モルモット・チンチラ・デグーのTLCとは?知らないと恥ずかしい・・・

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優しい愛のケア

臆病なモルモット、繊細なチンチラ、賢いデグーの診察は、病院での身体的治療だけでなく、精神的なケアがとても重要です。動物病院では入院はもちろんのこと、診察から検査まで動物に対して、獣医師は愛情をもって優しく接する必要があります。犬や猫以上に精神的な破壊が身体にダメージを与えることもあり、それぞれの動物の特性と性格を理解することが必要です。人の医療現場でも、患者の不安や辛さに医者が共感し、信頼感と安心を与えるため態度を、テンダー・ラビング・ケア(TLC:Tender loving Care)と呼ばれ、現在TLCは医療専門用語の一つなっています。TLCとは直訳すると「優しい愛のケア」という意味で、患者に「先生に力をもらった気がする」と感じてもらえれば成功とされています。

TLCが有効な理由は?

TLCが有効な詳細な理由は解明されていおらず、オキシトシンの分泌などが効を奏しているのかもしれません。対人関係において、精神的な結び付きが強くなると体内からオキシトシンが分泌されて、精神的に不安が減り、愛情を高める重要なホルモンと認識されています〔Rilling et al.2014〕。1954年のBerleらの研究から注目され、その後も人の医療の現場における不妊治療にTLCを取り入れての成功例など〔Stray-Pedersen et al.1984,Eric Jauniaux et al.2006〕、特に精神的影響で左右される症例において好成績をおさめています。

モル・チン・デグーでのTLCは?

もちろん、モルモット、チンチラ、デグーの診察も、通院に不安を与えないように工夫を凝らしたり、保定や投薬においても優しく声をかけながら行うのは当然ですが、最も難関なのは動物病院における入院です。入院環境は十分に考慮しないと、知らない場所であり、さらに犬や猫の声や臭いなど過大なストレスを受ける可能性が高く、脳内神経伝達物質の一つであるセロトニンの合成不足を招きます。セロトニンは身体のバランスをとるのに必要なもので〔小西ら 2011〕、オキシトシンの分泌にも影響します。そのため、入院対象動物でも、慣れ親しんだ環境である普段の自宅のケージに戻すことを優先することもあります。飼い主の看護の方が、病院よりもTLCの恩恵を受けられて、食欲を刺激して回復を加速する可能性が高いかもしれません〔Van Foreest 1999〕。また、モルモットは単独で生活しているよりも、群れでいる、あるいは飼い主と一緒に生活することが精神的にも落ち着く動物です。獣医師にとっては、モルモット、チンチラ、デグーの医学を学ぶ上でTLCは最も重要なことでしょう。

参考文献
■Stray-Pedersen Bet al.Etiologic factors and subsequent reproductive performance in 195 couples with a prior history of habitual abortion.Am J Obstet Gynecol15:148.1984
■Van Foreest A.Specifieke gebitsproblemen bij konijnen en herbivore knaagdieren.In Tandheelkunde bij Gezelschapdieren.Van Foreest A.ed.Elsevier.Maarssen:311-338.1999
■Berle BB et al.Stress and habitual abortion,their relationship and the effect of therapy.Obstet Gynecol3(3):298-306.1954
■Eric Jauniaux et al. Evidence-based guidelines for the investigation and medical treatment of recurrent miscarriage Hum Reprod21(9):2216-2222.2006
■Rilling JK,Young LJ.The biology of mammalian parenting and its effect on offspring social development.Science345:771-776.2014
■小西正良、吉田愛実.セロトニン分泌に影響を及ぼす生活習慣と環境.Journal of Osaka Kawasaki.Rehabilitation University5:11-20.2011

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。