ウサギの毛球症

ウサギの疾病の中でも致死率が高いのが、この毛球症です。

当院に来院されるウサギの半数が、この毛球症が関係しているといっても良いでしょう。

ウサギは換毛期になりますと進んで毛づくろいをします。

その時に自らの毛を飲み込み、その毛が胃腸内で毛玉を形成し、状況によっては消化管内で閉塞を起こし毛球症に罹患します。

ウサギは猫のように嘔吐ができません。

加えてウサギは単胃動物の中でも、最も大きな胃と十二指腸を有するとされています。

単純に摂食した食物を胃内に多量に貯蔵してしまい、一方で毛玉で腸が閉塞を起こしていたりすると胃拡張と胃内容が食渣で充満してしまいます。

この胃内容が食渣で一杯になった状態が続くとガスがさらに胃から腸へと生じ、腸蠕動は停止します。

その先は、適切な治療を施さないとショック状態に陥り、死の転帰をたどります。

今回、ご紹介するのは突然、食欲が無くなったホーランドロップ君です。

最近、毛が著しく抜ける点、臼歯の過長が認められない点、数珠のように毛で連結した便をする点等などから毛球症を疑いました。

以前は積極的に外科的手術を実施しておりましたが、単純に胃内に停滞している毛玉を摘出してしまえば、すべて終了というほど簡単な治療ではありません。

毛球症のステージに合わせて、ガスを消す消泡剤、胃内容物を軟化させる緩下剤、消化管運動改善薬、鎮痛薬、強制給餌などをうまく組み合わせることで内科的治療で完治する場合も多いです。

今回のホーランドロップ君のレントゲン撮影は以下の通りです。

黄色丸で示した胃には内容物とガスが溜まっています。

急性期というよりは亜急性期に分類される病態です。

現在の私の治療法としては、突発的な急性期は手術を優先しますが、それ以外の亜急性期から慢性期は内科的治療で対応します。

このホーランドロップ君は一週間ほど内科治療を実施しましたが、いよいよ薬の反応が弱く本人の衰弱の兆しが認められましたので外科手術を行うことにしました。

胃を切開したところ、毛玉を含めドライフルーツ等がたくさん貯留していました。

毛玉は胃の内容物や胃液などと混ざり合い、汚泥のような性状になっています。

術後は点滴を施し、鎮痛剤・抗生剤・腸蠕動促進剤等を投薬します。

毛球症の外科手術をどの病態期で決断するのかというのは、非常に難しいです。

私の場合は、内科療法で4日以内に反応が乏しければ積極的に外科手術をお勧めすることが多いです。

できれば、内科的治療で治してあげたいです。

しかし、内科的治療にこだわっていると命を救うタイミングを失することもあります。

毛球症は胃内の食渣を停滞させて腹痛やガスを発生し、拒食は悪液質へと移行します。

これらの病態が進行する中で肝リピドーシスや腎不全、免疫低下も引き起こされます。

ウサギの飼主様にお伝えしたいのは、毛球症は初期の段階で気づいて欲しいということです。

食欲廃絶という症状が出る前に、糞便が毛で連結して出てこないか (毛の混入便の有無)・排便量の低下・歯ぎしりといった症状がないか必ず確認して頂きたく思います。

そしてもっと重要なのは、毛球症の予防を日常的にして欲しいということです。

具体的には、換毛期ならばまめなブラッシングをすること・ペレットよりもチモシーを大量にたべさせること・ラキサトーン等の緩下剤を与えることを守って頂けたら、毛球症はある程度は予防が可能です。

引き続き毛球症の情報を発信していきたいと考えています。

この記事を書いた人

伊藤 嘉浩

伊藤 嘉浩

“小さくてもひとつのいのち”をスローガンに命あるもの全ての治療に全力を注いでいきたいと考えています。

動物医療は我々、獣医師と飼い主様、動物の3者が協調しあうことでよい治療結果が生み出せると考えます。

治療に先立ち徹底したインフォームド・コンセントを心がけております。