ウサギの乳腺単純癌

本日ご紹介しますのはウサギの乳腺腫瘍です。

ウサギの乳腺腫瘍は、犬のように病理学的分類の整理はされていません。

犬の乳腺腫瘍分類上の悪性腫瘍である乳腺単純癌に類似しているウサギの症例報告をさせて頂きます。

ネザーランドドワーフのラッキーちゃん(雌、2歳4か月、体重1.5kg)は、数週間前から下腹部に出来た腫瘤が次第に大きくなったので来院されました。

腫瘤を確認しますとかなりの大きさです。

腫瘤の位置から尾側乳腺の腫瘍と思われます。

腫瘤の内部を確認するためにエコー検査を実施しました。

腫瘤の内部には液体(漿液か血液か膿かは判断できません)が貯留しています。

下写真がエコー像です。

黄色矢印が腫瘤内の液体(黒い領域)を示します。

エコー検査の結果から乳腺腫瘍であることは間違いなく、飼主様の了解を頂き摘出手術を実施することとなりました。

手術前にレントゲン撮影を行い、肺野に乳腺腫瘍が転移していないことを確認しました。

さて、ラッキーちゃんにイソフルランによる全身麻酔をかけます。

患部の剃毛処置をします。

剃毛をすると腫瘍の大きさが把握できると思います。

下写真黄色矢印で示しているのが乳腺腫瘍です。

慎重に患部を切皮していきます。

乳腺は血管が多数走行してますので、電気メス(バイポーラ)で止血と同時に患部を切開して行きます。

少しづつ腫瘍の全容が現れて来ました。

乳腺に走行している太い血管については、バイクランプでシーリング処置をします。

腫瘍は2つの乳腺(右第2,3乳房)に跨る形で発生しており、乳腺下の筋肉層までの浸潤は認められませんでした。

乳腺ごとまとめて腫瘍の摘出が完了しました。

少しドレープをずらして、患部を撮影しました。

腫瘍自体が大きいこととある程度のマージンを取った点で、皮膚欠損は大きなエリアを占めているのがお分かり頂けると思います。

患部の皮膚には、テンションをかけての縫合が必要となりました。

皮膚縫合は無事終了しました。

全身麻酔から覚醒したばかりのラッキーちゃんです。

覚醒も無事出来て、ひとまず安心です。

下写真は摘出した乳腺腫瘍です。

長軸は7㎝ちかくの大きさがありました。

短軸は4.5㎝あります。

右第2、3乳房の乳首が認められます(黄色丸)。

第2と3乳房間に生じた乳腺腫瘍です。

エコー像ではこの内部に液体が貯留しているのが分かっていましたので、メスで割を入れてみました。

下写真のように内部からは、大量の滲出液が出て来ました。

病理検査の写真(中等倍率)です。

内部が空洞状になった腫瘤は、異型性の明らかな上皮細胞の胞巣状・索状の管状増殖で構成されていました。

高倍率写真です。

腫瘍細胞(乳腺の分泌上皮細胞)は分裂頻度が非常に高く、悪性度の高い腫瘍と病理医からの診断でした。

局所的にここまで増大している点と周辺の脈管内に腫瘍細胞の浸潤が認められない点から、遠隔転移の可能性は低いそうです。

今後は定期的に健診が必要です。

術後、抜糸に来院されたラッキーちゃんです。

術後の経過も良好です。

ウサギも犬同様、早い時期(1歳未満)に避妊手術を受けることで乳腺腫瘍を高率に回避出来ます。

肺に転移するケースもありますので、未避妊ウサギは要注意です。

ラッキーちゃん、お疲れ様でした!

この記事を書いた人

伊藤 嘉浩

伊藤 嘉浩

“小さくてもひとつのいのち”をスローガンに命あるもの全ての治療に全力を注いでいきたいと考えています。

動物医療は我々、獣医師と飼い主様、動物の3者が協調しあうことでよい治療結果が生み出せると考えます。

治療に先立ち徹底したインフォームド・コンセントを心がけております。