知能指数が高いネズミ!
デグーはネズミの仲間でデグーネズミとも呼ばれています。欧米では昔からペットとして飼われていたが、日本では近年ペットの飼育頭数が急激に増えてきた種類です。デグーには、デグー (Octodon degus)、チリデグー (O. bridgesi)、ペルーデグー (O. bridgesi) の3種がいますが、ペットのデグーと呼ばれる種類の中には、デグー属ではないフサオデグー (O. gliroides) がペットのデグーの多くを占める、あるいは交雑種が多いう説もありますが、詳細は不明です。デグー類とフサオデグーの外見からの判断は難しいです (本章でのデグーは、デグー属のデグーを指すことにします)。海外では昔からペットとして飼育され、日本では近年になって人気が上昇し、ペットとしての歴史がまだ浅い動物です。同サイズのハムスターやリスよりも人によく馴れて、様々な声を出しり、歌うことでも有名です。
分類
ネズミ目 (げっ歯目) デグー科デグー属 学名:Octodon degus 英名:Degu 別名:デグーネズミ
分布
チリのアンデス山脈
身体
頭胴長:12‐20cm 尾長:6.5‐13cm 体重:0.17-0.3 kg (オスの方が約10%大きい) 寿命:飼育下では7-9年 〔Braun et al.2003〕
毛色
背中と頭が黄褐色で、足裏と足はクリーム色です。目の周りに薄い帯が見られます
生態
環境
標高1200 mまでのアンデス山脈西部、亜熱帯気候の半乾燥地帯に生息しています。マトラル (Matorral) と呼ばれる地中海型の半乾燥性の低木が生えているような土地です。夏は日差しが強く乾燥しやすい特徴があり、夜は0℃程度まで冷える過酷な環境です 〔Contreras et al.1987,Fulk 1976〕。熱帯気候に位置してはいますが、標高が高くなる山や高山なので、温帯の気候と考えてよいでしょう。
行動
- 藪や林、岩場などの隠れ場所が近くにあるような場所に生活をしており 〔Chávez et al.2003,Miller et al.1976〕、脚力があるので岩場などの上にも登ります。
- 土がより湿っている冬や降雨後に自ら巣穴を掘り、群れで生活をしています。
- 群れは2-5頭のメスと1-2頭のオスで構成され 〔Ebensperger et al.2000〕、冬は群れで体を寄せ合って寒さをしのいでいます。
- 巣穴の入り口には、社会的な地位を誇示するために小枝や岩を積み重ねたり、ワラや牛糞で隠されることもあります 〔Ebensperger et al.2000, Woods et al.1975〕。
- 基本的に冬眠をしませんが、冬は食料が少なくなるため、巣穴に食物を蓄えます 〔Woods et al.1975〕。
食性
草食性で、草の葉や茎、根、樹皮などの植物質を食べています。
習性と行動
とても臆病な性格ですが、馴れてくると好奇心旺盛になり、活動的になってきます。デグーは知能が高く、仲間との豊富なコミュニケーションをとる動物で、鳴き声ならびに聴覚、嗅覚、視覚が発達しています。
鳴き声と聴覚
デグーは非常に声が高く、警報の呼び出し、交尾の求愛、仲間との交信など、さまざまな呼び出しを鳴き声で伝えます。鳴き声だけでなく多彩な鳴き声で歌うこともできます。デグーはアンデスの歌うネズミとも呼ばれ、言語の研究動物としても注目されています。鳴き声は15-20種類にも及び、機嫌のよい時は「ピピピ、ピルピル」と小鳥のさえずりのように鳴き声を発し、警戒したり怒ったりしている時は「キッ、キッ」と高く大きな声で叫ぶように鳴いたり、高い声や口笛をふくような「キーキー」、「チュウチュウ」、「ブーブー」と可愛く鳴く時は、相手への呼びかけの意志表示です 〔Long, 2007〕。
鳴き声での意思表示は以下のように考えらえています。
「キィキィ」「ピーッピーッ」
警戒や威嚇の時です。この鳴き声を出している時は、触ったり、無理にかまうのは控えて下さい。
「ピロピロ」
甘えや嬉しい時で、機嫌がよいです。
「ピッ」
自分の要求を通したいときです。餌が欲しい、遊ぶ時間が足りてい時などです。
「クゥ〜クゥ〜」
甘えの時です。人に撫でられている際に気持ちよさそうな表情をしながら声を出します。
尿と嗅覚
デグーは尿でマーキングを行います。野生では巣の入口の前の砂浴びをする場所に排尿し、尿を体につけることでマーキングに役立て、個体識別をしたり、オスはメスに尿をかけて自分の匂いを主張して求愛にも使われます 〔Ebensperger et al.2002,Kleiman 1974,Chávez et al.2003,Fulk 1976,Woods et al.1975〕。陰部を床に引きずる行動やケージのあちこちに尿をすることがみられますがこれは尿によるマーキング行動とされ、縄張りを誇示しています。
昼型夜型
