夜行性の小型哺乳類と鳥類

生活リズム

それぞれの動物には生活する上でのリズムがあります。昼あるいは夜に活動し、それは天敵からの逃走、餌の確保のためなどに所以して決定されています。脳内で、活動や睡眠などのリズムが整えられています。私たち人間は朝起きて昼に活動して夜に眠りますが、動物によって人と同じに昼に活動する動物 (昼行性:Diurnality)、反対に夜に活動する動物 (夜行性:Nocturnality)に分けられます。近年は、昼も夜も動き回るという周日行性(Cathemerality)の種類も多いとされています〔Tattersall 1987,Jacobs 1993〕。その活動に沿って各身体の機能が働くために、可能な限りそのリズムを飼育下でも再現できることが望ましいです。このリズムが崩れること、精神や体に良くない影響をおよぼします。時差ボケは代表的な例の一つですが、長期的なリズムの乱れになると、深刻な体の健康を悪化させます。ホルモンや代謝系および自律神経系などが影響を受けます。

昼行性の動物

昼行性の動物は、明るい昼に活動するので、光の照射、いわゆる自然の太陽光やライトが必要になります。ただ明るいだけでなく、太陽光には可視光以外の赤外線や紫外線などが含まれており、動物にとっては重要な要因になります。赤外線は保温効果があり、白熱電球が紫外線ライトとして保温のために使われることが多いです。紫外線は、シマリス、プレーリードッグ、ジリスなどのリス類、コモンマーモセットやリスザルなどのサル類、インコやオウムでは重要です。紫外線はビタミンDの合成やカルシウムの骨への沈着の作用を施しますので、紫外線が不足すると代謝性骨疾患くる病などの骨の病気になりやすくなります。屋内飼育では紫外線の290~320nmの波長を含むライトを、昼間の時間に合わせて照射するべきでしょう。紫外線はガラスを通過しないため、ガラス越しの太陽光を浴びさせても意味はないです。

夜行性の動物

夜行性の動物は、夜間に摂食や生殖どの行動を行い、昼間は休息しています。しかし、日没から夜明けまで一晩中活動するもの、日没後と夜明けの2回の活動ピークをもつもの、日没後のみ活動するものなど様々です。夜間に活動するために、夜間の視力が増大したり、嗅覚が発達するなどの機能を備え、光を避けて行動する性質が強いです。フクロウ、コウモリ、原猿などの夜行性の高等動物では、網膜には弱い光に感じて明暗の識別できる視細胞が発達している。コウモリは超音波を用いて餌や障害物の探知を行いながら夜間飛翔をします。夜行性動物の夜間に活動する理由として、諸説唱えられています。明るい昼間は天敵に狙われやすいため夜間に活動する、昼行性の獲物となる動物が休息している夜間にそれを狙う、あるいは昼間の直射日光に照らされと体温が上がりすぎて支障をきたすなどが上げられています。ただし、夜行性といっても、昼にも活動したり、夜の活動以外に餌を食べるために昼に起きる習性の動物もいます。どのパターンであっても、基本的に主な活動時間が夜であれば夜行性となります。しかし、明け方の日が出る前や後の薄明、日が落ちる前後1時間程度の時間を薄暮と定義され、薄明薄暮の時間帯に活動するものを薄明薄暮性といいます。つまり、日中や夜は寝ていることが多く、明け方や日暮れに活動物になります。ウサギ以外の動物では、ハムスター、フェレット、そして野生動物であればクマやシカもこの薄明薄暮性の動物になります。明け方や夕暮れに活動する理由は、活動しやすい時間帯であるため、または天敵に狙われにくいからといわれています。例えは、夏では、暑さが苦手なウサギにとって日中の時間帯に活動するのは体力が奪われますが、明け方や夕暮れであれば気温も下がり、より活動しやすいです。また、日中に活動する天敵から身を守るためにも、天敵が活動していない時間帯に活動しています。なお、ペットのウサギであるアナウサギは薄明薄暮性ですが、野生のウサギには夜行性のニホンノウサギ、エゾユキウサギ、アマミノクロウサギは、アナウサギよりも夜行性が強くなります。

