イモリ・サンショウウオの繁殖

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卵生

イモリ・サンショウウオは基本的には卵性で、ファイアサラマンダーのように卵管の中で卵を孵化させ幼体になってから体外に放出する卵胎生の種類も一部います。

基本的には水中で産卵し、幼生は四肢を持たない形で生まれ、鰓呼吸で水中生活を行います。その後変態を経て肺呼吸が出来る成体に変化します。両生類が完全に水から離れて生活できない要因の一つに、卵が卵殻に包まれておらず、寒天質に包まれた卵が1個ずつかあるいは卵塊として産みつけられ、乾燥に弱い点です。受精方法は基本的に体内受精ですが、サイレン上科のなど一部の種類では体外受精で行われます〔森 2018〕。

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オスの発情

繁殖期のオスは精包をつくるため総排泄孔周囲が膨らんできます。特有の体色(婚姻色:Nuptial coloration)が見られ、求愛行動をメスに示します。婚姻色は発情期にのみ現れ、体の一部が目だつ色に変わります。アカハライモリでは尾の部分が青白を帯びた金属光沢のように見えます。ハナダイモリでは体側から尾にかけて青色の婚姻色を呈し、和名のハナダ(縹色)や英名のBlue-tailed の由来になっています。なお、オキナワシリケンイモリでは婚姻色を呈さないという報告もあります〔Sparreboom et al.1995〕 。

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受精

体内受精は精子を受け渡す形で行われます。発情したオスに婚姻色が現れて、水中での華やかな求愛行動を示します。発情したオスはオスがメスの行く先に回り込み、紫色の婚姻色を呈した尾を身体の横まで曲げて小刻みに振るわせるなど複雑な求愛行動が見られます。発情したオスは水底を歩きまわり、メスに泳ぎ寄っていき、鼻を押しつけてに匂いをかぎます。そのメスの進路をふさぐように、鼻先で盛んに尾を震わせ、オスは総排出腔が開き、アカハライモリでは中にある毛様突起から雌を誘惑するフェロモンであるソデフリン(Sodefrin)が分泌されて、メスを発情させます。メスがその求愛を受け入れない場合は、オスを振り切るように泳ぎ去ってしまいます。なお、アカハライモリと同属のシリケンイモリを用いてソデフリンの反応を試したところ、イモリでは種が異なれば異なる物質をフェロモンとして用いている可能性が高く、全く反応しませんでした〔Toyoda et al.1994〕。メスが求愛を受け入れる場合、メスはオスの首部や胴体を軽く鼻先でつつき、オスはメスに尻を向けて、尾を曲げてゆっくりと前進遊泳します。メスはオスの後について歩き、また鼻先でオスの尾をつついて合図を送ります。オスは、尾を曲げたまま持ち上げて、総排出腔から精子が入った精包を水底に落とし、メスはオスの後ろについて歩き、精包の上を総排出腔が通る際に、総排出腔周辺部分を伸ばします。精包は酸 性ムコ多糖に富む基質に精子が閉 じ込め られているもので、粘着性があるため、メスの総排出孔の縁が突出しているために付着して、突出部が中に収 まって精包は総排出腔の入りくんだ中に貯 えられます。取り込まれた精包から出た精子は、総排出腔内にある貯精嚢に蓄えられます。メスは産卵の際に、この精子を使って卵を受精させます〔林1996,蓮沼ら2011〕。

卵胎性の陸生のファイア-サラマンダーは夏に交尾して、春に出産します。夏に発情したオスは総排泄孔が腫大し、メスに求愛行動を示します。また、オス同士の縄張り争いも激しくなり、レス リングのような取っ組み合いが見られます。雌雄は鼻孔の奥にあるヤコブソン器官で性成熟した相手のフェロモンを嗅ぎ取り、相性が合うとオスは前肢でメスを背中からがっちりと掴み、抱えるような行動をとります(抱接)。交接は他の有尾類とは違い陸上で行われ、自身の総排泄孔から出た精包をずらして器用に相手の総排泄孔まで誘導します。こうしてメスの卵管内で卵は受精して受精卵となり、受精卵は卵管内で孵化し、幼生は卵管内に留まります。妊娠期間は約8~9ヵ月ほどで、メスは水辺に移動して水中へ2.5~3.5cmぐらいの成長した幼生を産み落とします。一度に産まれてくる数は平均20~30頭、多い時は50~70頭になります。高地の個体群は1年おきにしか出産しないことが知られ、精子は数年間保存が可能で、続く産卵期には交接無しで出産できます。陸上で変態の終わった数体の幼体を産む(胎生)亜種としては、スペインに分布する S.s.fastuosa の一部(同一個体でも幼生を産んだり幼体を産んだりする)とS.s.bernadezi やS.s.alfredschmidtiが知られています。温暖で水場に乏しい乾燥した気候に対する適応と考えられ、この場合、幼生は母親の卵管の中で無精卵を食べて成長します〔Kopp et al.2000,Richard 1996〕。

