ヘビのピット器官(赤外線レーダーの原理)

赤外線感知感覚器

ピット器官(Pit organ)は一部のヘビが備える赤外線感知器官です。ボア科ボア亜科、ニシキヘビ科、クサリヘビ科マムシ亜科のみがピット器官を持り、ボア科、ニシキヘビ科は人間でいう唇にあたる鱗(上唇板、下唇板)に窪みあり、口唇窩(Labial pit)と呼ばれます。マムシ亜科では鼻孔と眼の間に1対のみ持ち、頬窩(Loreal pit)と呼ばれます〔Newman et al.1981〕。ここには多くの神経や毛細血管が集まっていて、わずかの熱(赤外線)を感じ取る事ができ〔Newman et al.1981〕、基本的に5~30μmの波長の放射熱を感知できます〔Newman et al.1981〕。マムシのピット器官では、光がなくても獲物を正確に攻撃し、数m離れた獲物を検出することができます〔Goris et al.1973〕。以前は主に獲物を探知するために進化したと考えられていましたが、最近の研究では体温調節や外的である捕食者の探知にも使用されている可能性が示唆され、想定されていたよりも汎用性の高い感覚器官となっています〔Krochmal, Aaron R et al.2004,Greene 1992〕。

視覚が良くない夜行性の種が多いヘビにおいて、夜間見通しが悪い中でも獲物である小型恒温動物の存在を察知することに役立っています〔Funk 1996〕。特にニシダイヤガラガラヘビは他のヘビより優れており、目を覆われても獲物を追跡・捕食できるという報告もあります〔Goris et al.1973〕。この器官は人の赤外線センサーに応用されました。

解剖

マムシのピット器官は、吻側の深いポケットと、その上に張られた膜で構成されています。膜は血管が多く、三叉神経の末端から形成される多数の熱感受性受容体によって高度に神経支配されています。したがって、受容体は個別の細胞ではなく、三叉神経自体の一部が広がっています。ボアやニシキヘビのピット器官はマムシよりも単純で、同様に神経支配され、血管が通っている膜で裏打ちされた単純なポケットをしています〔Goris et al.2003,Newman et al.1980〕。

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参考文献

  • Goris RC,Terashima S.Central response to infra-red stimulation of the pit receptors in a crotaline snake,Trimeresurus flavoviridis.Journal of Experimental Biology58(1):59-76.1973
  • Goris CR et al.The microvasculature of python pit organs:morphology and blood flow kinetics.Microvascular Research65(3):179-185.2003
  • Greene HW.The ecological and behavioral context for pitviper evolution. In Campbell JA, Brodie ED Jr.Biology of the Pitvipers.Texas: Selva.467:p17 plates.1992
  • Newman EA,Gruberd, ER,Hartline PH.The infrared trigemino-tectal pathway in the rattlesnake and in the python.The Journal of Comparative Neurology191(3):465-477.1980
  • Newman EA,Hartline PH.Integration of visual and infrared information in bimodal neurons in the rattlesnake optic tectum.Science213(4509):789-791.1981
  • Krochmal, Aaron R.; George S. Bakken; Travis J. LaDuc.Heat in evolution’s kitchen: evolutionary perspectives on the functions and origin of the facial pit of pitvipers (Viperidae: Crotalinae).Journal of Experimental Biology207(Pt 24):4231-4238.2004

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。