コモンマーモセットの飼育

上級者向けのペットモンキー

コモンマーモセットを飼育するには、それなりの環境と知識が必要です。覚悟を決めてから飼育をするようにして下さい。

コモンマーモセット

飼育

ポケットモンキーと呼ばれるくらい小さいサルです。ケージの中ではもちろんのこと、部屋に出して運動をさせることも重要です。

まずはコレを読んで!真猿類の飼育の心構えと注意点!

飼育頭数

群れで生活をしていますが、ペットとして複数飼育を行うことは管理が難しく、多くは1頭で飼育され、そのような時には飼育者とのコミュニケーションをとるようにするしかないです。

コモンマーモセット

ケージ

ケージは大きいものが理想で、最低でも止まり木にサルが止まっても長い尾が床についてしまうようではいけません。最低でも、縦横無尽に激しく動き回れるくらいのオウムなどの金網の大型鳥類用のケージがお薦めです。ケージ内には止まり木や踊り場、餌容器や給水器、小屋などをレイアウトして設置します。

コモンマーモセットにとって十分に運動ができて、跳躍もできるような大きなケージを用意することは簡単なことではありません。一つのケージでは十分な大きさが確保できないため、2~3個のケージを連結しないといけないかもしれません 〔McKenzie, et al., 1986〕。餌容器と給水器はケージの高い位置に設置しないと、常に上の方の止まり木にいるコモンマーモセットの糞や尿が落ちて汚れますので注意して下さい。小さなケージを使用する場合は、一時的に部屋に放すしかないです。部屋から逃走したり、家具の隙間に隠れないように配慮し、事故が起きないように注意を払って下さい。

止まり木・踊り場

縦横無尽に動き回るため、木の枝や踊り場、あるいはハンモックなどを設置して、立体的なレイアウトを作ります。休息したり、自由に動けて跳躍できる止まり木的な場所を設けます。木の枝の代わりにロープなども使用できます。コモンマーモセットが枝から枝への跳躍を含む自然な動きができる環境を想像して下さい。

巣箱

臆病な面もあり、身体を隠す場所がないとストレスがたまります。ケージの中にはハンモックや巣箱などを設置し、自由に身を隠せる場所を作ります。

トイレ

決まった場所でトイレをする習性がないので、糞や尿はケージ下のスノコに落とします。

床敷

野生のコモンマーモセットはたまに地面に降りるだけで常に樹上にいます。ハンモックや小屋などで休むために、金網床でも構いません。糞や尿が床網の下に落ちるので、頻繁に掃除をしましょう

掃除

コモンマーモセットは臭腺によるマーキングをケージならび止まり木や小屋に行います。ケージの掃の際には、精神的に臭いによる安堵感を得るため、少なくとも1つの止まり木または巣箱は臭いが残っているようにそのままにしてあげることをお勧めします。

温度・湿度・照明

温度

熱帯に生息しているので、暑さに強く、寒さに弱いです。温度は30℃を保つようにして下さい。冬の寒い時は、保温器具で寒さを防ぐ工夫をし、夏は冷房や送風などで温度が上がりすぎないようにします 。

湿度

熱帯で多湿な環で生活しているので、冬などは加湿器をつけてあげましょう。

照明

昼行性の動物で、室内飼育の場合には紫外線ライトを設置するか、春~夏の温暖な季節には、ケージに収容した状態で日光浴をさせるべきです (照明) 。紫外線不足の飼育では、カルシウムの吸収が阻害され、くる病・代謝性骨疾患などの骨の病気になりやすいです。

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コモンマーモセット

食事

ペレット

新世界猿用ペレット (モンキーフード) を中心に、野菜や果物、動物性タンパク質 (昆虫ミルワーム、ゆで卵、鶏肉や挽肉) などを与えます。ただし新世界ザル用ペレットが入手できない場合は、犬や猫用ペレットを代用します。高タンパク/高脂肪のマーモセット用のゼリーも補助的に与えられます。

モンキーフードはコレ

新世界ザル用のペレットの粗タンパクは旧世界ザルよりも多く、18~22% 〔Nijboer, 2020〕、20~25% 〔Johnson, 1981〕が理想とされています。マーモセットの粗タンパクは約20%が必要とされています 〔Tardif, et al., 1988〕。コモンマーモセットにペレットを与える場合は少しだけふやかして与えます。新世界ザル用ペレットにはビタミンCとカルシウム代謝に必要なビタミンDが強化配合され、ビタミンC欠乏症代謝性骨疾患を予防します。ただし新世界ザル用ペレットが入手できない場合は、犬や猫用ペレットを代用します。真猿類はビタミンCを身体内で合成できないため、餌から与えなければなりません。1~4 mg/kg/日が必要量とされていますが 〔Holmes, 1984〕、病気やストレスを受けている時には高用量を与えます。犬や猫用ペレットを代用している場合は、サプリメント、果物や野菜などから摂取させます。

