目次 [表表示]
- 子孫繁栄のための特殊なシステム
- オス・メスが分かるのに10年以上?
- オスとメスの違いは、体の大きさと尾と肛門!
- 卵が孵化する温度で雌雄が決まる?
- メスはオスの精子を数年間、体の中でストックする?
- 違うオスの遺伝子を持った卵を一度に産卵する!
- 繁殖させてみよう
子孫繁栄のための特殊システム
カメの繁殖は哺乳類や鳥類と比べて変わった点が多いです。カメは成長が遅いので性成熟に時間がかかり、自然の摂理からオスとメスの比率が偏れば、比率を同じにすることもでき、繁殖相手がいなければ1年以上の前に交尾して得られた精子を使って受精することもできるという特殊なシステムを持っています。
オス・メスが分かるのに10年以上
カメは長寿な動物で、性的な成熟(性成熟)するのにも時間がかかります。性成熟を迎えたカメは、オスは交尾が可能になり、メスは卵を産めるようになります。カメの性成熟は年齢でなく、一般的に身体のサイズで決まります。性成熟をする身体のサイズに成長するまでの年齢は、種類、飼育環境やエサによって異なります。下記の表に記載されている性成熟の甲長が体のサイズのことです。明確な性成熟を迎える甲長が分かっていない種類は、成熟に費やす年齢が記載されています。野生のカメはペットのカメよりも成長するに時間がかかります。ペットのカメは毎日エサが与えられることから成長が早く、野生で報告されている性成熟の年齢の約1/2~2/3の時間と思って下さい。
表:カメの性成熟の甲長と年数
種類 | 甲長 | 野生での要する年数 | 飼育下での要する年数 |
ギリシャリクガメ | オス 12~13cm | 12~15年 | 5~7年 |
メス 約20㎝ | |||
ヨツユビリクガメ | オス 12~13cm | 20年 | ~10年 |
メス 約20㎝ | |||
ミシヒッピアカミミガメ | オス 10~11cm | 2~5年 | |
メス 17~21.5cm | 5年~ |
オスとメスの違いは、体の大きさと尾と総排泄孔
性成熟すると、体の大きさ(甲長)、尾の形ならびに総排泄孔の形、甲羅の形状などの二次性徴や行動によって雌雄が鑑別できます。
陸ガメ
雌雄鑑別は、主に甲長、総排泄孔や尾の形、行動などで判断します。しかし、いずれの場合も、幼体の時には区別がつきにくいことがほとんどです。
体の大きさ(甲長)
オスはメスよりも甲長が小さいのですが、陸ガメでは大きさの違いはあまり感じられないかもしれません。
尾・総排泄孔
オスは総排泄孔の近くにペニスが存在するため、尾は長く太いです。興奮すると総排泄孔からペニスが出てくることがあります。
オスの尾は後ろから観察するとペニスがあるために太く、曲がっていることが多いです。
メスの尾はオスと比べて短く、後ろから観察しても曲がる長さではありません。
オスの総排泄孔はスリット状で細長いです。これはペニスを出し入れするからです。
メスの総排泄孔はオスと比べて細長くありません。
甲羅
オスの背甲の臀甲板は横から観察すると折れ曲がって下垂していますが、メスは下垂していません。
腹甲の最尾側にある肛甲板が広く開いているとオス、狭いとメスですが、この鑑別は微妙で、分かりにくいです。オスは太くて長い尾を持つために広がっていますが、メスはその角度が狭いです。下の写真を見ると左のカメの方が右のカメと比べて体が小さく、尾も太くて長いです。
下の写真の左のカメの肛甲板にはV字に切れ込みが入って見えますので、オスと思われます。
オスは腹甲がへこんでいます。これはオスがメスの背中に乗って交尾をし、ペニスをメスの総排泄孔に挿入しやすくするためです。
ヘルマンリクガメやヨツユビリクガメのオスの尾の先端には角質の突起があります。
行動
発情行動として、オスはメスの頭や首、手足にかみついたり、メスの背甲にぶつかったり(甲アタック)、甲羅の上に乗る交尾行動が見られます。
表:リクガメの繁殖知識
種類 | ギリシャリクガメ 〔Buskirk et al.2001,Pieau 1972〕 | ヘルマンリクガメ 〔Eendecak 1995, Bertolero et al.2998〕 | ヨツユビリクガメ 〔Pieau 1972〕 | インドホシガメ 〔安川 2001,安川2011〕 |
繁殖形式 | 卵性 | 卵性 | 卵性 | 卵性 |