性決定

両生類にも遺伝的に性別が決まる種類と、温度や性ホルモンによって影響を受ける種類がいます。つまり受精卵の段階で遺伝的な影響を受けて性別が決まることもあるが、環境の影響を受けて性別が決まることも多いようです。

幼生

孵化した幼生には尾が発達し、外鰓を生じて水中生活を送ります。幼体は四肢を欠いて、尾鰭があるなど魚類に似ていますが、変態後には鰓は体内に隠れ四肢を生じ、陸に上がれるようになります。四肢は孵化時からある種類もいますが、変態で後から生える時は、カエルとは逆に前肢から生えます。流水性の幼生は、流されないように石などにつかまるため四肢に爪を持ち、止水性の幼生は体側にバランサーといわれる突起物を持っています。

共食い

イモリ・サンショウウオの幼生は共食いもよくすることが知られ、一部の種では、幼生の生息密度が高いと共食いモルフといわれる、共食いに適した頭部が巨大化した形態になることもあります。

ネオテニー

一部のサンショウウオの種類では幼形成熟(Neoteny:ネオテニー)が見られます。 アホロートルのようにホルモン(チロキシン)を与えれば変態する種も、ホライモリのようにどうやっても変態しない種もいます。またサイレン科のように、一生外鰓が残ったりする不完全な変態をする種もいます。

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表:水生イモリの繁殖情報

種類性成熟繁殖期繁殖形式産卵数変態期間
アカハライモリ2‐3年4~7月に発情、その後に産卵卵生最大40 個/ 回(繁殖器官に複数回産卵する)約3ヵ月
シリケンイモリ2‐3年12 月~翌5月に発情、その後に産卵卵生最大20 個/ 回(繁殖器官に複数回産卵する)3‐4ヵ月
ハナダイモリ5~6月に発情を、その後に産卵卵生

表:陸生イモリの繁殖情報

種類性成熟繁殖期繁殖形式産卵数変態期間
ファイヤーサラマンダー3‐4年春もしくは秋に発情、翌春に出産卵胎生30‐70匹/ 回温暖地域では約1ヵ月,寒冷地域は3‐6ヵ月
トウブタイガーサラマンダー11‐12月卵生最大25-30個/回
スポテッドサラマンダー4年晩冬‐初春卵生100‐1000個/繁殖期2.5-5ヵ月

両生類の特徴の詳細な解説はコチラ!

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参考文献

  • Kopp M,Baur B.Intra-and inter-litter variation in life-history traits in a population of fire salamanders (Salamandra salamandra terrestris).J Zool.Lond250:231-236.2000
  • Richard AG.Newts and Salamanders of Europe.T&AD Poyser Natural History.1996
  • Sparreboom M,Ota H.Notes on the life history and reproductive behaviour of Cynops eniscauda popei (Amphibia Salamandridae).Herpetological journal5(4):310-315.1995
  • Toyoda F,Tanaka S,Matsuda K,Kikuyama S.Hormonal control of response to and secretion of sex attractants in Japanese newts.Physiol Behav55(3):569-76.1994
  • 林光武.イモリ, 竹中践(著) 日高敏隆(監修) 千石正一、疋田努、松井正文、仲谷一宏(編) 日本動物大百科5:両生類・爬虫類・軟骨魚類. 平凡社.東京:p24-25.1996
  • 森光明.ヒメヌマサイレン(pseudobranchus striatus)の繁殖(続々報)体内受精か体外受精か? ヒメヌマサイレンは体外受精.クリーパー14 (79):p88-91.2018
  • 蓮沼至,豊田ふみよ,山本和俊他.ロラクチンおよびアルギニンバソトシンによるアカハライモリ求愛行動発現機構.C比較内分泌学.37(141).81–85.2011

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。