ウサギの血尿にはご注意を!(子宮内膜炎・内膜過形成)

ウサギの外来の中で、血尿の主訴で来院されるケースが非常に多いです。

一口に血尿と言っても、その原因は様々です。

子宮出血の他に腎盂腎炎・膀胱炎・尿道炎・尿路結石などが可能性として挙げられます。

それでも4歳以上の雌ウサギの場合、高い確率で子宮疾患が絡んでいることが多いです。

本日ご紹介しますのは、ミニウサギのさつきちゃん(4歳5か月齢、雌、体重1.8kg)です。

さつきちゃんは数か月前より血尿が認められるとのことで来院されました。

この出血は常時出ているのではなく、出るときもあれば出ないときもあるとのことです。

陰部をよく見ますと下写真の様に激しい出血が認められます。

血尿の原因は何かを探るためにレントゲン撮影をしました。

レントゲン像から、膀胱内には高カルシウム尿の蓄尿が認められます。

このカルシウム尿の中に結石が隠れていれば、それは膀胱結石が血尿の原因と言えます。

結論として、さつきちゃんの場合は膀胱結石は認められませんでした。

加えて腎盂結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石は陰性です。

子宮については、健常な子宮であればレントゲン上には認識されません。

子宮水腫や子宮腺腫等に罹患していれば、腹腔内の他の臓器とのコントラストで子宮の存在が認識されます。

今回のさつきちゃんの子宮は特にレントゲン像には写っていません。

さつきちゃんの血尿は量も多く、膀胱炎での出血のようなレベルではないと思われました。

ちなみに膀胱出血の場合は尿の色に関係なく常に潜血反応は陽性です。

一方、子宮からの出血は潜血反応が陽性であったり、陰性であったり一定しないことが多いです。

今回の血尿には、何らかの子宮疾患は絡んでいるものと推察されます。

飼い主様の意向もあり、避妊の目的も併せて卵巣・子宮全摘出手術を実施することとしました。

点滴のルート確保のために前足に留置針を入れます。

これで手術の下準備はできました。

出血のある個体なので、慎重に全身状態をチェックします。

下写真は手術前の血液検査です。

特に貧血も認められず、手術にも十分耐えられる状態であるのが判明しました。

あとはICUの入院室に入って頂き、40%の酸素を吸入して手術まで待機してもらいます。

落ち着いたところで、全身麻酔に移ります。

麻酔前投薬を注射し、イソフルランで麻酔導入・維持します。

下腹部を正中線に従ってメスで切開します。

下写真は、子宮を体外に出したところです。

子宮自体の大きさは正常です。

ところが、右子宮角に異常が認められました。

黄色矢印は、右子宮角です。

その部位が腫大しており、内部で出血が認められます。

おそらくこの部位(下黄色丸)から出血があり、血尿に至ったと推察されます。

いつものようにバイクランプで卵巣動静脈をシーリングします。

両側卵巣を摘出したところです。

黄色丸が病巣部です。

子宮頚部を結紮します。

子宮頚部を離断します。

腹筋と皮膚を最後に縫合します。

術後に患部を自咬する個体が多いため、当院ではステープラー(医療用ホッチキス)で皮膚縫合する事が多いです。

さつきちゃんは麻酔の覚醒も速やかで、術後の経過も良好でした。

摘出した子宮ですが、病変部は子宮内膜炎と子宮内膜過形成であることが判明しました。

下写真は患部をカットしたところです。

退院直前のさつきちゃんです。

術後の出血もなく、食欲も良好です。

子宮内膜炎や子宮内膜過形成は、投薬による内科的療法での完治は難しいと思います。

そして4,5歳以降のシニア世代になってから、子宮疾患に罹患する確率はかなり高いと思われます。

むしろ早い時期に卵巣子宮を全摘出することが最善の選択です。

飼い主様は、手術で無事生還できるか心配されていましたが、さつきちゃんは退院後の経過も良好だそうです。

血尿も退院後、認められません。

高度の子宮腺癌の場合、術後の予後不良のため死亡に至る場合もあります。

統計学的にもウサギの血尿は子宮疾患につながるケースが多いことを認識して下さい。

この記事を書いた人

伊藤 嘉浩

伊藤 嘉浩

“小さくてもひとつのいのち”をスローガンに命あるもの全ての治療に全力を注いでいきたいと考えています。

動物医療は我々、獣医師と飼い主様、動物の3者が協調しあうことでよい治療結果が生み出せると考えます。

治療に先立ち徹底したインフォームド・コンセントを心がけております。