性成熟 | 甲長 約16cm(オス7‐8年メス12‐14年) | 甲長約10cm(約10年) | オス甲長 12‐13cm(7‐10年) メス甲長約20cm(7-10年) | オス6ー8年 メス8-12年 |
繁殖 | 北アフリカ:発情期 4‐5月(および秋),産卵期 5‐6月、ユーラシア大陸~中近東:産卵期 5-7月 | 発情期 春以降 | 発情期 春以降 | 発情期 雨季(日本では7ー8月) |
産卵数 | 5個(2‐8個) 3回/年 | 2-12個/ 回 | 3-5個/回 | 2-10個/ 回 2-4回/年 |
孵化日数 | 90-120日 | 110-115日 | ||
性決定 | 温度依存性決定(29.5℃以下オス、31.5℃以上メス、29.5‐31.5℃雌雄同比率) | 温度依存性決定(25‐30℃オス、33ー34℃メス、31ー32℃で雌雄同比率) | 温度依存性決定 | 温度依存性決定 |
水ガメ
雌雄鑑別は、体の大きさ、総排泄孔の位置や尾の形、爪や行動で判断します。他にもクサガメのオスは黒化したり、オオアタマガメは頭の大きさに差があり、ジャノメイシガメは頭の色が違うなど、種類によって様々な特徴があります。しかし、いずれの場合も、幼体の時には区別がつきにくいことがほとんどです。
体の大きさ(甲長)
オスはメスよりも甲長が小さいです。繁殖に使用する場合は体格に差があった方が上手くいきます。水ガメは陸ガメよりも雌雄のサイズの差は明確です。
総排泄孔・尾
オスは総排泄孔の近くにペニスが存在するため、尾は長く太いです。興奮すると総排泄孔からペニスが出てくることがあります。
オスの総排泄孔は、背甲の後端よりも尾方に位置します。これはオスの尾の基部にペニスがあるため、オスの尾はメスと比べて長いです。
メスの総排泄孔は、背甲の後端よりも後ろに位置します。メスの尾はオスと比べて短いです。
爪
アカミミガメの成熟したオスは前足の爪が長くなることから鑑別ができます。
行動
水ガメは発情すると攻撃的になり、メスを傷つけたり、オス同士が闘って傷つくこともあります。アカミミガメのオスはメスを追いかけて前に回り込み、前足を前方に伸ばし、小さく爪を震わせます(求愛ダンス)。
表:水ガメの繁殖知識
種類 | ニホンイシガメ〔安川2007(2)〕 | ミナミイシガメ〔安川2007(1)〕 | クサガメ〔安川2007(2)〕 | アカミミガメ〔安川2007(3)〕 |
繁殖形式 | 卵性 | 卵性 | 卵性 | 卵性 |
性成熟 | オス 甲長約8cm(約3年) メス 甲長約15cm(約10年) | 不明 | オス 甲長約12cm(約5年) メス (6-7年) | オス 甲長10-11 cm(2-5年) メス 甲長17.0-21.5 cm(5年以上) |
発情 | 季節繁殖 発情期 春 産卵期 6-8月 | 季節繁殖 発情期 秋~冬 産卵期 翌6-8月 | 季節繁殖 発情期 春 産卵期 6-8月 | 原産地 周年繁殖 日本 季節繁殖(春-夏) |
産卵数 | 1-12個/回 1-3回/年 | 1-7個/回 数回/年 | 1-14個/回 数回/年 | 2-23個/回 2-3回/年 |
孵化日数 | 約70日 | 約60日 | 60-80日 | |
性決定 | 温度依存性決定 | 温度依存性決定 | 温度依存性決定 | 温度依存性決定 |
卵が孵化する温度で雌雄が決まる
カメの雌雄の決定は、卵の孵卵する時の温度で決まる温度依存的性決定というシステムです。
精子は数年間ストックする
メスは数年間精子を生きたまま卵管内に貯蔵することができ、交尾後に時間が経った翌年の発情期にストックした精子を使い受精することができます。このシステムを遅延受精(Delayed Fertilization)と呼ばれます〔五十川1986〕。メスを一頭で飼育していても、数年前のペットショップにいた時にオスと交尾をしていたら、無精卵でなく有精卵を産むことがあり得ます。交尾してから時間が経つと精子の生存率は低下しますので、有精卵の割合は低下していきます。
違うオスの遺伝子を持った卵を一度に産卵
産卵までにメスが何頭かのオスと交尾した場合に、1回の産卵で産んだ子ガメたちの父親が2頭以上のこともあります。このような現象を多父系現象(Multiple Paternity)と呼ばれています。
