ウサギの子宮水腫(その2・著しき高度水腫)

この時期は動物病院は繁忙期になります。

狂犬病ワクチン接種やフィラリア予防等などで飼主の皆様には、長時間御待ち頂きご迷惑をおかけしてます。

私自身も連日の手術でブログを更新することが出来ずにいます。

読者の皆様にしばらく新作をお届けできなくてすみませんでした。

本日、やっと載せることが出来ます。

ご紹介させて頂きますのはウサギの子宮水腫です。

かなり進行して、よくこれだけのものが腹腔に納まっていたなという高度の子宮水腫です。

ミニウサギのハナちゃん(雌、7歳)は突然、倒れるとのことで来院されました。

診察中、陰部から出血が認められた(下写真)ので子宮疾患を疑いました。

まずはエコーで腹部をチェックします。

下のエコー写真で、黄色矢印は子宮の中に水が貯留しているのを示します。

加えて黄色丸は子宮内の腫瘤を示します。

いずれにせよ、ハナちゃんは子宮疾患、特に高度の子宮水腫に罹患してます。

かなり子宮が腫れているため、血流の循環障害で失神が起きたのかもしれません。

手術に耐えられるか、血液検査(下写真)を実施して問題なかったので外科的に卵巣子宮を摘出することとしました。

いつも通り、橈側皮静脈に点滴用の留置針を入れます。

腹部が腫大しているため、あまり全身状態は良好とは言えません。

麻酔前投薬としてメデトミジン・ケタラールを投薬し、その後イソフルランで維持麻酔します。

麻酔が安定してきましたので、早速手術に移ります。

腹筋を切開したところで大きな子宮が顔を表しました。

卵巣動静脈(下写真黄色丸)をいつものごとくバイクランプでシーリングします。

シーリングした卵巣動静脈は縫合糸で結紮することなく、メスで離断でき出血はありません。

両側の卵巣を離断して、子宮角から子宮体までを体外に出したところです。

子宮自体がすでにうっ血色を呈しています。

ついに子宮頚部を縫合糸で結紮してメスで離断します。

腹筋・皮膚を縫合して、手術は終了です。

摘出した子宮とハナちゃんを並べて比較しました。

ハナちゃんの体重が1.5kgで子宮の重さは250gでした。

いかに子宮水腫が大きいものであるか、お分かり頂けると思います。

イソフルランを切りますと、ハナちゃんはほどなく覚醒を始めました。

覚醒直後のハナちゃんです。

お腹がかなりスッキリしましたね。

ただあれだけの大きな子宮水腫ということは、循環血流量も一挙に減少することを意味しますので、これからが要注意です。

ショック死することもあり得ます。

術後3時間のハナちゃんです。

活動性も出て来ました。

さて摘出した子宮です。

子宮角の内容は血漿を主体とした血液成分から構成されてます(下写真青矢印)。

そして変性壊死した子宮内膜が膨隆(下写真黄色矢印)しています。

一部、子宮内膜に腺癌も認められました。

病変部をスタンプ染色しました。

子宮内膜の腫瘍細胞が認められます。

子宮内膜細胞がすでに壊死・融解を起こしてます。

ハナちゃんは術後5日目に退院して頂きました。

食欲も十分あり、排便排尿も問題ありません。

我々に対する威嚇・攻撃性も出て来ました。

退院当日のハナちゃんです。

退院10日後に抜糸のため、来院されたハナちゃんです。

傷口も綺麗に癒合してます。

元気に回復されて、ハナちゃん本当に良かったです。

多くの子宮水腫摘出手術を経験してきましたが、今回はトップクラスの子宮腫大でした。

最後に雌のウサギはシニア世代になると今回の様に産科疾患が多発します。

1歳までに避妊手術を受けられることをお奨めします。

ハナちゃん、お疲れ様でした!

この記事を書いた人

伊藤 嘉浩

伊藤 嘉浩

“小さくてもひとつのいのち”をスローガンに命あるもの全ての治療に全力を注いでいきたいと考えています。

動物医療は我々、獣医師と飼い主様、動物の3者が協調しあうことでよい治療結果が生み出せると考えます。

治療に先立ち徹底したインフォームド・コンセントを心がけております。