ウサギの栄養状態評価(BCS)太っているのか?

目次 [非表示]

ふっくらとして可愛い

飼い主の中には、「うちのコはふっくらしてカワイイ」などという方が数多くいます。しかし、ふわふわした被毛で分かりにくいですが、適正体重を超した肥満のウサギがとても多いのが現状です。病気や体調不良の原因が肥満によるものだったと言うケースも珍しくありません。

 

ペットフードメーカー協会によるペットの肥満調査では、犬、猫、ウサギの飼い主の約80%が自分のペットが太っていないと信じていたという報告がありました。そして、3分の1の飼い主しか適切に肥満を判断できませんでした〔PFMA 2009〕。

ウサギ

栄養状態評価

犬や猫では肥満の程度をBCS(Body Condition Score:ボディ・コンディション・スコア)という指標で判断します。動物を触ったり、見たりすることで肉づきを把握します。ウサギには公式のBSCがありませんが、犬猫で使用されている方法に適合させてみました。

ウサギ

ウサギのBCSを知るには、「上から見た時の体型」と「横から見た時の体型」を確認してください。次に「触った時の骨の感触」という3つのポイントで判断します。ウサギのBCSを見た目で判断するのは、特に(大部分の)長毛種では困難です。長い被毛によって体系が的確に判断できなくなり、骨盤、肋骨、背骨などの骨格も見た目が分からないので、触って判断するしかないのです。BSCを評価するために唯一信頼できる方法は肋骨、骨盤、背骨の感触ですが、特に背骨の周りの筋肉と脂肪が落ちるので分かりやすいです。

BCS評価
痩せすぎ上から見ると胴が細長く、頭が大きく見える。骨がしっかりと触れる。
ウサギイラスト
2 痩せている上から見ると胴が細長い。骨は簡単に触れる。
普通背中の横からの曲線がきれいに見える。骨がやや触われる。
ウサギイラスト
太っている上から見るとお尻が大きく洋ナシ。背中の曲線が見えにくい。骨が触わりにくい。
ウサギイラスト
太りすぎ上から見ると胴とお尻が一緒になってタル状。首が分からない。骨が触われない。
ウサギイラスト
表:ウサギのボディ・コンディション・スコア

ウサギは品種でも脂肪の付き方や骨格にばらつきがあるため、体重から肥満を判断するのが難しいです。しかし、体重の増減を確認できるので定期的に体重測定は肥満の確認や健康診断のために行って下さい。

BCS1 痩せすぎのウサギ

肋骨や背骨・腰骨などがくっきりと浮き出ている状態は、痩せ過ぎと判断されます。長毛種だと見ても分かりにくいですが、触ると硬い骨として確認できます。特にウサギでは背中を触っての背骨、お尻を触っての腰骨が簡単に分かります。

上からも横から見ても、胴体が細長いですが、横から見ると、腹部は地面からぐっと離れています。

BCS2 痩せているウサギ

痩せすぎではないものの肋骨がやや浮き出ていています。ウサギは肘のすぐ後ろあたりは脂肪が多く付いているので、肋骨よりも背骨や腰骨を触った方が分かりやすいです。

痩せているウサギ

上から見た時に尻がまだ太いので、腰のくびれが少し確認できます。

痩せているウサギ

BCS3 理想的な体型のウサギ

理想的な体型のウサギは、薄い皮下脂肪が付いているため、撫でると少し骨が分かる程度です。上から見た腰の窪み以外にも、胸の脇の脂肪があるため凸凹に見えます。横から見てもお腹が地面に着いていないので、隙間が確認できます。

BCS4 太っているウサギ

見た目では肋骨が分からないほど皮下脂肪が付いていて、腰回りにくびれがほとんど確認できません。

尻が丸くなり、上から見ると腰のくびれが僅かにある程度です。横から見てもお腹周りが引き締まっていないため、腹部がたるんで見えます。

BCS5 太り過ぎのウサギ

皮下脂肪の割合が多く、上から見ても横から見ても丸々としています。胴もお尻脂肪が付いて、まるでタルのようです。横からの姿が、お腹が地面に着いているのが分かります。見た目はもちろん触っても肋骨が確認できない状態です。

ウサギの体重が増えると、過剰な皮下脂肪が肉垂や脇の下の皮膚がたるむ傾向があります。そのため、胴体が丸くふくらんで見えます。

肉垂の皮膚のひだは、通常はメスにのみ見られるものですが、高齢や肥満の場合は、オスでもたるみが大きくなることがあります。この大きなたわみは減量後も残ります。

品種による体型の差

ウサギは品種によって、体型や体重が異なりますので、そのため判断に悩むことがあります。特に長毛種だと見た目の判断は全くできません。

ホーランド・ロップイヤーやアメリカン・ファジーロップイヤーなどは、体がずんぐりしているので、BCSが4以上に見えます。

ベルジアン・ヘアーは、胴体が細くアーチ型をしています。骨が触れるくらいに痩せているのが普通です。普通でもBCSが2くらいに評価されがちです。短毛種などのレッキスやミニ・レッキスは筋肉質なので、BCSは4くらいに感じるかもしれません。

