本日ご紹介しますのは、ウサギの前足の骨折の話です。
一般に骨折の治療法は、骨折の状態で選択・判断されます。
骨折部の整復には、非観血的整復法である外固定法、患部を切開してプレートを持ちいて固定するプレート固定法、あるいは骨髄内に骨髄ピンを入れて整復するピンニング法、もしくは創外ピンを患部に打ち込んで固定する創外固定法などがあります。
今回は一番手間がかからずに外副子(ギプス)で固定して整復する方法をご紹介します。
ロップイヤーの豆太君(去勢済、体重2㎏、2歳)は右の前足を拳上するとのことで来院されました。
下写真の黄色丸が拳上している右前足です。
早速、患部のレントゲン撮影を実施しました。
下写真の黄色丸は、前腕骨を構成する橈骨と尺骨の内、尺骨が骨折しているのがお分かりになると思います。
患部を拡大しました。
側臥状態でのレントゲン像です。
患部の拡大像です。
レントゲン像から尺骨骨幹部の骨折、特に若木骨折と呼ばれる骨折状態と診断しました。
尺骨のみが若木や竹の様に弾力性があって、完全に折れるのでなく、しなるように折れる骨折を指して若木骨折と呼びます。
このような骨折の場合、亀裂の入っていない橈骨が折れている尺骨のギブス代わりになるため、外固定法を選択しました。
下の写真は、外固定を施している模様です。
外副子としてアルミ製のアルフェンス®の9号サイズを使用しました。
後に紹介する各種包帯・テープで患肢をテーピングする前に、肘の微妙な曲げ角度をアルフェンスを曲げて調整しておきます。
次に患肢をストッキネット(メリヤス製編み包帯)で包み込みます。
さらにキャストパッドプラス®で患肢を巻きます。
最初に角度調整しておいたアルフェンスを肘から手根関節まで粘着テープで固定します。
これで外固定は終了します。
あとは定期的にアルフェンスと患肢との干渉や皮膚の炎症などをチェックしていきます。
豆太君は性格的にも患部を神経質に齧ることなく、過ごせたようです。
処置後3週間後の豆太君のレントゲン写真です。
まだわずかに骨折部に仮骨が形成されている程度です。
患部の拡大像です。
側臥状態の写真です。
次いで、処置後5週目のレントゲン像です。
仮骨はほぼ形成され、下の伏せの姿勢では骨折部が分かりずらい所まで回復しています。
側臥の写真です。
拡大像(下黄色丸)では骨折部が仮骨で若干膨隆しているのが分かります。
この仮骨にかかる圧縮力や牽引力に応じて、破骨細胞や造骨細胞が仮骨に働きかけ、元の尺骨の形状に再構築されます。
この状態で、外固定を外しても問題がないと判断して、アルフェンスを撤収しました。
特に豆太君は歩行に問題はありません。
ウサギの骨は犬と比べても骨密度が低く、骨癒合が完了するまでに時間がかかることが多いです。
過去にも橈尺骨の橈尺骨骨折の創外固定法や骨髄ピンによるピンニング法を載せていますので、興味のある方はクリックして下さい。
今回は、尺骨の若木骨折のため、外固定法で対処できたのは幸運であったと思います。
ウサギはデリケートであるため、骨折の患部を固定することは固定装置を破壊されたり、精神的ストレスで食欲不振が続いたりと大変です。
豆太君、お疲れ様でした!