◎カメの交雑種(ウンキュウ)

交雑種

カメ類は異種間交雑を起こしやすいグループとして知られており、13科のうち8科から種間雑種が発生しています。交雑は同属間で起こることが多いですが、ウミガメ科、ヌマガメ科、イシガメ科では属間の交雑種も知られています〔上野ら 2015〕。ウミガメ類ではオサガメ、ヒラタウミガメを除く全種で属間雑種の報告があります〔上野ら 2015〕。その中でもニホンイシガメやクサガメを含むイシガメ科は交雑における生殖隔離機構が比較的弱いとされ〔Stuart et al.2007〕、ヒラセガメ×モエギハコガメ、ギリシャイシガメ×カスピイシガメ、ニホンイシガメ×クサガメ、クサガメ×ハナガメ、マレーハコガメ×アンナンハコガメ、ミスジハコガメ×ミナミイシガメ、クサガメ×マレーハコガメ、セマルハコガメ×リュウキュウヤマガメ、オルダムマルガメ×ハナガメ、ヨツメイシガメ×クサガメ、アカスジヤマガメ×カンムリヤマガメ、アカスジヤマガメ×クロムネヤマガメなど多くの交雑例が知られていますおり〔上野ら 2015〕。1986 年以降のにイシガメ科では13の新種が中国で記載されましたが、大半は香港の動物販売業者を通じた購入標本に基づいての発見で、その後野外で再発見されない等の混乱が生じました。新種記載のホオスジイシガメ(Mauremys iversoni)【ミナミイシガメ×ミスジハコガメ】とノコヘリモエギハコガメ(Cuora serrata) 【ヒラセガメ×モエギハコガメ】、プリチャードイシガメ(Mauremys pritchardi)について遺伝子解析により交雑種と解明され、抹消されました〔Parham et al 2001、加藤ら 2012〕。交雑種個体は、形態的に中間的な外貌を持つ個体から、どちらかの親の強い特徴が出現するなど個体差が幅広いです〔Vilaca et al. 2012〕。

ウンキュウ

ニホンイシガメとクサガメは異種間交雑を起こすことが古くから知られており、その交雑個体が「ウンキュウ」という名称でペット流通しています。ウンキュウはクサガメに近い特徴を持つもの、ニホンイシガメに近い特徴を持つもの、両者の中間的特徴を持つものなど、バリエーションが豊富です。ウンキュウでクサガメの特徴が強いとクサイシ、イシガメの特徴が強いとクシクサと呼ばれ〔上野 2021〕、幻のカメとも言われて一時は高価でしたが、近年ブリーダーが増えたために価格は下がって落ち着いています。名前の由来の詳細は不明ですが、中国語で亀を指す「鳥亀」(Wugui)がなまって命名されたとも言われています。

参考文献

  • Parham JF et al.New Chinese turtles: endangered or invalid? A reassessment of twospecies using mitochondrial DNA,allozyme electrophoresis and known-localityspecimens Animal Conservation 2001 4, 357-367.2001
  • Pritchard PCH, McCord WP. LA new emydid turtle from China. Herpetol47:138-140.1991
  • Stuart BL.Parham J.Recent hybrid origin of three rare Chinese turtles.Conservation Genetics1:169. 175.2007
  • Vilaca et al.Nclear markers reveal a complex introgression pattern among marineturtle species on the Brazilian coast. Molecular Ecology21(17)4300-4312.2012
  • 上野真太郎.飼育実験下でわかったクサガメの繁殖生態:交尾行動とニホンイシガメとの交雑.亀楽21:53-54.2021
  • 上野真太郎、亀崎直樹.カメ類の交雑問題 爬虫両棲類学会報 2015(2)158-167.2015
  • 加藤英明、森万希子、斉冬至、衛藤英男.静岡県三島市松毛川におけるクサガメとミナミイシガメの交雑個体の記録.東海自然誌.静岡県自然史研究報告5:35-39.2012

    この記事を書いた人

    霍野 晋吉

    霍野 晋吉

    犬猫以外のペットドクター

    1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

    犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

    「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。