繁殖
繁殖は計画的に行いましょう。増えたら引き取り手はあるか、自分で育てることができるのかよく考えて下さい。カメは性成熟を迎えて発情します。オスは精子ができるようになり、メスは卵を産むことができるようになります。繁殖に使用する場合は体格に差があった方が上手くいくと言われています。特に繁殖するメスには栄養をしっかりと採らせてください。特にカルシウムが欠乏しやすいので、カルシウム剤を含めたミネラル剤やビタミン剤の投与を心がけましょう。
交配
カメの繁殖には、いくつかのポイントがありますが、最も重要なことは相性の合うペアが作れるかどうかです。本格的に繁殖をする場合には、複数のカメを飼育し、相性のよいペアを作らないといけません。しかし、オスとメスを購入して一緒に飼育をして、何の問題もなく自然とペアになることもあります。繁殖に適した飼育環境を整えることが重要ですが、水ガメは水中で交尾を行うため、交尾がしやすいように広めの水場スペースを用意しましょう。水深は甲羅の高さの3~4倍以上は必要です。交尾は水中で行いますが、メスは産卵時に陸に上がり、巣穴を掘って産卵しますので、陸場は広めに確保しなければなりません(産卵床)。 また、陸場と水場が混ざらないように、完全に仕切るようにするとよいでしょう。陸ガメは広い陸場のスペースを提供するだけで構いません。交尾はメスの背中にオスが乗って行われ、ペニスをメスの総排泄孔に挿入します。
交配後約1~2ヵ月で産卵しますが、卵を持ったメスは、産卵前の数週間は拒食します。これは正常な現象で、多数の卵が発育し、消化管を圧迫して食欲が落ちることから、病気と間違いやすいです。産卵までの間は水分だけは頻繁に摂るので、新鮮な水だけは用意して与えて下さい。なお、成熟したメスは、オスがいなくても無精卵を産みます。また、卵胞が大きくなっても、環境が卵を産むのに適していないと、排卵して卵になる前に吸収するような現象が起こることがあります(卵胞吸収)。
産卵床
卵をもった水ガは、産卵までの間しきりに水場よりも陸場にいる時間が長くなります。リクガメも水ガメも後足で地面を掘る行動を見せ、その巣穴に産卵します。掘る行動が産卵の引き金になっていると思われるので、飼育下でも掘れる場所(産卵床)を提供する必要があります。産卵床として大きいタッパーや小さい衣装ケースを容器として、中に土を20cm位の厚さで敷いて下さい。土を食べることもあるので、肥料などが混入されていない、粘土質があまりなく、粘り気のない園芸用の黒土や赤土が理想です。粘り気が強すぎる場合は、 川砂などの砂質を混ぜて調節しますが、角ばった小石が多いと、カメの手足をや卵を傷付ける恐れがありますので取り除いて下さい。容器には出入り口を設け、カメが自由に出入りできるようにしましょう。内部は保温し、適度な湿度があった方がよいので、容器下にフィルムヒーターなどを敷き、土は定期的にスプレーなどで水をまきます。
産卵
産卵が近づとカメは落ち着きがなくなり、産卵する巣穴に尻を下げて一個づつ産卵をします。産んだ卵を後肢で巣穴の中で移動させ、産み終わったら、巣穴に土をかぶせます。上記の陸ガメと水ガメ以外の産卵数や孵化日数は下記の表にまとめてみました。
表:カメの繁殖知識
種類 | 産卵個数 | 産卵回数/年 | 孵化日数 |
カミツキガメ | 6~100個/回 | 1回 | 55~125日 |
カブトニオイガメ | 1~6個/回 | 1~2回 | 100~139日 |
スッポンモドキ | 4~39個/回 | 86~102日 | |
ケヅメリクガメ | 15~34個/年 | ~6回 | |
ヒョウモンリクガメ | 5~30個/年 | 5~7回 | 178~185日 |
アカアシガメ | 2~15個/回 | ~6回 | 140~150日 |
エロンガータリクガメ | 1~7個/年 | 1~2回 | 96~165日 |
パンケーキリクガメ | 1/回 |
人工孵化
屋外飼育で庭に産卵した場合は、そのままでも孵化しますが、孵化容器に移動して人工孵化をした方が、孵化の成功率が高まるといわれています。産卵したカメをケージに返したら、卵を24時間以内に慎重に掘り返して孵卵容器に移動します。爬虫類の卵は卵黄の上部に胚が形成され、カラザを欠くために卵を転がしてしまうと胚が卵黄に圧迫されて死んだり、奇形や発育不良の原因になります。
