ウサギは生態系では被捕食者であり、ストレスに非常に弱いため、手術のような強いストレスでショックを起こすこともあります。
麻酔の基本である気管挿管が非常に難しく、ガスマスクによる自己の呼吸に維持麻酔を委ねざる得ないこともあります。
当然、ガス麻酔(イソフルラン)は臭いので息を止めたりします。
よってなかなか麻酔の安定までに時間がかかります。
雌ウサギに特有な肉垂(ちょうどマフラーのように首周囲に存在しています)が気道を圧迫して呼吸停止を招く場合もあります。
麻酔時の死亡率を統計的に%で表したものを麻酔関連偶発死亡率といいます。
論文等で報告されているのは、犬で0.17%、ウサギで1.39%です。
なんと犬の約10倍近い麻酔事故がウサギにはついて回るようです。
さて長々と前ふりを書き連ねて参りましたが、本日ご紹介するのはドワーフホトのパフちゃんです。
飼主様が雌は将来的に産科の疾患で死亡するケースが多いことから避妊手術をご希望されました。
問題は体重が800gしかない小型のウサギであることです(下の写真参照)。
術前には十分な酸素化を必要としますのでICUに入ってもらい、40%の酸素分圧下で酸素を補給します。
もし何らかの原因で呼吸停止した場合、酸素化してあれば蘇生が数分であれ余裕を持って挑むことが出来ます。
先に述べた様々な要因を考慮しつつ、手術を実施しました。
上写真が子宮です。
黄色い矢印は卵巣です。
緑色の矢印はバイクランプで卵巣動静脈をシーリングしているところです。
ウサギの卵巣周りは非常に脆弱な組織で注意をしないと裂けてしまいますので、このバイクランプは非常に効率的に手術を進行できます。
緑の矢印はバイクランプでシールされた卵巣動静脈です。
綺麗に熱変性されています。
シーリングされた箇所をメスでカットします。
反対側の卵巣も同じくシーリングし、子宮間膜を縫合糸で結紮します。
ウサギの子宮間膜は脂肪で覆われていますので、その中にある血管に十分な注意が必要です。
加えて子宮頚部を結紮して、卵巣子宮の全摘出(下写真)を終了しました。
麻酔から無事覚醒し、呼吸も安定するまで油断が出来ません。
覚醒後は高濃度の酸素を供給できるICUに移動しました。
ウサギの場合、手術前も後もしっかり食餌が取れるようにしておきます。
術後の疼痛もあり、神妙な面持ちのパフちゃんです。
翌日のパフちゃんですが、しっかり水も食餌も取れるまでに回復しました。
飼主様がお迎えに見えて、無事お返しすることが出来ホッとしました。
私はこれまで避妊手術を施したウサギの中ではこのパフちゃんは最軽量です。
小さすぎて血管を確保することが出来ませんでしたし、メデトミジン、ケタラールによる麻酔導入とイソフルランの麻酔維持で乗り切ることが出来ました。
ウサギの手術は犬のそれと比較して倍以上の気を配って対応させて頂いてます。