ウサギの肺腺癌(子宮腺癌からの転移)

本日ご紹介しますのは、ウサギの肺腺癌です。

犬猫もそうですが肺の腫瘍は、治療は極めて困難を極めます。

以前もウサギの肺腫瘍という表題で記事を書いております。

ウサギでは珍しい原発巣としての肺腫瘍です。

興味のある方はこちらをクリックして下さい。

ミニウサギのハナちゃん(8歳、避妊済、体重1.6kg)は呼吸が辛そうとのことで来院されました。

このハナちゃんは、今回来院の20か月前に血尿が酷いとのことで診察を受けられています。

子宮疾患(子宮水腫、子宮腺癌)で外科的に卵巣・子宮を全摘出しました。

その時の模様は、ウサギの子宮水腫(その2・著しき高度水腫)という表題で記事を載せてましたので興味のある方はこちらをクリックして下さい。

さて、ハナちゃんですが、20か月前の手術の模様と摘出した子宮の写真を以下に載せます。

ハナちゃんの腹部が非常に腫れ始めている点と血尿からエコーで子宮を確認したところ、大量の水が子宮内に貯留しているのが判明しました。

子宮内には腫瘤がいくつも存在していることから、速やかに卵巣・子宮摘出を実施しました。

腹部を切開したところ、高度の水腫を呈した子宮が確認できます。

この時、ハナちゃんは全身状態も良好で手術にも十分耐えられる状態でした。

術後の経過もよく、術後4日目に退院して頂きました。

退院時のハナちゃんです。

摘出した子宮ですが、切開したところ水(水色矢印)が溜まっています。

また子宮内膜が肥厚して変性壊死を起こしています(黄色矢印)。

子宮内膜が肥厚している部位を切開した写真です。

これは、のちに子宮腺癌であることが判明しました。

以上のように20か月前は大変な手術を乗り越えたハナちゃんでしたが、現在は呼吸不全にあります。

ウサギの20か月はヒトでは、15年間に匹敵します。

ヒトでも15年間、病気と無縁の方は少ないと思います。

レントゲン撮影を実施しました。

仰向けの画像です。

下写真黄色丸は胸部ですが、すりガラスの様に白くなっています。

肺野を拡大した写真です。

肺野には白点の粟粒性病変が認められます。

側臥の写真です。

同じく黄色丸が肺野ですが、広範囲にわたる肺病変のため、心臓のシルエットを認識するのが難しいです。

腫瘍による転移性肺疾患の場合は、このような間質パターンを示します。

この状態ですと今後のハナちゃんの経過は思わしくありません。

ウサギの様に胸腔が狭い動物は、突発性の呼吸不全で死亡するケースも多いです。

子宮腺癌の疑いのある事例では、手術前に胸部レントゲン撮影を行います。

20か月前のハナちゃんは特に胸部の異常所見はありませんでした。

今回の様に卵巣・子宮摘出後に長い時間を経て、肺に腫瘍が転移するケースは珍しいと思います。

肺が腫瘍の原発巣という可能性もないとは言えませんが、極めて可能性は低いです。

寧ろ、長い時間を経て少しづつ腫瘍が血中に入り、肺野で増殖したとみるべきでしょう。

今回の事例で私がお伝えしたいのは、子宮腺癌になってから卵巣・子宮全摘出手術を受けても、完全に多臓器への転移はブロックできるとの保証はないということです。

つまりは、1歳までに避妊の手術を受けて頂くのが最善の策と言えると思います。

この記事を書いた人

伊藤 嘉浩

伊藤 嘉浩

“小さくてもひとつのいのち”をスローガンに命あるもの全ての治療に全力を注いでいきたいと考えています。

動物医療は我々、獣医師と飼い主様、動物の3者が協調しあうことでよい治療結果が生み出せると考えます。

治療に先立ち徹底したインフォームド・コンセントを心がけております。