ミーアキャットってどんな動物(知らないといけない生態と特徴)

猫ではないです・・・・

ミーアキャットは猫ではありません。ミーアキャット (Meerkat) は、オランダ語で「湖 (meer) の猫 (kat)」という意味ですが、湖に生息していません。ミーアキャットは、アフリカ南部のカラハリ砂漠などの乾燥地帯に生息しているマングースの仲間です。なぜミーアキャットと呼ばれているかは諸説があり、どれが本当かは分からないようです。

諸説1

サンスクリット語の「Markata (猿)」から「Meerkat」になったという説があります。オランダ人が初めてミーアキャットを見た時に、一見すると丸い頭をしているので猿のようにも見えてしまい、「Markata (猿)」をオランダ語の綴りに変えて、「Meerkat」にしたそうです。

諸説2

古い文献で、ミーアキャット (Meerkat) はMierkatと記載され、アフリカーンス語※で「シロアリ (Mier) のマングース (Kat)」の意味になります。アリ塚の上で直立し、シロアリも食べることが由来になっています 〔Moira 1994〕。

ミーアキャット

※ 南アフリカ共和国の公用語の一つで、南部アフリカ在住のオランダ系移民であるアフリカーナーの母国語です。17世紀中ごろにアフリカに渡来したオランダ系移民の言語から発達し、オランダ語によく似ている。1925年から、英語とともに南アフリカ共和国の公用語となりました。

分類・生態

分類

ネコ目 (食肉目) マングース科スリカータ属                                                                  学名:Suricata suricatta                                                                                英名:Meerkat, Slender-tailed meerkat, Suricate                                                                  別名:スリカータ亜種:3亜種に分類されています。昔は4亜種でしたが、一つの亜種は絶滅しています。現在ペットで飼育されているのは Suricata suricatta suricatta と思われますが、それとは異なる亜種とも論争され新しい亜種として研究されています。

亜種分布特徴/その他
S. s. suricattaボツワナ、南アフリカの一部、ナミビアの東部毛色は地域で異なり、茶色からオレンジ色
S. s. majoriaeナミビアの西部地域個体数は少ない
S. s. onaアンゴラ南西部 (主にイオナ国立公園)
S. s. major南アフリカ (ケープタウン)絶滅種/歯列が他亜種と比べて異なる?
表:ミーアキャットの亜種

分布

南アフリカ、ボツワナ、ジンバブエ、モザンビーク

身体

頭胴長:25~35cm                                                                                 尾長:17.5~25cm                                                                                  体重:0.6~1.0kg  
    オス: 0.626~0.797kg 〔Moira 1994〕)
メス: 0.62~0.969kg 〔Moira 1994〕)
                                                                                             

毛色

  • 毛色は生息地によって微妙に異なり、南部では毛色は暗いです。より乾燥した地域では毛色が明るくなります。
ミーアキャット
  • 一般的な毛色は、灰色、黄褐色、銀色を帯びた黄茶褐色です。体全体に暗色の横縞が頭と尾を除いて走っており、横縞の数は10本です 〔祖谷ら 1991〕。尾は黄色を帯びた黄褐色で、先端が黒色です 〔John Rood et al.1986〕。
  • 顔や喉は灰白色、目の周りは丸く暗色~黒褐色に太く縁どられ、鼻はピンクならびに茶色~黒褐色を帯びています。

生態

環境

草原、砂漠など、低木林、林地、石の多い開けた土地に生息しています 〔Estes, 1991; van Staaden, 1994〕。

行動

社会性の強い動物で、2~30頭ほどの群れを形成し、地下につくったトンネル状の巣穴で生活をしています。群れは複数の巣穴を利用し、巣穴はトンネルと部屋が連なる大規模な構造になっており、それぞれを行き来できます。

ミーアキャット

群れは雌雄は同じ比率で、複数の家族単位のペアとその子どもたちから構成されます。群れの仲間で、子供の世話、捕食者を見守るなどの仕事で交代で行う協力的な意識を持っています 〔Steiniger et al. 2012〕。

昼行性の肉食動物で、日の出と共に巣穴から出て太陽に向かって尾を支えにして後肢で直立し日光浴をします。群れの仲間は仲良く様々なコミュニケーションがとられています。小動物を捕獲する際には小型の鳥を捕える時には、協力して狩りを行います。

センチネル行動 (Sentinel behavier)

ミーアキャットは群れで餌を食べている時には、1頭 (2頭以上であることは稀です) が周囲を見渡して見張りをします。天敵が周囲に近づくと、警告として食事中の仲間に対して声をあげて知らせ 〔Rauber et al.2018〕、危険がせまると皆で巣穴に逃げ戻ります。

