ウサギの橈尺骨骨折(ピンニング法)

当院を受診されるウサギの年齢は、犬同様に高齢化の傾向が認められます。

今回は高齢ウサギの前足の骨折がテーマです。

ライオンラビットのランちゃん(雌、9歳3か月、体重1.5kg)は前足を骨折したとのことで来院されました。

明らかに右前肢をかばっているため、レントゲンを撮りました。

下写真黄色丸は骨折している橈尺骨です。

明らかな橈尺骨遠位端骨折です。

高齢のため骨密度は低く、難易度の高い手術になりそうな感じです。

加えて赤丸は高齢のため上顎の臼歯歯根部が石灰化を起こしていることを示しています。

ランちゃんは今年で10歳になるという高齢ウサギです。

ヒトとの年齢換算によると100歳近い年齢です。

ヒトでも高齢者の骨折は、術後の骨癒合不全の問題になります。

動物の場合はいかに高齢であっても、骨折部はしっかり固定しないと突発的に激しい動きをします。

場合によっては、骨折部が皮膚を突き破って、容易に細菌感染症になります。

ひとまず、ランちゃんの骨折部を保護するためにスプリントによる外固定をしました。

ただレントゲン画像で分かるように、単純な横骨折ではなく、斜めに骨折している斜骨折です。

そのため外固定による整復は、骨折端を合わせるという点で限界があります。

加えて100歳に近い高齢ウサギです。

重いギブスの長期間装着で生活の質を落とすよりは骨折部を整形外科的に観血的に整復すべきと考えました。

ただ怖いのは全身麻酔にランちゃんが耐えてくれるかという点です。

事前の血液検査では、肝機能・腎機能などは正常で問題はありませんでした。

飼い主様のご了解を得て、手術を実施することとしました。

従来、私はウサギの橈尺骨遠位端骨折は創外固定法を選択することが多いです。

創外固定法は皮膚に外から何本もピンを打ち込んだ上にパテでピンを固定します。

この方法は、ランちゃんには不適です。

骨髄内ピンを打ち込む方法を選択しました。

創外固定よりもこの方法は短時間で済みますし、生活の質を落とすことはないでしょう。

ここで骨髄内ピン固定の術式概略を下図のイラストで説明します。

骨折端から指先に向かってピンを骨髄内に刺入します。

次いで、手根部を貫通したピンをハンドドリルに180度逆向きに装着して、骨折端を整復した状態で肘部に向けてピンを刺入します。

骨折端がピンで確実に固定できたのを確認した後、ピンを離断します。

上記の方法でランちゃんの手術を実施します。

患部を綺麗に剃毛して行きます。

患部周辺の体毛は極力剃毛するため、仕上げにカミソリを使用します。

下写真をご覧の様に骨折部の内出血があり、患部は腫脹しています。

骨折部を切皮します。

骨折部の橈尺骨骨折端(黄色丸)です。

骨折端が斜めに割れています。

前述のイラストの通り、電動ハンドドリルで骨折端から指先へ向かってピンを刺入していきます。

今回使用したのは両尖タイプの直径1㎜のクリシュナ―ピンです。

骨折端から手根部(手首)へピンを刺入し十分な長さを貫通させます。

次に貫通しているピン先にハンドドリルを装着し直し、骨折部を整復します。

次いで肘部へ向けて180度逆向きにピンを刺入します。

骨髄内に刺入したピンがどのくらいの長さ入ってるかを使用したピンと同じ未使用ピンと端を合わせて確認します。

必要な長さのピンが骨髄内に入っているのを確認後、ペンチでカットします。

骨折部の固定はしっかり出来ています。

最後に皮膚を縫合します。

イソフルランガスをカットして、ランちゃんの覚醒を待ちます。

覚醒までの間、スプリントで患部を保護します。

レントゲンを撮り、患部を確認しました。

患部を拡大します。

骨髄内ピン固定はしっかり出来たようです。

麻酔からランちゃんは無事覚醒しました。

覚醒後のランちゃんですが、右足に満足に荷重することが出来ないためタオルで姿勢を保てるように保護します。

翌日のランちゃんです。

若い個体であれば、今回のような橈尺骨骨折は1か月ぐらいで骨癒合しますが、高齢でもあり数か月は必要となるでしょう。

その間は飼主様の介護が必要となりますから、これからの術後管理が重要になります。

ランちゃん、お疲れ様でした!

この記事を書いた人

伊藤 嘉浩

伊藤 嘉浩

“小さくてもひとつのいのち”をスローガンに命あるもの全ての治療に全力を注いでいきたいと考えています。

動物医療は我々、獣医師と飼い主様、動物の3者が協調しあうことでよい治療結果が生み出せると考えます。

治療に先立ち徹底したインフォームド・コンセントを心がけております。