コザクラインコのクリプトスポリジウム  吐いていますけど大丈夫?

おっと!クリプト検査しましたか?

鳥の嘔吐は、そ嚢炎や異物をはじめ、様々な原因が考えられます。しかし、コザクラインコではクリプトスポリジウムという寄生虫による感染症が特異的に発生します。元気なうちに検査をしておくのも良いと思います。

なんの病気?

胃に寄生する寄生虫で、肉眼では見えない原虫と呼ばれる仲間です。4~5歳以上のコザクラインコによく見られ、理由は不明ですが、ボタンインコにはあまり発生しません。

コザクラインコ

クリプトスポリジウムの種類

現在、鳥に感染するクリプトスポリジウムの種類は、種の同定が完全にできていない12種の遺伝子型に加えて、Cryptosporidium meleagridis, C. baileyi, C. galliおよび C. aviumになります。日本のニワトリでは、C. baileyiが多く 〔Genta, et al., 2001; Itakura, et al., 1984; Kimura, et al., 2004〕、渡り鳥のアヒルからはC. avian 遺伝子型IIIとC. baileyiが分離されました 〔Salama, et al., 2020〕。C. meleagridis, C. baileyi, C. galliはよく知られている種類で、高い罹患率と死亡率を引き起こすことが知られています 〔Ryan, 2010〕。そして、C. meleagridisは、世界中で人の感染も知られており 〔Xiao, et al., 2008〕、人獣共通感染症の可能性があります。C. meleagridisは、ペットのオカメインコからも分離されたこともありました。しかし、ペットの鳥に感染するクリプトスポリジウムの種類と病原性についてはあまり研究されていません。日本のオカメインコではC. aviumが分離された報告がありました 〔Holubová, et al., 2016〕。C. aviumについての研究報告では、感染後約11日で発症し、セキセイインコやニワトリよりもアオハシインコの方が感受性が高いというものでした。つまり鳥種によって感染に相違があるようです 〔Holubová, et al., 2016〕。しかし、ペットにおいて問題となっているのはコザクラインコのクリプトスポリジウム感染症で、発生も他の鳥と比べて圧倒的に多く、C. avian 遺伝子型IIIが主な原因である可能性が示唆されています 〔Makino, et al., 2010〕。C. avian 遺伝子型IIIは、キツツキ目およびチュウハシ科の鳥で最初の報告があり、ブラジルではオニオオハシ、シロムネオオハシ、サンショクヤマオオハシにも感染報告があります。また、C. avian 遺伝子型IIIの得られた分子データに基づくと、人には感染しないと言われています 〔Novaes, et al., 2018〕。

どうやって感染するの?

同居している感染した鳥からうつります。経口的に、餌、糞、吐物などを介した水平感染です。搬入したの鳥から検出された場合は、大抵同じケージ入っていた個体か母や兄弟から感染しているのでしょう。

どうやって検査するの?

糞便検査で、糞を顕微鏡で観察してクリプトスポリジウムを検出しますが、なかなか見つからないです。糞便検査で見つからない場合は、遺伝子 (PCR) 検査を行うと確実に分かります。

症状は?

コザクラインコ C. avian遺伝子型IIIに感染すると慢性的な嘔吐と体重減少を示します。前胃の内腔が狭くなり、前胃壁が厚くなり、前胃の腺組織の上皮にのみ確認されます 〔Makino, et al., 2010〕。

治療

クリプトスポリジウムの駆虫薬は開発されていません。人ではニタゾキサニドとパロモマイシンが効果的とされているので、コザクラインコにも投与されます。投薬により、クリプトスポリジウムは減少しますが、完全に駆虫することはできません。投与を止めるとまた増えてきて、症状が悪化します。胃腸薬や吐き気止め、抗生物質などの薬剤を使い、吐き気をコントロールします。

対策

糞が付いた敷紙はすぐに取り替えましょう。アルコール消毒では死なないので、ケージは熱湯で消毒をして下さい。同居している鳥がいる場合、感染を防ぐために隔離するべきです。

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参考文献

  • 源田 健, 王 秀一, 佐伯 晋吾, 稲田 一郎, 福水 章二, 山谷 順明, 岡畑 一幸, 越前 昌巳, 稲本 福男, 宇賀 昭二. 兵庫県下の食鳥処理場に搬入された鶏におけるクリプトスポリジウムの汚染実態. 日獣会誌. 2001; 54 (4): 297-300.
  • Holubová N, Sak B, Horčičková M, Hlásková L, Květoňová D, Menchaca S, McEvoy J, & Kváč M. Cryptosporidium avium n. sp. (Apicomplexa: Cryptosporidiidae) in birds. Parasitol Res. 2016; 115 (6): 2243-2251.
  • Itakura C, Goryo M, & Umemura T. Cryptosporidial infection in chickens. Avian Pathol. 1984; 13 (3): 487-499.
  • Kimura A, Suzuki Y, & Matsui T. Identification of the Cryptosporidium isolate from chickens in Japan by sequence analyses. J Vet Med Sci. 2004; 66 (7): 879-881.
  • Makino I, Abe N, Reavill DR. Cryptosporidium avian genotype III as a possible causative agent of chronic vomiting in peach-faced lovebirds (Agapornis roseicollis). Avian Dis. 2010; 54 (3): 1102-1107.
  • Novaes RS, Pires MS, Sudré AP, & do Bomfim TCB. Captive-bred neotropical birds diagnosed with Cryptosporidium Avian genotype III. Acta Trop. 2018; 178: 297-302.
  • Ryan U. Cryptosporidium in birds, fish and amphibians. Exp Parasitol. 2010; 124 (1): 113-120.
  • Salama RY, Abdelbaset AE, Takeda Y, Imai K, Ogawa H, & Igarashi M. Molecular characterization of Cryptosporidium spp. from migratory ducks around Tokachi subprefecture, Hokkaido, Japan. J Vet Med Sci. 2020; 82 (5): 571-575.
  • Xiao L & Fayer R. Molecular characterisation of species and genotypes of Cryptosporidium and Giardia and assessment of zoonotic transmission. Int J Parasitol. 2008; 38 (11): 1239-1255.

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。