針だらけ
ハリネズミは体が針に覆われている変わった動物です。体の構造以外にも生理機能も特殊なものを持っています。
分類・生態
ハリネズミはハリネズミ目ハリネズミ科に属する動物で、ネズミの仲間ではなくモグラに近い動物です。一般的なハリネズミは体表が針で覆われており、5つのグループ (属) に分類されています。
ハリネズミ目 (無盲腸目) | ハリネズミ科 | アフリカハリネズミ属 | ヨツユビハリネズミ |
アルジェリアハリネズミ | |||
ケープハリネズミ | |||
ソマリアハリネズミ | |||
ハリネズミ属 | アムールハリネズミ | ||
ヒトイロハリネズミ | |||
ナミハリネズミ | |||
Northern white-breasted hedgehog | |||
オオミミハリネズミ属 | オオミミハリネズミ | ||
クビワハリネズミ | |||
ダウリアハリネズミ属 | ダウリアハリネズミ | ||
モリハリネズミ | |||
インドハリネズミ | エチオピアハリネズミ | ||
インドハリネズミ | |||
ブラントハリネズミ | |||
Bare-bellied hedgehog |
ハリネズミはヨーロッパではくから飼育されており、野生のハリネズミ (ナミハリネズミ) が民家の生け垣周囲に出現することも多いため、ヘッジホッグ (Hedgehog、生け垣の豚) と呼ばれています。
本邦でペットとして飼育されるハリネズミは、主にアフリカハリネズミ属のヨツユビハリネズミです。昔はマンシュウハリネズミ (アナムールハリネズミ) やナミハリネズミも飼育されていましたが、外来生物法の特定外来生物種に指定されているために、販売や飼育が禁止されています。現在の日本では、オオミミハリネズミは飼育することは可能で、時々流通しています。
ペットとして流通しているヨツユビハリネズミはアルジェリアハリネズミとの交雑種といわれています。そのために、本来ヨツユビハリネズミは小さい種類なのですが、アルジェリアハリネズミの血が濃いと大型になる傾向があります 〔Graesser et al.2006〕。
分類
ハリネズミ目 (無盲腸目) ハリネズミ科アフリカハリネズミ属 学名:Atelerix albiventris 英名:The central african hedgehog, Whitebellied hedgehog, Four-toed hedgehog 別名:ピグミーヘッジホッグ (ハリネズミの中でも小柄であるため、ピグミー (小さい) という名称がついています)
分布
中央アフリカのセネガルからエチオピア、南はザンビアまで
身体
頭胴長:14‐21cm 尾長:1.1‐1.9cm 体重:200-300g (飼育下ではアルジェリアハリネズミとの交雑種なので、675~900g〔Herter 1968〕)
生態
環境:中央アフリカのサバンナ地帯 食性:餌は無脊椎動物 (ミミズ)、甲虫、蝶や蛾の幼虫、ナメクジやカタツムリなどが主食で、時には動物の死骸や畑の野菜や果物も食べています。 寿命:野生では3~5年、飼育下では6~10年です 〔Johnson-Delaney 2007〕。 行動 夜行性で単独生活で行動し、低木地やステップ、砂漠の岩場、木の根元などに巣穴を掘って生活をしています。縄ばりは200-300 m2 くらいといわれています 〔Vriends 1995〕。生息する地域で冬眠をすることがあります。温暖な地域に生息するヨツユビハリネズミは冬眠しませんが、高冷な地域では冬眠をします。
分類・生体のポイント!
- ペットのハリネズミはアフリカ出身のヨツユビハリネズミ
- 日本で飼育できるハリネズミは限られている
- ペットのヨツユビハリネズミはアルジェリアハリネズミの交雑種が多い
- 野生では昆虫や節足動物を食べる
習性
臆病
基本的に臆病な性格で、驚いたり、知らない環境環境だと丸まってしまいますが、馴れると活動的になり、動き出します。ハリネズミは鋭い嗅覚を持っていますが、視力は低いです 〔Banks et al.2010,Heatley 2009〕。クンクンと鼻を鳴らしながら周囲を探索して動き、野生では多くの時間を餌探しにあてます。聴覚も優れていますが、特に高い音には敏感です 〔Poduschka, 1981〕。
防衛姿勢
肉食動物などの天敵に遭遇したり、突然の大きな音に驚くと、針を立てて「シューシュー」という音を出して (パフアップ: Puff up)、体を丸めた防御姿勢をとります (ロールアップ: Roll up)。
防御姿勢は体の表面の筋肉の収縮によるもので、体の周辺部の筋肉が中心部よりも発達し、輪状の筋肉を作っています。巾着袋の紐を締めるような筋肉の収縮で、頭や四肢は中に収納され体を丸めます 〔Poduschka et al.1986〕。
セルフアノイティング
見慣れない物に遭遇したり、強い臭いを嗅いだ時に、唾液を口腔内に満たして、背側の針に塗りつける行動が見られます 〔Burton 1958,D’Agostino 2015〕。この行動は泡つけ、香油塗り (アノイティング: Anointing/セルフアノイティング: Self-anointing) とも呼ばれます。行動の目的は不明で、天敵の嫌がる唾液の臭いや毒を針に塗る防御説、異性を引きつけるフェロモン説、単なる針の清浄や害虫の駆除などの衛生説などが論議されています 〔Herter 1972〕。
発声
いくつかの特徴的な鳴き声を発します。鼻孔から勢いよく息を吐く「シューシュー」や「シュッシュッ」といった音は攻撃や威嚇の時、鋭く鳴く「キーキー」や「キューキュー」という音は苦痛や恐怖、危険を感じている時に、短く優しそうに鳴く「クックッ」や「コッコッ」という声は求愛行動や母親が子供を運ぶ時に発すると推測されています。
身体の特徴
豚顔と豚体
頭は小さく、体は寸胴で、四肢や尾は細くて短いです。
鼻先はやや突き出して、小さいな目も飛び出て、耳も丸くて愛嬌のある顔をしています。
針
背中は頭からお尻まで硬い針で被われ、顔や腹部、四肢は柔らかい毛で被われています。
頭頂部には針が生えていない無針部があります。