胚の死滅を予防するため、卵を移動する時には、あらかじめ卵の上に鉛筆や油性マジックで印をつけておいて下さい。上下が逆にならないように注意しながらそっと掘り出し、孵卵容器に入れます。
孵卵容器は衣装ケースやプラケースなどがよく使われます。容器の床敷は、バーミキュライト、ミズゴケ、ピートモスなどが使われますが、最近ではハッチライトという孵卵専用の床材も販売されています。卵を入れた容器の中の温度は26~30℃に保ちましよう。乾燥を防ぐために蓋をしますが、多湿過ぎるのもよくありません。卵は呼吸しているので、蓋には数か所の小さな穴を開けておきます。順調にいけば2~3ヵ月で孵化が始まります。
爬虫類孵卵のためのバーミュキライト
便利!水分調整済みの産卵床!
市販の鳥類用の孵化器を使うのもよいですが、転卵(回転する)機能がオフに出来る爬虫類用の商品を選んで下さい。
爬虫類用孵卵器 レプタイル プロ90 ジュラゴン
コレ一択!温度差を設定、水を加熱する蒸散方式で加湿、使いやすい操作パネル!
検卵
産卵後2~3日で卵の中に血管が発生します。卵は薄い殻に覆われているので、暗い場所で下から懐中電灯等で照らせば血管の確認ができて、有精卵と判断できます。卵に光をあてることをキャンドリング(Candling:検卵)と言います。キャンドリングをすると卵の中の胚が成長していくのが分かります。無精卵の場合は、産卵後1~2週間で潰れてしぼんできます。
LED 検卵ライト
検卵にはこのパワーライトでないと・・・
出生
出生直後にはヨークサック(Yolk sac:卵黄嚢)と呼ばれる栄養(卵黄)の袋がお腹にぶら下がっています。ヨークサックからの栄養をとるので、すぐにはエサを食べません。孵化した幼体は小型の飼育容器(孵化容器と同じ床材を入れておく)へ移動し、孵卵容器と同様に26~30℃を保ち、乾燥しないように管理します。孵化直後は甲羅が柔らかいので、強い力で持つと甲羅がゆがむことがあります。取り扱いは慎重にして下さい。
ヨークサックから栄養を取り終えたカメの幼体は初回の脱皮を数日以内にして、初めて自分で口からエサを食べるようになります。孵化から10~14日で完全にヨークサックが吸収されると、甲羅も硬くなってきます。そうした時点で、通常の幼体のカメの飼育に切り替えます
参考文献
- Bertolero A,Cheylan M,Hailey A,Livoreli B,Willemsen RE.Tetudo hermanni-Hermann’s Tortoise. Conserbation biology of fresh water turtles and tortoises.CRM5(4).059.1-20.2008
- Buskirk JR,Keller C,Andreu AC.Testudo graeca Linnaeus,1758-Maurische Landschildkröte.Handbuch der Reptilien und Amphibien Europas3:125-178.2001
- Eendebak BT.Incubation period and sex ratio of Hermann’s tortoise,Testudo hermanni boettgeri. Chelonian Conservation and Biology 1(3):227-231.1995
- Pieau C.Effets de la température sur le développement des glandes génitales chez les embryons de deux Chéloniens,Emys orbicularis L.et Testudo graeca L.C.R.Acad.Sci.Paris274(D):719-722.1972
- 五十川清.爬虫類の遅延受精.日本比較内分泌学会ニュース12(40):4‐7.1986
- 安川雄一郎.ホシガメの分類と生活史,およびその現状.クリーパー7.クリーパー社.東京:p4-17.2001
- 安川雄一郎.旧リクガメ属の分類と自然史1.クリーパー59.クリーパー社.東京:p51-59.2011