ウサギの子宮腺癌(その8 子宮水腫を伴う症例)

本日ご紹介しますのは、ウサギの子宮腺癌です。

雌のウサギは、5歳前後からの子宮疾患が非常に多く、腺癌の発症率がその大部分を占めます。

今回で子宮腺癌の症例報告も8例目になりますが、合併症で子宮水腫を認めたケースです。

当院での子宮腺癌に関わる記事に興味のある方はこちらをクリックして下さい。

雑種のくろちゃん(雌、4歳10か月齢、体重2.5kg)は腹部が大きく腫れてきたとの事で来院されました。

下写真黄色矢印が示すように腹部は腫大し、横にも膨満しているのがお分かり頂けると思います。

レントゲン撮影を実施しました。

レントゲン像の黄色矢印は内容物で高度に腫大した子宮を示します。

側臥の状態です。

黄色丸が内容物で腫大した子宮の側面を表しています。

エコーで患部を調べてみました。

下エコー像は子宮内に液体が多量に貯留しているのを示します。

黄色矢印は炎症で剥離しかけている子宮内膜や腫瘤と思われます。

レントゲンとエコーから子宮水腫の可能性が疑われました。

水腫以外にも何らかの産科疾患が隠れているかもしれません。

腫大した子宮が胃腸を圧迫するため、クロちゃんは元気・食欲が極端に落ちているとのことです。

飼い主様の了解を頂き、卵巣・子宮全摘出を実施することとしました。

点滴のラインをつなぎ、メデトミジン・ケタラールの麻酔前投薬処置を施し、イソフルランで維持麻酔を行っています。

下写真の剃毛部が大きく腫れている(黄色矢印)のがお分かり頂けると思います。

下腹部の正中線にメスを入れます。

腹筋の下に認められるのは、腫大した子宮です。

慎重に子宮を体外に出していきます。

左子宮角が捻転して右側に変位していました。

メスの柄の目盛で比較すると子宮角の大きさがイメージ出来ると思います。

卵巣子宮をこれから全摘出します。

バイクランプを使用して卵巣動静脈をシーリングします。

下写真黄色丸は腫大した左卵巣を示しています。

卵巣に病変があるのは明らかです。

卵巣動静脈、子宮間膜動静脈を順次シーリング、離断を展開していきます。

両側の卵巣動静脈をシーリングし、メスで離断した後に両側卵巣、子宮角、子宮頚部を体外に出したところです。

両側の卵巣は結節状に腫大(黄色丸)しており、左の子宮角は水腫(黄色矢印)を呈していました。

子宮頚部を結紮し、離断、断端部の縫合をして卵巣・子宮全摘出が完了します。

腹筋を縫合します。

最後に皮膚を縫合して終了です。

クロちゃんのお腹周りがスッキリしたのがお分かり頂けると思います。

全身麻酔から覚醒直後のクロちゃんです。

ほどなく意識はしっかり戻られました。

摘出した卵巣・子宮の重量は447gありました。

体重の5分の1にあたる重量です。

随分、お腹が重かったと思われます。

左子宮角はほぼ正常な太さを保っていますが、内出血を伴いうっ血色を呈しています。

左卵巣は正常卵巣の4~5倍の大きさを示しています。

右卵巣は大きく腫大した子宮角で隠れていますが、正常の大きさを保っています。

左卵巣に割を入れたところです。

割面は膨隆しています。

右子宮角を切開し、内容物を確認します。

明らかな子宮水腫で、内容物はさらっとした漿液です。

子宮水腫は黄体期を含めたすべての発情ステージで生じるため、発症要因としてのプロジェステロンをはじめとする性ホルモンの関わりは不明とされてます。

摘出した臓器を病理検査に出しました。

病理医からの診断は子宮腺癌(悪性腫瘍)でした。

左卵巣の低倍率像です。

下は中等度の倍像です。

左卵巣では、充実性の癌増殖巣が形性され、癌細胞群は腺管状の配列を呈しています。

一部、骨軟骨巣に転じている組織も認められます。

高倍率像です。

卵円形異型核を持つ内膜上皮様の癌細胞です。

左卵巣の病理像を載せましたが、両子宮角も同様に癌細胞が浸潤していました。

子宮内膜由来の子宮腺癌であり、左卵巣を巻き込んだ可能性が示唆されるとのことです。

病巣は切除した組織断端に露出しておらず、完全切除であるとの診断です。

手術前のレントゲン撮影では、肺野の癌転移は認められませんでしたが、クロちゃんは腫瘍細胞の播種性転移やリンパ節転移については今後のモニターリングが必要です。

クロちゃんは3日間の入院後、元気に退院して頂きました。

2週間後に抜糸で来院されたクロちゃんです。

毎回、子宮腺癌の報告例で申し上げておりますが、雌のウサギは1歳前後には避妊手術をお勧めします。

早期の避妊手術で子宮腺癌の発症を抑えることが可能です。

今回のクロちゃんも大変な思いをして手術を受けられたと思いますが、開腹した時点で主要臓器に腫瘍が転移しているケースもあります。

クロちゃん、お疲れ様でした!

この記事を書いた人

伊藤 嘉浩

伊藤 嘉浩

“小さくてもひとつのいのち”をスローガンに命あるもの全ての治療に全力を注いでいきたいと考えています。

動物医療は我々、獣医師と飼い主様、動物の3者が協調しあうことでよい治療結果が生み出せると考えます。

治療に先立ち徹底したインフォームド・コンセントを心がけております。