ウサギの膀胱結石(シュウ酸カルシウム結石)

本日、ご紹介しますのはウサギの膀胱結石(シュウ酸カルシウム結石)です。

ウサギの砂粒症膀胱結石については以前にコメントさせて頂きました。

詳細は上文の下線部をクリックしてご覧ください。

ウサギのクー君(5歳10か月、去勢済)は食欲不振と排尿が出来ていないとのことで来院されました。

脱水が進行している点と軽い虚脱状態に陥っている点が気になります。

食滞も含めて全身状態を確認するためにレントゲン撮影を実施させて頂きました。

下写真の黄色丸の箇所は膀胱です。

下に膀胱を拡大した像を載せます。

次に側臥の状態のレントゲン像です。

同じく拡大像です。

膀胱内に存在しているのは、膀胱結石です。

細かな大小さまざまな結石が認められます。

クーちゃんが排尿が上手くできていないのは、この結石が原因と思われます。

採尿した尿を顕微鏡で確認しました。

正八面体の形状をした結晶が下写真黄色丸に認められます。

これは、シュウ酸カルシウムの2水和物の結晶体です。

この結晶体以外にも赤血球や剥離した膀胱粘膜上皮細胞が認められます。

クーちゃんは尿石症に加えて膀胱炎にもなっています。

排尿障害がある場合は、腎不全が絡んできますので血液検査が必要ですが、血圧低下のため採血が十分量取れませんでした。

クー君は食欲不振になってから1週間ほど経過していますので、このまま内科的治療で改善できるか、非常に悩ましい状況です。

飼主様のご希望もあり、排尿障害を解除するために膀胱結石の摘出手術を実施することにしました。

頭側皮静脈に留置針を入れ、点滴のラインを確保します。

ガスマスクでイソフルランによる導入・維持麻酔を行います。

膀胱切開時に生理食塩水で膀胱内を洗浄するために、挿入できる範囲で尿道カテーテルを留置します。

クー君は全身麻酔が効いて来たようです。

膀胱にアプローチできるように皮膚切開します。

下写真の黄色丸は膀胱です。

メスで膀胱を切開して行きます。

膀胱切開と同時に尿道カテーテルから生理食塩水をフラッシュして、膀胱を洗い流します。

すると膀胱の奥の方から、下写真の黄色矢印のように結石が出て来ました。

外部からも生理食塩水で膀胱を洗います。

思いのほか、多数の結石が詰まっています。

膀胱内の結石を全て取り出したものです。

のちほど結石を乾燥させたものが下写真です。

シュウ酸カルシウム結石であることが判明しました。

結石を摘出した膀胱を縫合して行きます。

膀胱の縫合が完了したところで、漏れがないか注射器に入れた生理食塩水を注入して確認します。

生理食塩水の漏出も認められませんでした。

最後に閉腹して手術は終了します。

血液検査による腎機能の確認が出来ていなかったのが気がかりですが、クー君は無事覚醒しました。

手術翌日のクー君です。

まだ食欲はなく、スタッフが強制給餌をします。

術後2日目になると盛んにケージ内を動き回れるようになりました。

食欲も出て来ました。

2枚重ねにした食器を咬んで振り回したりしています。

先日までの不調が嘘のようです。

もう数日で元気に退院できるものと思っていたのですが、術後3日目には再び動かなくなり、食欲もなくなりました。

クー君は術後4日目にして急逝されました。

腎不全が原因でした。

5年にわたるお付き合いをさせて頂いた子なので本当に残念です。

元気な姿で飼主様のもとにお返しすることが出来ませんでした。

犬や猫と異なり、ウサギは病状を初期のステージでは表に出すことは少ないと思います。

特に排尿回数や量については、よほど気を付けないと見過ごす可能性は高いでしょう。

ウサギに限らず、エキゾチックアニマルは病状が進行してから治療がスタートすることが殆どとなります。

日常から排便排尿は気を付けて見て頂くことと、犬猫同様に5歳を過ぎたら健康診断を兼ねてレントゲン検査や血液検査を受けられることを強くお勧めします。

この記事を書いた人

伊藤 嘉浩

伊藤 嘉浩

“小さくてもひとつのいのち”をスローガンに命あるもの全ての治療に全力を注いでいきたいと考えています。

動物医療は我々、獣医師と飼い主様、動物の3者が協調しあうことでよい治療結果が生み出せると考えます。

治療に先立ち徹底したインフォームド・コンセントを心がけております。