ウサギの橈尺骨骨折(その1 外固定)

本日ご紹介するのはウサギの前腕骨(橈尺骨)骨折です。

この橈尺骨骨折はウサギに限らず、犬でもよく遭遇する骨折です。

細く繊細なウサギの骨だけに手術の難易度は高く、また術後管理にも気を遣います。

ネザーランドドワーフのラテちゃん(雌、7か月齢、体重1.4kg)は左前足がつかないとのことで来院されました。

触診をするとどうやら骨折をされているようです。

早速、レントゲン撮影を実施しました。

下写真の黄色丸が骨折している箇所です。

橈骨・尺骨が共に折れています。

特に橈骨は生木骨折のようです。

犬であれば橈尺骨骨折は、プレートによる内固定か、骨髄ピンによるピンニングか、創外固定法を選択する場合が多いです。

ウサギは犬に比べて骨組織が脆弱でプレート固定で再骨折するケースもあります。

ラテちゃんは非常に活動的なウサギで、プレート固定には不安があります。

創外固定法にしても体が小さなウサギですから、患部に突出した創外ピンが色んな場所で引掻けたり、ぶつけたりして破壊されないか不安です。

飼い主様とも相談して、ギブスによる外固定で骨癒合まで持っていこうという方針になりました。

後肢は関節部の可動域が広く、比較的外固定に適していますが、前肢はまっすぐ下に降りていますのでギブス装着の難易度は高いと言えます。

これまでにも何度か、ご紹介させて頂きましたが外固定の副子として包帯状熱可塑性キャスト材 レナサームを使用しました。

いづれにせよ、外固定であれ骨折整復手術であれ、全身麻酔を施します。

ガス麻酔でラテちゃんを寝かせます。

骨折のため、骨折部を中心に前腕部が腫脹しています。

趾端にサージカルテープであぶみを付けます。

前腕部にストッキネットを装着します。

次にシルキーテックスをストッキネットに巻き付けます。

キャストパッドプラスを最後に巻き付けます。

骨折部をレナサーム(下写真)で外副子(スプリント)代わりに成形して装着します。

必要な長さをカットして熱湯中にレナサームを入れます。

3分でレナサームは軟化しますので、速やかに外副子を成形します。

軟化してから4分で硬化が始まります。

この外副子による固定では、ギブス固定の様に血流障害は起こりにくく、皮膚の弱いウサギには理想的です。

外固定は骨折部を挟んで2か所の関節を固定して治療が始まります。

今回の様に橈尺骨遠位端骨折の場合は、手根関節と肘関節をこのレナサームで固定します。

外固定後の患部のレントゲン写真です。

物理的な構造として、肘を少し屈曲した姿勢で、外固定をしないとそのままレナサームは脱落してしまいます。

ラテちゃんは活動的なので、この外固定をいつまで維持できるものか不安です。

伸縮包帯によるテーピングを、皮膚の血流障害を招かない程度の力で行います。

外固定で安定するのを期待していたのですが、なんと翌朝、外副子ごと前足から外れていました。

非常に残念ですが、正攻法で骨折整復にあたることに進路変更することにしました。

創外固定による橈尺骨整復手術を実施することになりました。

この創外固定手術の模様は次回のウサギの橈尺骨骨折(創外固定法)でお伝えします。

この記事を書いた人

伊藤 嘉浩

伊藤 嘉浩

“小さくてもひとつのいのち”をスローガンに命あるもの全ての治療に全力を注いでいきたいと考えています。

動物医療は我々、獣医師と飼い主様、動物の3者が協調しあうことでよい治療結果が生み出せると考えます。

治療に先立ち徹底したインフォームド・コンセントを心がけております。