜の浮腫もあります。左眼は正常でした。
フルオレセイン染色※:右眼のみ陽性。
※フルオレセイン染色は、眼科診療で広く用いられる検査手法で、主に角膜や結膜の異常を評価するために使用されます。
この方法では、フルオレセインという蛍光色素を用いて、眼の表面の状態を可視化します。
治療
角膜に激しい損傷が見られることから、抗生物質の点眼薬と、目の乾燥や刺激を和らげるための保湿性の高い点眼薬の2種類を処方し、2週間程経過を観察することにしました。
検査(初診から2週間後)
前回と同様の検査を行いました。この頃にはもう痛がる様子はなくなったそうです。
視診:前回よりも赤みと白濁が減少しています。
フルオレセイン染色:前回よりも染色の範囲が狭くなっています。
治療(初診から2週間後)
改善傾向であることから同治療で継続することにしました。
検査(初診から2ヶ月後)
2種類の点眼を開始してから2ヶ月経ちましたが、飼主さんから見て眼の赤みや白濁は前回と変わらずでした。
視診: 前回と再診時と著変無し。
フルオレセイン染色: 前回再診時と著変無し。
治療(初診から2ヶ月後)
2種類の点眼に、炎症や痛みを軽減するために使用される非ステロイド性抗炎症薬を含む点眼薬を追加し、
合計3種類の点眼薬を開始しました。
検査(初診から半年後)
目を気にする様子はなくなり、白濁や赤みもなくなりました。
視診: 血管新生や白濁、赤みはほぼ消失しました。
フルオレセイン染色: 染まる部分はなくなり、ほぼ陰性となりました。
治療(初診から半年後)
右眼を痛がるような症状や眼自体の異常も消失し、本症例は改善しました。症状の再燃があるかもしれないため、このまま点眼薬は継続します。
まとめ
ハクビシンの診察を行える動物病院も少なく、特に眼科的な問題に関しては、専門的な知識を持つ獣医師が限られています。このため、飼い主はハクビシンの健康管理に対する情報を得る機会が少なく、いざという時の対処が難しいという課題があります。
自験例のハクビシンは人馴れした個体であるため保定や検査が容易であったこと、自宅での点眼治療も協力的であったことが、良好な結果をもたらしました。本来のハクビシンは狂暴で、検査も麻酔や鎮静が必要になることが多いため、治療も制限されることが予想されます。彼らの生態をより深く考慮に入れることで、診断や治療におけるアプローチが変わる可能性があります。今後も、珍しい動物の眼科疾患に関するデータを蓄積し、より多くの症例を通じて知識や技術を深めていくことが重要です。