猿らしくないサル
マーモセットとはマーモセット属のサルの総称で、コモンマーモセット、ジョフロワマーモセット(シロガオマーモセット)、クロミミマーモセットなどが知られています。古くから広く人に知られ、ペットとして有名なのはコモンマーモセットです。近年、実験動物としても重要視されています。コモンマーセットは真猿類ですが、原始的な原猿類の特徴も持ち合わせています。マーモセットと近縁な種類にタマリンと言うサルがいますが、両者ともにマーモセット科に属しています。コモンマーモセットはペットや実験動物の目的で捕獲され、個体数が減少したこともあり、2006年にワシントン条約付属書Ⅱ掲載種になりました。輸出国の許可がなければ商取引きがされないので入手は困難です。日本では国内の繁殖(CB)個体が販売されています。
分類・生態
分類
学名:Callithrix jacchus
英名:Common marmoset
分布
ブラジル東部
コモンマーモセットは本来ブラジルの北東海岸、ピアウイ州、パライバ州、セアラ州、リオグランデドノルテ州、ペルナンブコ州、アラゴアス州、バイーア州に生息してしたが〔Macdonald 1985〕、捕獲された個体の移入で、1920年代からブラジル南東部に生息域を拡大しています。
身体
頭胴長:オス 18.8(15.8~20.7)cm、メス 18.5(17.3~19.8)cm
尾長:オス 28.0(24.7~31.2)cm、メス 27.4(24.3~30.3)cm
体重:オス 約256g、メス 約236g
毛色:毛は灰褐色で、耳に白色の長い房毛があり、尻尾が黒色と灰色の縞模様をしています。頭は黒色を帯びて、顔のみが毛で覆われておらず、白~黄色をしています。尾には白色と黒色の輪が見られます。
生態
環境:幅広い森林(海に面した地域、内陸、サバンナ)
行動
・群居性をもつ昼行性のサルで、樹上生活を営んでいます。リスのような動きをし、樹に垂直に掴まったり、飛び移ったりします。
・9頭くらいの群れを作り〔Stevenson et al.1988〕、基本的に一夫一婦性で、その子供たちと、さらにその親か兄弟などの成体から構成されます〔Ferrari et al.1996〕。
食性
・昆虫、果物、樹液やガムを食べています。
・爪を使って木の側面にしがみつき、長い下顎切歯の櫛歯で木かみ砕き、滲出液の樹液やガムを口にします〔Stevenson et al.1989〕。木をかみ砕く摂食行動に多くの時間を費やします〔Ferrari et al.1989〕。
寿命:約11.7年〔Rowe 1996〕
性格
かなり神経質
温和で穏やかな性格ですが、急に大きな物音を立てたり、荒々しい振る舞いをすると、驚いて狂乱状態になります。臆病な面も併せ持っていますので、驚かしたり嫌なことをすれば警戒されます。
甲高い鳴き声
コモンマーモセットは甲高い声で、様々な声を事態に応じて鳴き分けます。その高音の声は人の可聴域を超えることもあります。鳴き声には、警報、攻撃性、服従を知らせるために使われ、表情や耳の房毛を使って表現を表します。
警告
危険が迫ると2種類の声を出します。スタッカート(Sstaccatos)と呼ばれる呼び出しごとに高くなる声と、Tsiksと呼ばれる断続的または繰り返しの短い声です。警告の鳴き声は短く、高音になる傾向があります〔Lazaro-Perea 2001〕。
監視
トリル(Trills)と呼ばれるビブラートのような低音の一般的な呼び出しで群れの個体を監視および特定します〔Jones 1997〕。笛のような一般的な呼び出しであるフェー(phees)も使用し、仲間を引き付けて群れをまとめ、縄張りを守り、行方不明の群れの個体を見つけるのにも役立ちます〔Jones 1997〕。
特徴
房毛
耳の周りに白色の房毛を持っています。恐怖や服従を示す時に房毛の耳を頭の近くで平らにします〔Stevenson et al.1988〕。
長い尾
尾は体長よりも長いです。尾は枝などに巻きつけることはせず、移動時の平衡感覚をとるのに役立つのみです〔 河合 1968〕。
