ウサギの腹腔内膿瘍

本日ご紹介しますのはウサギの腹腔内膿瘍です。

膿瘍とは、細菌感染によって限局された組織間隙に膿が貯留した状態を指します。

特にウサギの免疫系は、細菌に限らず異物に対しても可能性反応を示し、乾酪様 (チーズ様) の膿を形成して癒着を生じやすいとされています。

そして、その結果として厚い壁を持つ膿瘍を形成します。

今回のウサギは腹腔内に膿瘍が形成された症例です。

ホーランドロップのポロン君 (雄、4歳、体重1.8 kg) はお腹に出来物があるとのことで来院されました。

触診では下腹部に4~5 cmの腫瘤が認められました。

早速、レントゲン撮影を行いました。

下写真2枚の黄色丸はその腫瘤を示します。

中心部に石灰化した8 mm程の塊が認められます。

腫瘤が胃や腸を圧迫している感があります。

ポロン君は食欲が落ちてきているとのことです。

腫瘍かもしれないし膿瘍かも知れないのですが、いずれにせよ試験的開腹の目的で外科手術を飼主様に勧めさせて頂きました。

イソフルランのガス麻酔を実施します。

下写真の黄色丸は腹腔内の腫瘤です。

真上と真横から見た状態でも、腫瘤が盛り上がっているのが分かります。

これから開腹手術に入ります。

皮膚を切開します。

続いて腹筋を切開します。

開腹後、すぐ飛び出してくる空回腸ですが、慎重に腸を確認します。

少し奥まったところに腫瘤が見つかりました (黄色矢印)。

腫瘤を外に出しました。

空回腸から結腸に移行する部位にこの腫瘤が存在していました。

腫瘤は明らかに膿瘍で、粘稠性のある黄色を帯びた内容物が納まっています。

過去のウサギの腹腔内膿瘍は、腸に癒着した状態がほとんどです。

しかし、今回は下写真のように、完全に独立した膿瘍に血管を含んだ軟部組織が繋がっていました (黄色矢印)。

当初、膿瘍に繋がっている軟部組織は空回腸から分かれたものかと疑っていたのですが、膿瘍に栄養を運んでる血管を保護している脂肪組織でした。

止血のため、この栄養血管を結紮します。

結紮後、鋏で膿瘍と軟部組織とを離断します。

離断面からは特に出血や腸内容物の漏出は認められません。

その他に、腹腔内の膿瘍がないかチェックします。

特に膿瘍はありませんでした。

合成吸収糸で腹筋を縫合します。

皮膚を縫合して手術は終了です。

膿瘍摘出後のレントゲン像です。

下写真には、手術前に認められていた石灰化した部位を含む腫瘤は存在しません。

ガス麻酔を切り、覚醒を待ちます。

麻酔から覚醒したポロン君です。

摘出した膿瘍です。

内容を確認するため、硬性メスで切開しました。

膿瘍の内容はチーズ様の粘稠性の高い膿でした。

特に被毛や糞塊は認められません。

ウサギの腹腔内膿瘍は異物を摂取して、腸管を穿孔し、漏出した腸内容物が膜性の厚い壁を形成します。

今回、ポロン君がどんな異物を摂取したのかは不明です。

一般的にはウサギの場合、異物として壁紙や被毛が挙げられることが多いです。

幸いなことに腸管と膿瘍が癒着することなく、独立して膿瘍が存在していたため、容易に離断することが出来て幸いでした。

下写真は、術後2週間経過したポロン君です。

術後は、快食快便で体調も良好です。

早急に摘出手術に踏み切れて良かったです。

大きな膿瘍ほど、体を抱いたときに腹部を圧迫して膿瘍が破裂した場合、腹膜炎を引き起こして危険な状態になる可能性もあります。

ポロン君、お疲れ様でした!

この記事を書いた人

伊藤 嘉浩

伊藤 嘉浩

“小さくてもひとつのいのち”をスローガンに命あるもの全ての治療に全力を注いでいきたいと考えています。

動物医療は我々、獣医師と飼い主様、動物の3者が協調しあうことでよい治療結果が生み出せると考えます。

治療に先立ち徹底したインフォームド・コンセントを心がけております。