一般的には昼行性で、野生での活動のピークは夜明けと夕暮れ時で、冬は暖かい日中のみに活動しています 〔Bozinovic et al.2004〕。一部の研究では、デグーは環境変化に対応して生活のリズムを変化させることが分かっており 〔Kas et al.1999〕、これは飼い主の生活パターンに合わせて昼型あるいは夜型に対応できるということです。視覚は捕食者の回避と餌の採取において非常に重要です。
紫外線が見れる
デグーは紫外線の波長を見ることができます 〔Chávez et al.2003〕。尿には紫外線を反射する成分が含まれ、縄張り内でマーキングした新鮮な尿であれば紫外線を反射するので、マーキングした場所を視覚でも確認できます。デグーが尿を砂浴びの中のして、砂浴びをした体の毛に紫外線を反射する成分が付着することで、視覚的にも仲間を認識します 〔Palacios et al.2003〕。
知能が高い
知能が高いデグーは、道具を使うこともできるくらい賢いです。大きい箱を下から順番に箱を積み重ねる 〔Tokimoto et al.2004〕、柵越しの手が届かない所に餌を置くと、熊手を使って餌をとることができる 〔入来ら 2007〕等の行動が報告されています。発声や歌も成体から学習する能力を備え、成長とともに覚えます 〔時本 2005〕。声を出すと餌がもらえるという条件づけも、約2ヵ月かけてできるようになるそうです 〔岡ノ谷 2002〕。
社会性の高いデグーは、鳴き声やマーキングだけでなく、感情表現や行動で仲間とのコミュニケーションを積極的にとります。親子や兄弟などでグルーミングを行い、馴れたデグーは人に撫でられることも好み、スキンシップがとれます。知能が高いために人を呼んだり、歌で話しかけることもでき、このような特徴は他のげっ歯類には例がなく、人の2-3歳の幼児と同じ位の知能とも言われています。
人のストレス下での社会的・感情的行動の脳神経学的研究のモデルになっています。社会的絆の欠損による感情行動障害の研究 〔Colonnello et al. 2011,Ardiles et al.,2012〕、アルツハイマー病ならびに認知症 〔Braidy et al.2012〕 の研究に使われています。
尾抜け
天敵に襲われた時に、尾の皮膚を剥いて逃げます (尾抜け: Slit tail)。尾の骨が露出した部分をかみきって、出血を最小限にします 〔Woods, et al., 1975〕。しかし、ペットでは自らかみきることをしないので、断尾手術を行います。
一部の研究では、デグーは環境変化に対応して生活のリズムを変化させることが分かっており 〔Kas et al.1999〕、これは飼い主の生活パターンに合わせて昼型あるいは夜型に対応できるということです。
特徴
細長い体
体は細長く、後肢で立ち上がる姿勢はリスのようです。
後肢は比較的発達しており、リスほどではありませんが、脚力が強いです。岩や低い木であれば飛び乗ります。
長い尾
尾は長くて、先端は房毛になって広がっているため、トランペット・テイル (Trumpet tail) と呼ばれています。
尾は意思表示に使用されます。
指
前肢は器用に使い、餌をつかんで食べることができます。
指の数は四肢全てが5本です。
前肢の第5指は爪が退化しています。
常生歯
切歯も臼歯奥歯も常生歯で、生涯にわたり伸び続けます。切歯の表面のエナメル質は黄色や橙色で、これは銅や鉄などの色素がカルシウムと一緒に取り込まれるためです。歯の数は全部で20本です 〔Woods et al.1975〕。
乳首
乳頭は4対 (8個) あります。
目
目の虹彩は縦長のスリット状をしています。
耳
丸い耳は大きくて薄く、聴覚が発達しており、可聴域が広い特徴があります。音の刺激に敏感な面もあるので、騒がしい音には注意して下さい。
吐けない胃
胃は深い袋状の形をしており、食道とつながる噴門部 (入口) と十二指腸とつながる幽門部 (出口) が接近していて、それぞれの直径が細いのが特徴です。このような胃の形のために、デグーは吐くことができません。
大きな盲腸
デグーの消化器で最も特徴を持つのが盲腸です。お腹の大半を占めるほど大きいです。盲腸にはたくさんの微生物が共存し、繊維の細胞壁を壊し、消化吸収を行う発酵タンクとしての重要な役割をしています。薬に対して敏感で、特に抗生物質の内服投与により腸内細菌叢が崩れやすいです。その結果、悪玉菌が増えて腸炎を起こし、下痢や食欲不振がみられます (抗生物質性腸疾患)。悪玉菌が毒素を出して、全身状態が悪化して死亡するようなこともありますので、注意して下さい。盲腸では盲腸便と呼ばれる柔らかい便がつくられ、デグーはこれを直接肛門から食べ、再び消化吸収します。盲腸便を昼夜とほぼ同じ量を食糞します 〔Langer 2002〕。
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参考文献
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