ウサギの消化器型リンパ腫

リンパ腫は哺乳類において一般的に認められる疾患です。

ウサギにおける全腫瘍症例中2番目に多い腫瘍と報告されています。

このリンパ腫発生には、レトロウィルスやヘルパスウイルスが関与している報告がありますが、まだ明確にはされていません。

本日はウサギのリンパ腫の中でも消化器に発生したタイプ (消化器型リンパ腫) を述べたいと思います。

日本ウサギのスミレ君 (8歳、雄) は最近、元気消失、食欲廃絶とのことで来院されました。

触診しますと腹部に大きな腫瘤を感じました。

早速、レントゲン撮影を実施しました。

レントゲン写真上でエックス線不透過の不明瞭な領域 (黄色丸) が認められます。

腹水も貯留しているようです。

触診上、腹腔内臓器の腫瘤も気になりました。

腫瘤自体は硬い組織で、腫瘍か異物による腸閉塞、膿瘍形成等の可能性が高いと思われました。

飼い主様の了解を頂き、スミレ君の試験的開腹を実施させて頂くこととしました。

スミレ君にイソフルランによる麻酔導入を行い、鎮静化して前腕部に点滴のための留置針を入れます。

患部の剃毛を行います。

下写真黄色丸は腹腔内の腫瘤です。

非常に大きいのがお分かり頂けると思います。

皮膚を切皮し、腹筋を切開しています。

開腹と同時に尿で一杯になった膀胱が認められます。

膀胱が腹腔内の探査のために障害となりますので、膀胱の尿を注射器で穿刺吸引します。

盲腸と小腸の漿膜面には米粒大から小豆大の腫瘤が密生しています。

下写真の黄色丸の箇所が一番広く腫瘤が発生している箇所です。

上の写真の拡大像です。

盲腸の漿膜面は充血して広範囲に及ぶ腫瘤が認められます。

小腸の一部には硬結巣がありました (下写真黄色矢印)。

拡大した写真です。

腸内は膿瘍が形成されており、腸内容物の通過の障害をしています。

残念ながら、今回の様に消化器に広範囲に及ぶ腫瘍であることは明らかで、外科的に切除出来る対象ではありませんでした。

この消化器漿膜面の腫瘤を生検に出します。

病理検査の結果で診断された腫瘍の種類に応じて、内科的療法(化学療法)に変更します。

このまま、スミレ君の腹部を閉腹します。

麻酔から覚醒したスミレ君です。

試験的開腹とは腹腔内の異常を確認するために実施しますが、何らかの手を講じることなく閉腹するのは辛いものです。

生検に出した腫瘤の顕微鏡写真 (低倍率) です。

拡大した写真です。

多数の中型から大型の未分化の円形細胞が認められます。

結論として大小不同の核クロマチンの乏しいリンパ球様細胞であり、高グレード (低分化型) のリンパ腫であると判明しました。

このタイプのリンパ腫は急性症状でステロイドに劇的に反応するとされますが、スミレ君の場合は進行が消化器全般に既に進行していました。

ステロイドの投薬を開始しましたが、残念ながら術後4日目にしてスミレ君は亡くなられました。

非常に残念です。

ウサギのリンパ腫については、確立した治療法は現在存在しません。

犬猫のリンパ腫に準じたロムスチン等の抗がん剤を使用した化学療法が試みられています。

犬猫では抗がん剤の静脈投与による治療が奏効していますが、血管自体が脆弱なウサギにおいては非常に困難です。

結局、経口投薬で治療効果のある抗がん剤の使用となりますので、ロムスチンを利用することが多いです。

一般にウサギのリンパ腫は胸部の前縦隔リンパ節に発生する縦隔型リンパ腫に遭遇することが多いです。

稀に今回の様に消化器型リンパ腫を診ることもありますが、縦隔型のように呼吸不全が主徴であれば分かりやすいのですが、腹腔内の腫瘤で現れる消化器型は発見が遅れることが多いと思います。

定期的な健診を受けて頂き、早期発見できれば幸いに思います。

この記事を書いた人

伊藤 嘉浩

伊藤 嘉浩

“小さくてもひとつのいのち”をスローガンに命あるもの全ての治療に全力を注いでいきたいと考えています。

動物医療は我々、獣医師と飼い主様、動物の3者が協調しあうことでよい治療結果が生み出せると考えます。

治療に先立ち徹底したインフォームド・コンセントを心がけております。