ウサギミニレッキス

最近、頭がネザーランド・ドワーフのような小さい頭を持ちながら、体が太っているアンバランスの体型をしています。

見た目の判断よりも、触っての判断の方が確実です。

ウサギの隠れ肥満

ウサギの栄養状態は、見た目だけの判断では難しいです。見た目が標準でも、内臓に脂肪がついていることが多いです(内臓脂肪)。レントゲンを撮ると、内臓脂肪が明確になります。内臓脂肪は胃腸が押して、頭腹側に移動しています。だから、お腹が出てしまうのですね。心配であれば健康診断でX線検査を受けましょう。

肥満が怖い理由

肥満になると持病が増え、老化の進みも早いそうです。具体的には以下のような症状や状態になります。正直病気になりやすくなり、長生きできる可能性が低いです。

  • 足腰に負担がかかる
  • 皮膚炎になりやすくなる
  • 盲腸便が食べれない
  • 脂肪肝になる
  • 動脈硬化になる
  • 胃腸のうっ滞が起きやすくなる
  • 麻酔の危険が高くなり、手術も難しくなる

足腰に負担がかかる

肥満により体重が増えると関節や靭帯に負担がかかり、怪我をしやすくなります。加齢とともに関節が変形(関節炎)することもあります。足底に負担もかかると、ウサは足の裏に肉球がないのでタコや潰瘍ができやすくなります〔Vennen 2009〕。炎症が起こると潰瘍性足底皮膚炎(ソアーホック)という状態になります。

皮膚炎になりやすくなる

体が丸くなり、口が届かばい箇所が多くなります。自ら毛繕いが上手くできないので、毛並みも悪くなります。特に肛門や陰部周囲が汚れることが多いです。太ると皮膚も伸びて皺や襞ができ、湿気がこもり、皮膚炎が起こりやすくなります。

盲腸便が食べれない

体幹が太くなると、口が肛門に届かなくなるため、盲腸便が肛周囲にこびりついたり、食べれずに床に落ちています。尻が汚れることで、皮膚炎などの原因になります。

ウサギの尻の糞がとれない!

脂肪肝になる

脂肪肝になると、体の中で沢山の危険因子が増えることになります。脂肪肝のウサギは数日食べなくなると、脂肪からエネルギーを動員して、肝臓に脂肪がさらに沈着し、ケトン体という物質で肝臓で使われます。このケトン体が体の酸性とアルカリのバランスを崩し、死に至らせます。

動脈硬化になる

動脈の壁が硬くなります。初期は無症状ですが、進行すると循環が悪くなる可能性があります。

胃腸の動きが悪くなる

脂肪肝になると胃腸の動きも悪くなり、胃のうっ滞を起こしやすくします。

麻酔の危険が高くなり、手術も難しくなる

脂肪(体重)が多いと、手術に用いる麻酔の使用量を増やさなくてはないといけません。そのためにウサギの死亡率が高くなる可能性があります。肥満は麻酔による合併症のリスクを高めます。肥満になると胸を圧迫するので、呼吸がしにくくなり、麻酔が安定しません。内臓脂肪が多いと、避妊手術(卵巣・子宮摘出手術)中に血管の識別と結紮をより困難にします。つまり、手術時間が長くなり、手術の危険性が高くなります。

ウサギのダイエットの詳細はコチラ!

これがポイント!

・品種の差が大きいので栄養状態の評価は判断むずかしい
・見た目よりも触った時の骨の感触がポイント
・ウサギは隠れ肥満めちゃ多い
・肥満になると体調悪化はもちろんこのこと、皮膚病、胃腸のうっ滞、脂肪肝、動脈硬化などになりやすい
・避妊手術が難しくなる

ウサギのオンラインでのJCRA栄養学セミナー聴講ならコチラ!

jcrahttps://jcrabbit.org/seminar/

JCRA(ジャクラ)って?何なの?

ウサギを幸せに長生きさせたい方は、一般社団法人 日本コンパニオンラビット協会(JCRA:ジャクラ)に入会しましょう!

入会はコチラ!

J

参考文献
■Pet Food Manufacturers Association(PFMA) (2009),accessed 28th June 2009 http://www.org.uk/
■Vennen et al.Rabbit.In Manual of Exotic Pet Practice.p375-405.Elsevier Inc.2009

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。