平爪
指の数は四肢ともに5本で、後足の親指のみが平爪で、それ以外の指は鉤爪になっています〔Garber et al.1996〕。指の対向性もなく、前肢は後肢よりも短く、飛び歩くように敏捷に移動します。
臭腺
臭腺は肛門や生殖器領域、恥骨や胸骨の上、そして口の周囲に見られます。臭腺からの分泌物は、尿や生殖器分泌物と混ざり合って、縄張り内の木や群れの仲間にマーキングや性的誘引に使われます〔Stevenson et al.1988〕。臭腺の臭いはサルにとって安堵を感じますが、飼い主にとっては不快な匂いです。
櫛歯
歯の数は32本です〔Johnson-Delaney 2004〕。下顎切歯は櫛歯をしており、木をかじり砕き樹液やガムを吸い取るのに使われます〔Rowe 1996 〕。マーモセットは、下顎切歯が突出していることでタマリンと区別され、タマリンは長い犬歯を持っています。
雌雄鑑別
雌雄鑑別は成熟していないと難しく、オスは生殖孔の下に精巣が収納されている陰嚢がみられます。メスの陰核は著しく発達しており、ペニスと似ているため間違えやすいです。
繁殖
基本的には一夫一妻制で、特定の相手と恒常的な夫婦生活を営み繁殖をします〔Digby 1995〕。まれに一夫多妻のこともあります、特定のメス以外のメスとは繁殖しません〔Arruda et al.2005〕。メスはオスに対して舌を突き出すような求愛行動で交尾を誘います。基本的に二卵性双生子を生みます。乳頭は1対(2個)みられます〔Ialeggio 1989〕。コモンマーモセットは人以外の霊長類では珍しくメスとオスで共同して子育てをします。そして群れの中の他の血縁個体も協力して子育てをします〔Stevenson et al.1988〕。生まれた子はオスが抱いて、授乳の時のみメスに手渡すこともあります〔河合 1968〕。 群れの中での繁殖メス以外の個体は子育てに駆り出されるためか、この期間は生殖が抑制されて繁殖できないようになっています〔Baker et al.1999,Saltzman et al.1997〕。コモンマーモセットの妊娠期間は約5ヵ月と長く、母親は自身の体重の10%程度の大きな子を二頭出産します。母親は出産後約10日で再び繁殖する準備が整い、次の妊娠も可能になり、子育て期間中に妊娠ををすることもあります。樹上生活で常に子を背中に乗せて運搬する必要があり、一人での子育てが大変なことから、父親や群れの個体が共同して子育てをします〔Stevenson et al.1988〕。コモンマーモセットは年に2回出産することが可能です〔Stevenson et al.1988〕。子は成長とともに母親の背中に費やす時間が減り、動き回ったり遊んだりする時間が増え、約3ヵ月で離乳します〔Stevenson et al.1988,Rowe 1996〕。
性成熟 | オス 約16.7ヵ月齢〔Rowe 1996〕約24ヵ月齢〔Hannah et al.2010〕 メス 約12ヵ月齢〔Rowe 1996〕約24ヵ月齢〔Hannah et al.2010〕 |
繁殖形式 | 周年繁殖〔Rowe 1996〕 性周期 13-15日〔Rowe 1996〕約28日〔Hannah et al.2010〕 |
妊娠期間 | 約148日〔Rowe 1996〕 |
産子数 | 2(1-4)頭〔Rowe 1996〕 |
離乳 | 3ヵ月齢〔Rowe 1996〕 |
ポイントはコレ!
- 原猿類(原始的なサル)に分類
- ブラジルに分布し樹上に生息
- 昼行性のサルで群れで暮らす
- 臆病で警戒心が強い
- 素早しっこく動く
- 耳の白い房毛が特養
- 臆病で警戒心が強い
- 番にすると仲良くオスも子育てをする
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参考文献
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