ミーアキャット

食性

ミーアキャットは主に食虫を食べる昆虫食~肉食です。小さな脊椎動物、卵、小さな哺乳類、時に植物や果物も口にします。食べている餌のデータを見ると、昆虫82%、クモ7%、ムカデ3%、ヤスデ3%、爬虫類2%、鳥2%で構成されています 〔van Staaden 1994〕。

寿命

野生で5~15年 〔van Staaden 1994〕、ペットで12年以上 〔Honolulu Zoo 2001,Oakland Zoo 1999〕、最大寿命は20.6年 〔Macdonald et al.2014〕 と言われています。

特徴

ミーアキャットは多くの野生での行動や習性が、ペットで飼育をしていても数多く残っています。

性格

性格は好奇心旺盛で、昔は人に馴れていない個体が多かったですが、近年はとても慣れる性格の個体が多くなっています。サソリをも食べてしまうくらい気性が荒い面もありますが、仲間を思う気持ち、馴れた人に対する甘えなど愛情深い面も備わっています。飼い主と一緒に寝るという行動も、群れで生活していた名残りです。

穴掘り

巣穴を掘る行動も習性の一つです。ペットで飼育していても、地面を掘る行動が見られます。穴掘りのために指と爪が長いのです。

立つ姿

ミーアキャットの魅力は「立つ仕草」が印象的です。多くの人がミーアキャットと言ったらこの立って遠くを眺める姿をイメージします。この行動をとる理由は2つあります。1つは巣穴の周囲を警戒するためです (センチネル行動)。もう1つは日光浴として、太陽に向かって体を暖める習性の名残りです。生息地は夜の冷え込みが厳しく、巣穴で眠っている間に体温が低下するため、日の出とともに巣穴から出て、太陽に向かって立ちあがり体を温めます。体を太陽の熱で温めてから活動するという習慣です。

ミーアキャット

鳴き声

ミーアキャットは音と匂いで常にコミュニケーションをとっています。基本的に大きな声をあげることはありませんが、20〜30種類の鳴き声があります。かまってほしい時は「クークー」、遊んで興奮している時は「クックック」、「ウィウィ」、威嚇の時は、「シュー」、「シャー」などという声を絶え間なく鳴いています。この声は実際の所、とても複雑で、天敵からの防御、子の世話、巣穴を掘る共同作業、日光浴、寄り添い、攻撃性など、多くの状況で12種類の鳴き声の組み合わせがあったという報告もあります 〔Townsend et al.2011,Collier et al.2017〕。

マーキング

ミーアキャットの臭腺は頬と臭腺(肛門腺)にあり、臭い付けをすることで、縄張りの確認と家族内の個体識別を行います。

細長い身体

体は細長い円筒状で、四肢は相対的に短いです。巣穴に潜るに適した体型をしています。

体臭

体臭は特有の麝香臭を放ち、臭腺 (肛門腺)、頬と肛門付近に分布する分泌腺、身体全体に分布する皮脂腺が体臭の原因です。特にオスは臭腺が発達しています 〔祖谷ら 1991〕。また、便、尿、唾液を使って縄張りを主張します。頬の臭腺は一般的に群れの仲間とコミュニケーション、肛門腺は縄張りの確認で使われます。

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可愛い顔

顔も鼻に向かって先細りになり、額が丸くなっています。鼻は幼体は明るいピンク色ですが、成熟するとメスはピンク色を保ち、オスは強く黒色に変色する傾向があります。

鋭い嗅覚

臭いで認識する習性があるため、強力な嗅覚を備えています。仲間や他のミーアキャットを特定したり、地下にいる獲物を嗅ぎ分けたり、交尾の際のメスの受け入れも判断します。

柔らかい毛皮

背側の被毛は短いですが、尾の基部は約2 cmと長く柔らかい被毛で被われています。腹部はまばらに短い被毛です 〔祖谷ら 1991〕。

尾は細くて先細りになっています。直立する時に尾でバランスを取りますが、他にも興奮や警戒の際の自己主張では、高くまっすぐに立てたりします 〔van Staaden 2014〕。

丸い頭蓋

丸い頭が特徴的で、大きな眼窩があるため、眼はやや窪んで見えます。

泥棒顔

目の周りは丸く暗色~黒褐色に太く縁どられ、これはサングラスのような機能があり、太陽のまぶしさをそらして周囲をはっきりと見ることができます。他にも縁どられた目はよい大きく見せることで、天敵を脅すことができると言われています。

ミーアキャット

発達した瞬膜

巣穴を掘る時に砂が入らないように目を保護する目的で、角膜を覆うことができる (瞬膜) が発達しています。睡眠中は白目を剥いたように見えますが、これは瞬膜が進展して覆っているのです。

