ウサギの乳腺腺癌

本日ご紹介しますのは、ウサギの乳腺腺癌です。

ウサギの乳腺は腫瘤が形成されるケースは多く、高齢になるにつれ乳腺腫瘍の発生率は高くなります。

ホーランドロップのハナちゃん(雌、7歳、体重1.25kg)は左腋下に大きな腫瘤があるとのことで来院されました。

肉眼所見では第1,2乳房周辺の乳腺腫瘍と思われました。

7歳と言う年齢もあり、乳腺腫瘍が肺野に転移していないか、レントゲン撮影を実施しました。

下写真の黄色丸が乳腺腫瘍を表します。

大きな腫瘍であることがお分かり頂けると思います。

ハナちゃんの胸部写真では、肺への腫瘍転移は認められません。

今回は下腹部のレントゲン写真を載せていませんが、子宮の腫大はなく子宮腺癌の可能性は低いと思われます。

飼い主様の了解を頂き、このまま乳腺腫瘍を外科的に摘出することとしました。

イソフルランで維持麻酔をしているハナちゃんです。

患部周辺を剃毛した患部です。

黄色矢印で示しているのが乳腺腫瘍です。

切除するラインを黒マジックで示してます。

患部の拡大写真です。

左前脚の拳上状態を維持するためにテープで固定をします。

左前足を上方へ牽引して、腫瘍の切除を進めます。

皮膚を硬性メスで切皮し、腋下の動静脈を回避しながら腫瘍を剥がしていきます。

電気メス(バイポーラ)で患部の止血と切開を行います。

皮膚切開して、直下に乳腺腫瘍が確認できます。

乳腺に分布している血管をバイクランプでシーリングします。

乳腺に走行している血管は多く、電気メスで止血・切開を繰り返します。

乳腺腫瘍を傷つけないように鉗子でさらに剥離をします。

ハナちゃんの乳腺腫瘍は2つの腫瘤で構成されていました。

ほぼ摘出を終了しかけている状態(黄色丸)です。

全体像から見て大きな腫瘍であるのが分かります。

腫瘍摘出は完了しました。

皮膚欠損部が大きいため、皮膚が綺麗に癒合できるよう皮膚と皮下組織を鈍性に剥離して、皮膚を伸展しやすいようにします。

その上で、縫合を細やかに行います。

術部が、腋下部に当たりますから、前足を駆動するたびに縫合部にテンションがかかります。

縫合部の皮膚が伸張し、自然な前足の動きに戻るまで、一か月はかかると思われます。

皮膚縫合は完了です。

麻酔から覚醒したハナちゃんです。

全身麻酔から覚醒した後にICUの部屋に入院して頂きました。

覚醒後の食欲も認められましたのでホッとしました。

摘出した乳腺腫瘍です。

腫瘍にメスで割を入れました。

一部、石灰化して硬い組織が確認されました。

病理標本です。

低倍率の画像ですが、乳腺組織と近接して真皮表層に及んで広がるがん病巣が形成され、皮膚面は一部で自壊しています。

中等度の拡大像です。

病巣内では、異型乳腺上皮細胞が不整に重層化する腺管状から胞巣状で増殖しています。

高拡大像です。

一部の癌細胞は扁平上皮で分化しています。

細胞異型性は中等度からやや高度とのことです。

また癌細胞のリンパ管浸潤像が散見されました。

今回、腺癌に相当する上皮性の悪性腫瘍が認められ、発生部位から乳腺癌との病理医からの診断でした。

切除断端部には癌細胞は認められず、標本上は完全切除されているとのことです。

しかしながら、リンパ管に癌細胞が浸潤している所見があるため、再発や領域リンパ節・肺への転移が今後起こる可能性があります。

退院時のハナちゃんです。

元気に退院して頂きました。

退院後の抜糸時の模様です。

乳腺腫瘍は飼主様が気づかれた時点で、既に腫瘍が肺に転移しているケースが多いです。

犬や猫と比較して、ウサギはスキンシップが密でないため、患部の腫大に気づいていない飼主様が非常に多いのも事実です。

毎回申しあげていますが、早期に避妊手術を行うことで、子宮腺癌も乳腺腫瘍も防ぐことが出来ます。

シニア世代になってから、辛い思いをさせないよう、ウサギにも避妊手術を受けさせてあげて下さい。

ハナちゃん、お疲れ様でした!

この記事を書いた人

伊藤 嘉浩

伊藤 嘉浩

“小さくてもひとつのいのち”をスローガンに命あるもの全ての治療に全力を注いでいきたいと考えています。

動物医療は我々、獣医師と飼い主様、動物の3者が協調しあうことでよい治療結果が生み出せると考えます。

治療に先立ち徹底したインフォームド・コンセントを心がけております。