ウサギの子宮腺癌(その5)

新春の第一弾はウサギの子宮腺癌です。

ウサギの子宮腺癌もいろんなケースがあり、今回は症例パターンその5となります。

ネザーランドドワーフのモカちゃん(雌、4歳11か月)は激しい血尿が出るとのことで来院されました。

以前から子宮腺癌の症状として、血尿を第一に挙げさせて頂きましたが、今回はその典型的なものでした。

モカちゃんを預かっている間にも下写真の様に多量の血尿が認められます。

モカちゃん自身の一般状態は良好ですが、レントゲン撮影とエコー検査を実施しました。

下レントゲン写真の黄色丸の部位に腸を下に圧迫している臓器が認められます。

この部位(子宮)にエコー検査をしました。

下写真の黄色丸が内容が液体を示す無エコーで、赤色矢印がその中に存在する軟部組織を表す低エコー像が認められます。

子宮内に恐らく出血があって、腫瘍が増殖しているのではないかと思われました。

出血に伴う貧血も血液検査で認められなかったので、モカちゃんに卵巣・子宮全摘出手術を実施することとなりました。

いつも腺癌の手術は子宮が腫脹してますので、ゆっくり腹筋を切開しないと子宮を傷つけ大出血する場合がありますので、慎重にメスを進めます。

腹筋を広げた状態で、子宮が飛び出してきました。

良く見ると子宮内は出血して、血液が貯留しています。

子宮角は比較的腫脹はありませんが、強い力で牽引することなくバイクランプで卵巣動脈をシーリングしていきます。

下写真は、左右の卵巣動静脈をシーリングして子宮間膜を切開した卵巣と子宮です。

子宮頚や子宮体にかけて出血した血液が貯留しています。

加えて大きく増殖した腫瘍がキノコの様に子宮体に認められます。

子宮体部を結紮し、卵巣子宮を摘出します。

他の臓器に腫瘍が転移していないのを確認した後、閉腹します。

皮膚縫合はステープラーとナイロン糸で実施しました。

イソフルランを停止する、とモカちゃんの覚醒が始まりました。

特に患部からの出血も認められません。

意識もしっかり覚醒しました。

下写真は摘出した卵巣と子宮です。

上写真で病変部と思しき箇所を細胞診してみました。

水色は増殖した腫瘍、黄色は子宮角にできた腫瘍、赤矢印は出血して血液貯留した子宮体部です。

まずは水色の腫瘍です。

腫瘍をカットした断面です。

この断面をスタンプ染色しました。

腺癌の腫瘍細胞が認められました。

次は黄色丸の箇所です。

カットした断面です。

スタンプ染色した画像です。

前述の腫瘍と同じ細胞が認められます。

最後に出血していた子宮体です。

切開を加えると内部には凝固した凝血塊が詰まっていました。

凝血塊を取り除いて子宮内部を綿棒で掻破してみた細胞診です。

同じ腫瘍細胞が認められました。

以上の点から、子宮全体に腺癌が拡大進行していたことが判明しました。

モカちゃんは2か月前位から、陰部からの出血があったとのことです。

出血があってから、速やかに手術に移れたので良かったです。

術後2日目、退院時のモカちゃんです。

モカちゃん、元気に退院できてよかったです。

毎回同じことを申し上げますが、やはり1歳までに避妊手術をすることで子宮腺癌の罹患は防ぐことが出来ます。

出産をお考えでなければ、早期避妊は大切です。

この記事を書いた人

伊藤 嘉浩

伊藤 嘉浩

“小さくてもひとつのいのち”をスローガンに命あるもの全ての治療に全力を注いでいきたいと考えています。

動物医療は我々、獣医師と飼い主様、動物の3者が協調しあうことでよい治療結果が生み出せると考えます。

治療に先立ち徹底したインフォームド・コンセントを心がけております。