小さい耳

耳は小さくて丸い形をしています。巣穴を掘る時に砂が入らないよう閉じることができます。

長い指と爪

四肢は細く、指の数はそれぞれ4本です 〔祖谷ら 1991〕。

ミーアキャットの指

巣穴を掘る前肢の爪は1.5cm位と長く、後肢の爪の2倍以上の長さになります 〔祖谷ら 1991〕。

ミーアキャットの爪

歯の数

歯式は3/3 1/1 3/3 2/2 の計36本です〔Van Staaden 2014〕。

ミーアキャットの歯

繁殖

ミーアキャットは繁殖が難しい動物で、そのために自家繁殖が薦められていません。飼育下での繁殖方法も、確立されていませんので、情報が列記されているものだけをピックアップしました。

性成熟

1歳前後で性成熟しますが 〔van Staaden 1994〕、繁殖のメスは体がしっかりさせるために約2年を要します 〔Clutton-Brock et al.1999〕。飼育下では、31ヵ月で成熟し、11頭の子を産んだ報告がなされています 〔van Staaden 1994〕。

繁殖期

ミーアキャットは年間を通じて繁殖は可能ですが、野生でのカラハリ砂漠の南部では8月から3月までの雨が多く、暖かい時期に繁殖をします 〔Estes, 1991; van Staaden, 1994〕。発情期は非常に気性が荒くなります。馴れているのにかむようになったり、オスは肛門腺をあちこちに擦り付けるような行動をとりはじめます。発情期に気性が荒くなったら、かまれると危険なので掃除や餌やりなどでケージ内に手を入れる場合は、厚い手袋などで手を保護して行って下さい。ミーアキャットの噛む力は強いです。

交尾

オスはメスをマウントして、うなじを押さえ込んで交尾をします〔van Staaden 1994〕。

ミーアキャット

妊娠

妊娠期間は約11週で 〔van Staaden 1994〕、メスは年に1回、2~4頭の子を産みます 〔Estes 1991〕。乳頭の数は6個 (3対) です。

子育て

新生子は耳と目が閉じた赤子として生まれます。耳は約10日齢で開き、目は10~14日で開きます。離乳は49~63日齢です。

ミーアキャット

オスや若いミーアキャットは群れの中で育子を助け、遊び方や餌の探しかたなどを教えます。群れの他の個体も共同で子育てや若い個体を守り、餌を供給するなど世話をします 〔van Staaden 1994〕。

ミーアキャット

参考文献

  • Collier K,Townsend SW, & Manser MB. Call concatenation in wild meerkats. Anim Behav134:257–269.2017
  • Estes R.The Behavior Guide to African Mammals:Including Hoofed Mammals,Carnivores,Primates.University of California Press. Berkeley.1991
  • Honolulu Zoo. Meerkat – Honolulu Zoo Society (On-line).Honolulu Zoo Society.Last update day: Unknown. https://www.honoluluzoo.org/services/meerkat/#1554430928820-e9233c93-2432 (Accessed: 16-July-2024)
  • Rood J,Wozencraft WC.スリカータ.動物大百科 1 食肉類.DW マクドナルド編.今泉吉典監修.古屋義男訳.平凡社.東京.167.1986
  • Macdonald DW.Suricata suricatta Meerkat (Suricate).In Mammals of Africa.Volume V:Carnivores,Kingdon J,Hoffmann M eds. Pangolins.Equids and Rhinoceroses.Bloomsbury.London:347-352.2014
  • van Staaden MJ.Suricata suricatta.Mamm Species483:1-8.1994
  • Oakland Zoo.Oakland Zoo | Slender Tailed Meerkat (On-line). Conservation Society of Carifolnia.Last update day: Unkown. https://www.oaklandzoo.org/animals/slender-tailed-meerkat (Accessed: 19-July-2024)
  • Rauber R,Manser MB.Experience of the signaller explains the use of social versus personal information in the context of sentinel behaviour in meerkats.Sci Rep8(1):11506.2018
  • Steiniger S,Hunter AJS.A scaled line-based kernel density estimator for the retrieval of utilization distributions and home ranges from GPS movement tracks.Ecol Inform13:1-8.2013
  • Townsend SW,Zöttl M,Manser MB.All clear? Meerkats attend to contextual information in close calls to coordinate vigilance.Behav Ecol Sociobiol65 (10):1927-1934.2011
  • 祖谷勝紀,伊東員義.ジャコウネコ科の分類.世界の動物 分類と飼育2 (食肉目).今泉吉典監修.東京動物園協会.東京:78-118.1991

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。