皮膚細菌感染症
カエルに細菌による皮膚病は頻繁に見られる病気です。しかし、多くが飼育が不適切なため、その結果カエルの免疫力が低下して感染が起こります。いわゆる抗菌ペプチドが正常に分泌されないような状態に陥ったカエルに好発しやすいのかもしれません。
赤肢病
カエル(無尾類)で最も有名な細菌性皮膚炎は赤肢病 (レッドレグス: Red‐legs/レッドレック: Red‐leg)、赤脚症候群 (レッドレグス症候群/レッドレック症候群) と呼ばれ、全身症状も起こるので細菌性皮膚敗血症とも言います。野生よりも飼育下のカエルに多発し、昔から有知られています〔Wright 2012, Densmore et al. 2007〕。イモリやサンショウウオの有尾類でも発生します。
症状
病名の通りに皮膚の紅斑が見られ、腹側または後肢腹側に好発するために命名されました〔Densmore et al. 2007〕。皮膚の紅斑はピンク色~赤色で、血管拡張やうっ血、および点状あるいは斑状出血が見られ、次第に皮膚の局所の浮腫、表皮糜爛、潰瘍や脱落、または壊死が起こります〔Lewbart 2001〕。二次的に全身性浮腫(カエル風船病)も発生する可能性があります。他にも、食欲不振、全身の浮腫、体腔滲出液(胸腹水)、鳴かなくなる、総排泄腔脱、喀血、痙攣などが見られます。また全く兆候がなく突然死した報告〔Densmore et al. 2007〕や、眼病変として角膜浮腫、前房蓄膿、眼内炎、および眼球突出も見られることもあります〔Wright et al. 2001〕。
原因菌
最も頻繁に検出されているのはAeromonas hydrophilaです。その他、Chryseobacterium indologenes, Chryseobacterium meningosepticum, Citrobacter freundii,Klebsiella pneumoniae, Proteus mirabilis, Pseudomonas aeruginosa, Serratia liquefaciensなどのグラム陰性菌が原因菌になります〔Nyman 1986, Taylor et al. 2001〕。さらに、いくつかのグラム陽性菌 (Streptococcus spp., Staphylococcus spp.) も発生に関与しています〔Crawshaw 1992, Mauel et al.2002〕。
これらの細菌の多くは、健康なカエルの皮膚や腸内細菌叢に通常見られる日和見菌でもありますが、カエルの免疫が低下した際に発病します〔Hird et al.1981, Carey and Bryant 1995, Taylor et al. 2001〕。
予後
細菌が水中でよりよく伝染するので、水生のカエルは感染しやすい傾向にあります。ヒキガエルのような種類では、水中での交配期間を除いて陸場で生活しているので感染を広げる可能性が低いです。水質と濾過器が不十分な環境でのカエルで、複数飼育をしていると容易に感染します。 赤肢病の致死率は全身状態の悪化が見られると81~100%とも言われています〔Wright 2012,Drake et al.2010〕。
今までの定説がひっくりかえった
研究者らは赤肢病を、Aeromonas hydrophilaをはじめとする細菌感染と決めつけていますが、同様の症状を示す可能性のある非細菌性病原体として、ラナウイルスおよびBatrachochy-trium dendrobatidisによる感染 (カエルツボカビ症) が含まれています〔Cunningham et al. 1996)。つまり、実際に赤肢病を示す病態には細菌以外にウイルスなどの感染の可能性もあるという説です。赤肢病は約100年も前から知られており、昔の死後の剖検では単純な菌分離しか行われていませんでした。両生類は死亡すると皮膚の抗菌ペプチドが分泌されなくなり、二次的な細菌による皮膚や臓器への侵入が容易に起こります。両生類は哺乳類などよりも、死亡すると皮膚も内臓の変化が迅速に発生するため、剖検の際には当然細菌が侵入して赤肢病と診断されがちです。例えば、Citrobacter spp., Proteus spp.などの腸内細菌も必然的に分離されてしまいます。つまり、過去の歴史的に報告された赤肢病は過剰診断につながった可能性が高いのです。
フラボバクテリア症
フラボバクテリウム属(Flavobacterium spp.)の細菌はグラム陰性の黄色色素産生という特徴を持っています〔Taylor et al.2001〕。フラボバクテリウムは、水生環境に広く存在し、両生類から分離されているものは、F. oderans, F. indolo-genes, F. meningosepticumなどです〔Green et al. 1999, Olson et al. 1992〕。症状は赤肢病と類似し、水疱瘡や舌浮腫、角膜浮腫、眼球炎、および内臓うっ血が起こります〔Keller et al. 2002, Olson et al. 1992, Taylor et al. 2001〕。全身の感染を起こすと浮腫症候群と呼ばれる、体全身の浮腫と体腔滲出液(腹水)が見られますが、ラナウイルス感染症、その他の全身性細菌感染症、腎炎、リンパ性心臓病など様々な病因でも発生するので鑑別が必要になります。
マイコバクテリム症
マイコバクテリウム属 (Mycobacterium spp.) の細菌は、グラム陽性の抗酸菌です。マイコバクテリアの多くは病原性がありますが、両生類では目立った症状が見られずに、徐々に進行します〔Green 2001〕。両生類から分離されたものは、M.marinum, M.chelonei, M.fortuitum, M.xenopi, M. abscessus, M.avium, M.szulgaiなどです〔Chai et al.2006〕。マイコバクテリアの感染症は初期は微妙または不明瞭で、菌が全身に広がるまで何の症状も見られません。慢性肉芽腫性炎症として発見されることが多く、病変は皮膚に孤立性または多発性の結節が見られ、肝臓、脾臓、腸、腎臓などの内臓にも肉芽腫性炎症を起こします。カエルは活動性が低下し、削痩あるいは体重減少、粘液膿性の鼻汁などが見られます。マイコバクテリウムの一部の菌種は人獣共通感染症であるため、感染の可能性のある動物との取り扱いは注意しないといけません。
診断
カエルの皮疹からの微生物検査で菌分離を行います。あるいは皮膚の一部を切除して(生検査)して病理検査をして診断しないと分からないこともあります。カエルは弱ると皮膚の抗菌ペプチドが分泌泌しなくなるため、細菌感染が原因でなく、他の要因(ウイルスや真菌感染、不適切な飼育環境など)が大きな原因となります。
治療
抗生物質感受性試験などで原因菌を選定した抗生物質を投与します。一般的には以下のような治療が薦められています。
参考文献
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