フクロモモンガの飼育

群れをつくり滑空させる飼育

ペットとして歴史が浅いフクロモモンガですが、少しずつ色々なことが分かってきました。狭い場所での飼育には問題がたくさんあり、どれだけ野生の状態を再現できるかが問題になります。

飼育

飼育下ではストレスによる自咬症がよく起こるため、ストレスをためない環境作りが何よりも大切です。

飼育頭数

群れで生活しているため、社交性を考えた飼育環境が理想です。可能であれば番や複数で飼うことが理想ですが、単独飼育であれば十分に人との接触をもった関係を保つべきでしょう。雌雄を一緒に飼う場合は繁殖計画をしっかりと立てた上で行って下さい。

フクロモモンガ

ケージ

活発な動物なので、活動する空間として大きくて高さのあるケージが理想です。

フクロモモンガケージ

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ケージの中には飛び回れるように枝や蔦を入れて、高い位置に休息スペースとしての棚を設置して下さい。

ケージ内には枝や棚 (踊り場 の他に、餌容器や給水器などをレイアウトします。

枝・踊り場

立体的に設置して、登ったり、移動したりするような配置をして下さい。怪我をしないように考えます。

小屋・寝具

休む場所である小屋あるいは寝袋なども用意して下さい 。

フクロモモンガ小屋
フクロモモンガ小屋

 

トイレ

糞や尿を決まった所にする習性がないため、トイレを覚えにくいです。そのため、ケージをこまめに掃除をしなければなりません。

フクロモモンガ

床で休むことはないので、金網のスノコにして、トレイに紙や床敷を敷きます。糞や尿が下に落ちるのでこまめに掃除をしましょう。

温度・湿度・照明

温度

気温が約21℃以下になると動きが鈍くなり、休眠します 〔Brust, 2008〕。休眠は体温を約15℃くらいに下げて、活動も餌を食べる量も減ります〔Fleming, 1980〕。ケージを直射日光が当たる所や締め切った部屋に置くと、熱中症になる可能性があり、部屋の温度を観察し、涼しい場所に置いてあげて下さい。冬の寒い時は、保温器具で寒さを防ぐ工夫をし、夏は冷房や送風などで温度が上がりすぎないように注意しましょう (温度・湿度)。

表: 温度・湿度
温度24‐27℃
湿度

照明

夜行性の動物なので、夜に活動します。昼間は暗い部屋あるいはケージにカバーなどをかけます (照明) 。

食事

フクロモモンガは雑食性で、樹液、果汁、花粉や花蜜、昆虫などを食べています。そのために一昔は果物や昆虫を主食として与えられていましたが、くる病 (代謝性骨疾患・低カルシウム血症) が多発し、短命に終わっていました。そこで餌となる果物や昆虫に、カルシウムやビタミン剤を添加する方法もとられました。野生のフクロモモンガの餌になる軟体動物や昆虫は栄養素がそれぞれ大きく異なるため、飼育下での食餌内容や栄養に関しては、まだ分かっていないことが多いです。飼育下では高蛋白、低脂肪の餌が理想とされ、詳細な栄養組成は分かっていないながら、フクロモモンガ用ペレットが多数販売されるようになりました。これまでの果物や昆虫を主食とする内容からペレットを主食にすることで、くる病が発生が低下しました。基本的にフクロモモンガ用ペレットを中心に、果物や野菜、動物性蛋白質 (昆虫ミルワーム、低塩煮干しやチーズ、ゼリーなど) を与えて下さい。フクロモモンガは餌の選り好みも強く偏食する傾向がありますが、嗜好性の高い甘い果物を主食にはしないように注意して下さい。餌はフクロモモンガが活動し始める夜の早いうちに給餌します。

フクロモモンガ餌

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フクロモモンガ用ペレットはそのまま硬い状態で与える方法とふやかして与える方法が広まっていますが、どちらでもよいです。

フクロモモンガペレット

基本的に硬いペレットを器用に前足の指を使って食べますが、果物や昆虫とともに食べた残りカスを吐き捨てる習性があります。

フクロモモンガ

ふやかしたペレットやゼリーを餌として与えると、ケージの中がさらに汚れやすくなります。

フクロモモンガ

好物である果物や甘いゼリーなどを多く与えると、肥満になり滑空できなくなるので、注意して下さい。

フクロモモンガ肥満

飲水

給水器はボトルタイプか皿タイプが使われますが、皿タイプはひっくり返すことが多いので、壁掛け式のボトルタイプが理想です。ふやかしたペレットを食べていると、飲水量が減ります。

フクロモモンガ給水き
フクロモモンガ

ケア

ケージの中にフクロモモンガを入れて餌を与えるだけという単調な飼育は、成長や健康維持、繁殖のみならず、精神的的なストレスの原因になります。フクロモモンガが持つ野生本来の行動を発現できるような環境作りのために、生息地に適応した体の特徴や生態を環境エンリッチメントに沿って考えて下さい。フクロモモンガの場合、ケージを広くする以外に、飛翔させることと、匂いで人に馴らすことがポイントになります。自ら積極的に毛つくろいをするため、入浴やシャンプーなどの必要はありません。

運動

活発な動物ですが、最低の運動量は一概に定まっていません。ケージの中で、立体的な高層をつくる以外に、ケージの外に放すことで運動量を増やすなどの策もとられています。ケージから出して接触したり、部屋に放す場合は、事故や誤食に注意して下さい。

コミュニケーション

群れで生活している動物です。単独で飼育をしている場合は人に馴らして社交性を高めることが大切です。警戒心が強い動物で、人に馴らすためには幼体期から接触してコミュニケーションをとって下さい。人に馴らすには匂いが重要で、無理にスキンシップをとるよりも、人の匂いを覚えさせることが得策です。人の匂いがついた小さめのポーチや巾着などに入れて、徐々にスキンシップをとる方法が有名です。紐のついたポーチにフクロモモンガを入れて、人が首からポーチをつりさげることで、どこにでも連れていくことができるようになります。馴れたフクロモモンガは人との絆を大切にするようになります。その点で犬と似たような性格であるといえるかもしれません。

肛門腺しぼり

オスは時に肛門腺が溜まることがあります。溜まって痛がっていたり、炎症が起こる場合は分泌物を定期的に押しだしてあげなければならないこともあります。

フクロモモンガ肛門腺しぼり
フクロモモンガ肛門腺しぼり

 

爪切り

野生では爪を削る環境がありますが、飼育下では爪が伸びすぎることがあります。おとなしい性格であれば定期的に切ってあげましょう。しかし、暴れることが多く、無理に行わないで下さい。

フクロモモンガ爪切り

肛門腺の確認や爪切りは、自宅ではできない時は動物病院でやってもらうほうが無難です

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参考文献

  • Brust DM. Sugar Gliders. Exotic DVM. 2009; 11 (3): 32-41.
  • Fleming MR. Thermoregulation and torpor in the sugar glider, Petaurus breviceps (Marsupialia: Petauridae). Aust J Zool. 1980; 28 (4): 521-534.

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。