ウサギのハエウジ症(その2)

今年の夏も色んな疾病の動物達の治療に関わって来ました。

その中でも体感的に辛かった疾病にハエウジ症があります。

外陰部や肛門周囲を不衛生な状態にほっておきますとハエが卵を患部に産み付け、孵化したウジが患部を穿孔して皮膚から皮下組織、場合によっては筋肉層まで侵入します。

以前、ウサギのハエウジ症を紹介させて頂きました。

興味のある方はこちらもご参照下さい。

ネザーランドドワーフのおはぎ君(雄、4歳)は食欲不振から虚脱(ショック)状態に陥り、来院されました。

体温も40度あり、熱中症の疑いが認められました。

点滴やステロイドの投薬をして経過観察としましたが、その2日後に再診で来院されました。

2日前と比べて症状は多少改善はありますが、活力の低下は否めません。

腐敗臭が陰部周辺(下写真黄色丸)から漂ってきましたので、患部を確認したところハエウジの感染が認められました。

下写真の矢印が示すのがウジです。

おはぎ君の陰嚢の下側に多数のウジが皮膚を食い破って侵入しています。

毛が密生していますので、パッと見では気付かないかもしれません。

まずは、鉗子でウジを一匹づつ掴んで取り除いていきます。

ハエウジの動きは俊敏で一瞬で被毛の裏側や欠損している皮膚の中へ潜りこみます。

鉗子でつまみ出す行為自体が煩雑で苦労します。

ざっと取り除いたウジは軽く100匹を超えました。

ウジに荒らされた陰嚢周辺部です。

皮膚がウジにより、裂けて食い破られて、精巣が露出しています。

最後に洗面器の中に下半身を漬けて患部を洗浄します。

患部洗浄処置後のおはぎ君です。

疼痛のためか体に力が入らない状態です。

患部からは滲出液が出てきて、若干の腫脹が認められます。

今後は患部を洗浄消毒を繰り返して、抗生剤の投薬や褥瘡・皮膚潰瘍治療剤のイサロパンを患部に散剤します。

2日後のおはぎ君です。

患部はイサロパンで白くなっていますが、膿が固着しています。

5日後のおはぎ君です。

患部の腫脹が進行してます。

加えて、便や尿が患部を汚染して衛生的に管理することが困難な状態です。

14日後のおはぎ君です。

患部は肉芽組織が形成されて、一部痂皮(かさぶた)が形成されています。

イサロパンの効果もあり、炎症で滲出液がジワジワ出ていた状態はクリア出来ました。

26日後のおはぎ君です。

患部は綺麗になっています。

陰嚢の裏側は痂皮形成がありますが、それももうすぐ脱落して新生した皮膚組織に変わると思われます。

ハエがあらゆる動物に卵を産み付けるわけではありません。

産卵の対象となるのは、衰弱して近々に死亡するであろう動物です。

今回、おはぎ君は熱中症と思しき症状で全身状態が悪く、排尿排便の切れが悪く陰部・肛門部が汚れていたのがいけなかったと思われます。

熱中症は幸い軽度であり、おはぎ君の回復と共にハエウジによる障害は改善しました。

高温多湿な時期は、ウサギに限らず犬猫であっても陰部・肛門周囲は衛生的に保つように心がけて下さい。

おはぎ君、お疲れ様でした!

この記事を書いた人

伊藤 嘉浩

伊藤 嘉浩

“小さくてもひとつのいのち”をスローガンに命あるもの全ての治療に全力を注いでいきたいと考えています。

動物医療は我々、獣医師と飼い主様、動物の3者が協調しあうことでよい治療結果が生み出せると考えます。

治療に先立ち徹底したインフォームド・コンセントを心がけております。