光を感じる目の中の網膜には桿体細胞と錐体細胞の2種類があります。桿体細胞は暗い場所で機能して光に対する感度が高く、逆に錐体細胞は明るい場所で機能し色彩の識別を行います。可視光の波長が約400~800nm、長い側の波長の光(赤~黄~緑)に感度の高いL錐体(赤錐体)、短い側(青~紫)に感度の高いS錐体(青錐体)、それらの間(緑~青)に感度の高いM錐体(緑錐体)の3種類があり、人は3色型色覚です。もともと脊椎動物の祖先は 4 種の錐体視物質をもっていたと考えられています〔Yokoyama 2000〕、現生の魚類、爬虫類、鳥類は4つのタイプの錐体細胞を持ち、長波長域の赤から短波長域近の紫外線まで感じられると考えられていますが、進化した哺乳類の祖先は夜行性であったため、色覚を一部失ったといわれています。多くの哺乳類は2つのタイプの錐体細胞しか持っておらず、これは初期の哺乳類は夜行性であったために多彩な色覚を持つ必要がなく、赤色と紫外線を認識する必要がなくなった2色型に退化したと考えられています。ウサギでは赤色は識別できず、青色、黄色、そして灰色は見分けられるようです。哺乳類は進化を続けるうちに、夜行性から昼行性へと生活を変える種が発現し、霊長類が最初に昼行性へと適応したと考えられています。熟した赤い色の果実を背景の緑の葉から選び出す様子・・・雌の皮膚の赤色により発情に関する情報を知ることができるなど・・・視覚を得れるこいとは大変有用です。それに伴って霊長類(真猿類)は3色型を持つ個体がスタンダードとなり、一部の原猿類は夜行性のままの2色型視覚です〔Changizi et al.2006〕。なお、現在でも多くの鳥類や爬虫類は4種の錐体視物質をもっている。また、聴覚を発達させたものもおり、大きな耳介をしたオオミミギツネやフェネックなどです。昆虫食のコウモリは目が小さく視覚は劣っていますが、大きな耳を持って、鼻から超音波を発し、物体にあたって戻ってきた超音波を大きな耳でとらえ、障害物を避けて飛ぶことができます。ハムスターやラット・マウスなども超音波でコミニケーションをとっています。夜行性の鳥類は少ないですが、フクロウが有名であり、基本的に捕食時と外敵に襲われそうな時にしか活動せず、人には簡単にはなつきませんので、飼い主がフクロウの活動時間に合わせなければならず、飼育は苦労します。他の夜行性の鳥類としてはミゾゴイ、ヨタカ、ゴイサギ、ヒクイナ、ジュウイチ、トラツグミなどがあげられます。

ネズミの超音波の詳細な解説はコチラ!

夜行性の動物は、昼はケージを暗い所に移すか、ケージに毛布などの被せます。昼夜をしっかりと明確にしてないないと、生活のリズムが崩れ、マウス、ラット、ハムスターなどのげっ歯類では発情ならびに繁殖活動に大きく影響することが分かっています 〔田嶋 1991〕。夜行性のフクロモモンガなども昼夜を明確にしないことが、ストレスの原因となり、自咬症の一原因とされています。つまり、昼も夜も電気をつけっ放しにしていると体のリズムが崩れる原因になります。一方で、フェレットやフェネックは昼間にも活動します。特にフェレットでは1日の間に数時間活動して数時間休むを繰り返し、飼い主の活動時間に合わせることもできます。

参考文献

  • Changizi MA,Zhang Q,Shimojo S.Bare skin, blood and the evolution of primate colour vision.Biol.Lett2:217-221.2006
  • Collins BR.Antimicrobial drug use in rabbits,rodents,and other small mammals.In Antimicrobial Therapy in Caged Birds and Exotic Pets:An Internatinonal Symposium.Veterinary Learning Systems.Florida:p3-10.1995
  • Tattersall I.Cathemeral activity in primates:A defi nition.Folia Primatol49:200-2002.1987
  • Jacobs GH.The distribution and nature of colour vision among the mammals.Biol Rev68:413-471.993
  • Yokoyama S.Molecular evolution of vertebrate visual pigments.Prog.Retinal Eye Res19:385-419.2000
  • 田嶋嘉雄.実験動物学.朝倉書店.東京.1991

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。