ウサギの膣過形成

この3週間ほど休みなく診療に明け暮れていました。

休診日も関係なくほぼ毎日、メスを持って手術をしていました。

そのため、ホームページにかける時間が取れずに読者の皆様、ご迷惑をおかけいたしました。

特に外科に関わるブログネタは30件ほど溜まっておりますので、これから順次載せていきます。

さて、本日ご紹介しますのはウサギの膣過形成の一例です。

ミニレッキスのみかんちゃん(雌、1歳11カ月)は生まれてこの方、陰部から大きくなった腫瘤が排尿時に障害となり、尿かぶれが酷く、常時尿臭を伴っているとのこと。

他院で抗生剤などの内服を処方されているが、改善は認められないとのことで来院されました。

下写真の黄色丸をご覧ください。

拡大写真です。

外陰部からはみ出して、かなり大きな腫瘤が認められます。

おそらく尿道口から排出された尿が四方に飛散して、外陰部に残り尿臭のもとになっているようです。

この外陰部から突出している腫瘤はおそらく膣壁が過剰に形成され、いわゆる過形成という状態になっている可能性が高いと思われました。

まずはこの腫瘤を細胞診しました。

この膣の腫瘤が平滑筋肉腫や扁平上皮癌といった悪性腫瘍でないかの確認が必要です。

幸いなことに腫瘍細胞はなく、膣壁の過形成であることが判明しました。

犬の膣過形成については、年齢が2~3歳以下の若い雌犬に発生が多いといわれています。

犬は発情前期及び発情期に過剰なエストロジェンが分泌され、これによって膣粘膜が浮腫上に肥大し、膣壁が過形成することが原因とされます。

ウサギの膣過形成も同じ原因で起こります。

問題は一旦、性的に成熟したウサギは周年発情動物で、犬の様に発情期というものはそもそもなく、いつも発情しています。

従って、この膣過形成を治療するにあたり、過剰な膣壁を切除して、卵巣・子宮を摘出するのがベストの選択と言えます。

飼い主様のご了解を得て、外科的摘出を行いました。

みかんちゃんに全身麻酔をかけます。

患部を綺麗に消毒・洗浄します。

患部は床面との干渉で表層部が剥離して紅くただれています。

電気メスにより患部を一部切除して、組織内容を確認します。

腫瘤内部は過形成した膣上皮でした。

さらに深部まで切除することとしました。

切除した膣壁の断面です。

特に太い血管の走行はなく、切断面を縫合します。

縫合終了と共に牽引していた鉗子を外すと、患部はそのまま外陰部内へと納まりました。

加えて、みかんちゃんの卵巣・子宮摘出を行います。

みかんちゃんの子宮角には、一部子宮内膜炎による子宮壁の過形成が認められました。

閉腹して手術は終了です。

外陰部も腫瘤はなくなり、見栄えもよくなりました。

術後の経過も良好で、排便・排尿も問題なくできるようになりました。

4日間の入院でみかんちゃんは退院して頂きました。

下は退院前の写真です。

術後1か月のみかんちゃんです。

患部は見て頂いて分かるように腫瘤の再生もなく、綺麗に落ち着いています。

みかんちゃんは生後1か月位からこの膣過形成が始まっていたようです。

当院での手術を受けられるまでの2年近くを、陰部周辺の不快感を持ったまま我慢されてきたことになります。

今後は気持ちよく排尿できると思います。

みかんちゃん、お疲れ様でした。

この記事を書いた人

伊藤 嘉浩

伊藤 嘉浩

“小さくてもひとつのいのち”をスローガンに命あるもの全ての治療に全力を注いでいきたいと考えています。

動物医療は我々、獣医師と飼い主様、動物の3者が協調しあうことでよい治療結果が生み出せると考えます。

治療に先立ち徹底したインフォームド・コンセントを心がけております。