背景
クサガメ(Chinemys reevesii)は、日本で一般的に飼われている淡水性の水ガメで、多くの家庭で飼育されています。温和な性格や比較的飼いやすさが魅力ですが、その飼育には適切な環境管理と健康管理が求められます。特に老齢の個体では、免疫力が低下し、様々な健康問題が発生しやすくなります。適切な飼育環境としては、広い水槽と日光浴できる陸地部分が必要で、バランスの取れた食餌も健康維持に欠かせません。水ガメの疾病の一つに陰茎脱が比較的多発します。勃起した陰茎が甲羅と床の間で擦れるために、炎症など起こして戻らなくなります。
【緊急】カメのお尻から何か出ている(直腸脱?卵管脱?ペニス脱?)
症例概要
患者情報
- 種別: クサガメ
- 性別: 雄
- 年齢: 30歳
- 飼育環境: ベランダで水槽に入れて飼育。冬季は玄関飼い。
- 餌:カメ用ペレット
主訴
- お尻からなにかが出ている
- 食欲不振
身体検査
- 総排泄孔からの陰茎の脱出/陰茎の炎症
診断・治療
身体検査の結果、陰茎脱と診断し、陰茎は不可逆的な重度の炎症と腫脹があったため、早急な外科手術が必要と判断しました。
手術
手術をするにあたって、鎮静と鎮痛を目的に麻酔薬を注射しました。外部に脱出している陰茎部分のみを切除します。切除しやすい位置まで陰茎を牽引し、電気メスで切除していきます。この際、陰茎骨も併せて切除します。
術後は感染予防として抗生剤を投与しました。
術後経過
手術後は順調に麻酔から回復し、当日退院をしました。自宅では的確な温度管理、頻繁な水換え、餌の指導を行いました。食欲不振術の水ガメは匂いのある海老やレバー、ミミズなどを好むため、これらの給餌を推奨しました。術後1週間程度はあまりなかった食欲も時間がたつに連れて回復し、3ヵ月経った現在では元の食欲と生活に戻れました。特に海老を好んで食べていたそうです。また、陰茎切除による感染の徴候も見られませんでした。術直後と一週間後の再診で肛門の疎通を確認し、問題無く排泄可能だと判断しました。
まとめ
カメの陰茎は哺乳類と異なり、尿道が通っていないため、完納出来ない場合は、繁殖を希望していない時は切除が得策とされています。本症例から、陰茎脱は食欲不振に繋がり、衰弱する前の早期の診断と適切な処置が重要であることが確認されました。また陰茎切除により、排泄にも問題は生じず、生活の質にも影響はありませんでした。
(文責 吉野/霍野)