針の数は全部で約5000本、長さは25-33 mmです 〔Hufnagl 1972〕。針は毛が変化したもので、中空の棘構造になっています 〔Ivey et al.2012,Terlutter 1984〕。棘はハリネズミを外敵から守る役割を果たし、転倒を緩衝し、体温調節も助けます 〔Terlutter 1984〕。針の生えている背側には筋肉が発達し 〔Reeve 2003〕、その下に体を丸める強力な輪筋があり 〔Ivey et al.2012〕、表層にある被膜筋では針を自由に動かすこともできます。逆立てられた針は様々な角度に立たせて重なりあうように支えあいます。したがって、興奮したり、怒っている時は針が逆立っており、触ると痛いですが、安心している時は、針が寝ているので、触っても痛くないのです。
汗腺や皮脂腺は、お腹や足の一部に存在します 〔Reeve 1994〕。
四肢
脛骨と腓骨は遠位で融合し 〔Ivey et al.2012〕、橈骨と尺骨も同じく癒合しています 〔Banks et al.2010,Heatley 2009〕。回転などの複雑な動きは苦手な肢だと推測されます。
四つ指
前肢の趾は5本ですが、後肢は名前の通り4本です 〔Banks et al.2010〕。爪は小いさな鉤爪をしています。
歯
歯は3133/2123の計36本、切歯は尖った形をしています。上顎の切歯の間には隙間があり、閉口時には下顎の切前歯に昆虫などの餌が突きささるようになっています。犬歯は貧弱で臼歯と鑑別がつかず、臼歯は比較的前後の幅が広いです 〔Banks et al.2010,Ivey et al.2012〕。乳歯は18-23 日で萌え、 永久歯は7~9週間で生えかわります 〔Banks et al.2010〕。
消化管
ハリネズミの胃腸は単純で盲腸を欠きます。消化管の通過時間は12~16時間です 〔Ivey et al.2012〕。
乳首
乳首は5対 (10個) あります。
これがポイント (特徴)!
- 防衛のために丸まる (ロールアップ)
- 針を自分で逆立てられる
- お腹には針がない
- 驚くと唾液を体に塗りつける (アノイティング)
- 鼻が突き出て豚のような顔
- 後肢は4本なのでヨツユビハリネズミ
ハリネズミ飼いならぜひこの飼育本も読んで!
ハリネズミ 完全飼育: 飼育、生態、接し方、健康管理、病気がよくわかる.誠文堂新光社
参考文献
- Banks RE, Sharp JM, Doss SD, & Vanderford DA. Exotic Small Mammal Care and Husbandry. Wiley-Blackwell. Hoboken. 2010.
- Brodie ED, Broidie ED Jr, & Johnson JA. Breeding the African hedgehog Atelerix pruneri in captivity. Int Zoo Yearb. 1982; 22 (1): 195-197.
- Burton M. A puzzling habit of the hedgehog. New Sci. 1958; 4: 1071-1073.
- D’Agostino J. Insectivores (Insectivora, Macroscelidea, Scandentia). In Miller RE & Fowler ME. eds. Fowler’s Zoo and Wild Animal Medicine 8th Edition. Saunders. St. Louis. 2015: 275-280.
- Graesser D, Spraker TR, Dressen P, Garner MM, Raymond JT, Terwilliger G, Kim J, & Madri JA. Wobbly hedgehog syndrome in African pygmy hedgehogs (Atelerix spp.). J Exot Pet Med. 2006; 15 (1): 59-65.
- Heatley JJ. Hedgehogs. In Mitchell MA & Tully TN. eds. Manual of Exotic Pet Practice. Saunders Elsevier. St. Louis. 2009: 433-455.
- Hufnagl E. Libyan Mammals. Oleander Press. Wisconsin. 1972.
- Herter K. The insectivores. In Grzimek B. ed. Grzimek’s Animal Life Encyclopedia. Van Nostrand Reinhold. New York. 1972: 176-257.
- Ivey E & Carpenter JW. African hedgehogs. In Quesenberry KE & Carpenter JW. eds. Ferrets, Rabbits, and Rodents: Clinical Medicine and Surgery 3rd ed. Saunders-Elsevier. St. Louis. 2012: 411-428.
- Johnson-Delaney C. What veterinarians need to know about hedgehogs. Exotic DVM. 2007; 9 (1): 38-44.
- Reeve N. Hedgehogs. T. & A. D. Poyser. London. 1994.
- Poduschka W & Poduschka C. Fortpflanzung und Jungenentwicklung bei Hemiechinus auritus FITZINGER, 1866 (Insectivora: Erinaceinae). Zool Jb Physiol. 1986; 90: 501-535.