ウサギの子宮腺癌(その7)

本記事でご紹介しますのはウサギの子宮腺癌です。

これまでにも多くの子宮腺癌の症例をご紹介させて頂きました。

これも、避妊手術を早期に実施することで回避することのできる疾病であることを、なるべく多くの飼主様に知って頂くために載せております。

ミニレッキスのミミちゃん(8歳、雌、体重3.0kg)は半年前から血尿が続くとのことで来院されました。

年齢からおそらくは子宮疾患が関与していると推察され、レントゲン撮影を行いました。

下写真の黄色丸の部位から子宮のマス(腫瘤)の存在が疑われます。

肺野には肺腺癌を疑う所見はありません。

半年間、血尿が不定期に出たり、治まったりを繰り返していたとのことです。

元気食欲はあるとのことで、手術に十分体力的にも耐えられると判断し、卵巣・子宮全摘出手術を勧めさせていただきました。

ミミちゃんをイソフルランによる維持麻酔で寝かせているところです。

患部の剃毛をします。

ウサギのような草食動物の場合は、手術台を平面のままでいますと胃腸の重さで横隔膜が圧迫されて、場合により心拍が停止することもあります。

それを防止する意味もあり、手術台を少し傾斜させて手術に臨みます。

腹筋を切開します。

開腹直後に腹腔内現れたのは、暗赤色を呈した子宮です。

下写真黄色丸が右子宮角に発生した腫瘤です。

おそらく子宮腺癌と思われます。

かなり大きな腫瘤であることがお分かり頂けると思います。

拡大像です。

卵巣の動静脈をバイクランプを用いてシーリングします。

80℃の熱で変性した動静脈や脂肪をメスで離断していきます。

卵巣動静脈や子宮間膜からの出血は全くありません。

摘出した卵巣・子宮を体外に出した写真です。

うっ血色は子宮角内に血液が貯留してることを意味します。

子宮頚部を鉗子で挟んで外科鋏で離断します。

子宮頚部の離断端を縫合して卵巣・子宮全摘出は終了です。

下写真で縫合部の下部は膀胱です。

次いで、腹筋を吸収糸で縫合します。

皮膚をナイロン糸で縫合します。

全ての処置が終了して、イソフルランの流入を停止します。

なお、下写真でスタッフが肉垂(頚部のマフラーのような脂肪の溜まってる部位)をつまんでいるのは、肉垂の自重で気道が圧迫され呼吸不全を起こすのを防ぐためです。

麻酔導入時に鎮静化のため投薬したメデトミジンを中和するためにアチパメゾールを静脈から投薬します。

数分内に覚醒します。

体を起こすところまで意識が戻って来ました。

完全に覚醒したミミちゃんです。

ミミちゃんは3日ほど入院の後、退院されました。

手術後には血尿は止まり、また退院後も元気・食欲も良好です。

下写真は抜糸のため、2週間後に来院されたミミちゃんです。

バリカンで剃毛した跡は、既に下毛が生え始めています。

抜糸が完了しました。

さて、前出の手術中の写真で黄色の丸で囲んだ右子宮角の腫瘤状病変について病理検査を実施しました。

結果として、多発性子宮腺癌(子宮内膜癌)であることが判明しました。

下写真はその病変部を切開したところです。

断面は子宮壁が肥厚・膨隆して血管が密に走行しています。

子宮角の他の部位にも腫瘍性の腫瘤が形成されていました。

顕微鏡の所見です(低倍)。

子宮内膜はびまん性に過形成されています。

中拡大像です。

強拡大像です。

異型性の明らかな上皮細胞(癌細胞)の腺管状・乳頭状増殖が特徴です。

子宮腺癌は良く見られる自然発生性腫瘍です。

この腫瘍の発生率は加齢とともに上昇していきます。

2~3歳の雌ウサギの子宮腺癌発生率は4%前後ですが、5~6歳では発生率は80%前後に上昇したという報告があります。

いずれにせよ、なるべく早い時期(1歳位までに)に避妊手術を受けて頂き、子宮腺癌にならないよう気を付けて頂きたいと思います。

子宮腺癌から腫瘍が肺に転移する事例もあります。

今回、半年と言う長い期間の血尿とのことですから、腫瘍の腹腔内播種はなかったようで幸いでした。

ミミちゃん、お疲れ様でした!

この記事を書いた人

伊藤 嘉浩

伊藤 嘉浩

“小さくてもひとつのいのち”をスローガンに命あるもの全ての治療に全力を注いでいきたいと考えています。

動物医療は我々、獣医師と飼い主様、動物の3者が協調しあうことでよい治療結果が生み出せると考えます。

治療に先立ち徹底したインフォームド・コンセントを心がけております。