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コモンマーモセットは木をかみ砕いて、そこから浸出する樹液やガムを餌とし、採餌にかなりの時間を費やしています。同じような環境を再現することは難しく、一部ではアラビアガムで満たされた木製の樹液フィーダーなどが考案され、コモンマーモセットは餌としてのガムを得るためにこのフィーダーに穴を開けて採食します 〔McGrew, et al., 1986〕。

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飲水

飲水は給水ボトルを使用して与えるのが最適で、糞や尿による汚れをなくし、水で遊ぶことを防げます。床に置く皿タイプの給水器であると、容器で遊んだり、放り投げたりすることもあるので注意して下さい。

ケア

ケージの中にコモンマーモセットを入れて餌を与えるだけという単調な飼育は、成長や健康維持、繁殖のみならず、精神的的なストレスの原因になります。サルが持つ野生本来の行動を発現できるような環境作りのために、生息地に適応した体の特徴や生態を環境エンリッチメントに沿って考えて下さい。コモンマーモセットの場合、「運動ならびに活動的な動きができる」が大切です。そして、群れで生活をするために、仲間とコミュニケーションをとっていますが、ペットの場合は飼い主との、「臭いでのコミュニケーション」が重要になります。

コモンマーモセットの消耗性症候群

コモンマーモセットは消耗性症候群 (Wasting marmoset syndrome: WMS) と呼ばれる骨形成異、体重減少や削痩、脱毛、下痢が見られる原因不明の病気が有名です。WMSは進行性で、その病態については不明な点が多いです 〔Knapka, et al., 1995〕。近年、WMSの病態は人のビタミンD 依存症2型くる病/骨軟化症と極めて類似していることが分かり、各臓器の活性化ビタミンDであるカルシトリオールの親和性が低い 〔Holick, 1996; Hay, 1975〕、活性型ビタミンDに対する標的器官の反応が欠如/不良等の報告があります 〔Yamaguch, et al., 1986〕。さらに後天的な 増悪因子として、ストレス、腸炎、栄養不足、紫外線照射不足の関与も疑われています。残念ながら、治療法は確立されていません。

運動と活動

運動量が多いので、部屋の中で自由に運動させてあげられる環境が必要です。しかし、放した部屋の中では、物が崩壊されたり、かじり壊されたりしますので、注意して下さい。小さなケージに収容しなければならない場合には、特に行動的および生態学的スキルを発達させるために、縦横無尽の動きができるような止まり木や踊り場などの設置が重要です。動物病院への通院あるいは屋外へ散歩する際には胴輪を装着しないと逃走する恐れがあります。日頃から装着することに慣れるように訓練をしておくべきでしょう。

コミュニケーションと臭い

一般的にコモンマーモセット人に対して攻撃的である可能性が低いです。人を安全と認識すると好奇心を示し、身近な人々に近づき、手渡しされた餌や物をすぐに受け入れます。毎日顔を合わしたり、世話をする飼い主など、すぐに身近な人を認識することを学習し、自分の経験に基づいて反応します。特にコモンマーモセットは、臭い、声、外観に基づいて人間を認識します。個々の人間の強い好き嫌いを発達させ、数ヵ月前にサルを捕まえた人の臭いや声、足音まで聞いて反応します。最も重要なものは臭いと言われており 〔Cebul, et al., 1978〕、臭いによるマーキングは、コモンマーモセットの性的ならびに社会的行動において重要な要因です 〔Epple, 1986〕。コモンマーモセットはケージの中でも木の枝や小屋にマーキングを行っています。反対に飼い主の臭いも認識していますので、少しづつスキンシップをとっていきましょう。もちろん突然の大きな声を出したり、派手な服装なども驚かせる原因になります。スキンシップをとりたいのであれば、慌てずにゆっくりと慣らしていきましょう。無理に触ろうとしたりりすると、その後は警戒され、接触できなくなります。信頼度を高めてから行わないといけません。

人間に対して一般的に攻撃的でない行動にもかかわらず、ストレスを感じて自咬症や自傷を起こし、抜毛したり、四肢や尾をかじることがあります。

人獣共通感染症

コモンマーモセットは、はしか (麻疹ウイルス)おたふく風邪、単純ヘルペスウイルスによって引き起こされる口唇ヘルペスなど、多くの人間の病気に感染しやすいです。また、ヘルペスウイルスサイミリはリスザルから感染するウイルスです。リスザルは無症状ですが、マーモセットに白血病悪性リンパ腫を引き起こすため、リスザルと同じケージにマーモセットやタマリンを入れることには注意して下さい 〔Adams, et al., 1995; Bennett, et al., 1995)。

ポイントはコレ!

  • 大きなケージで飼う
  • 運動量を多くする
  • 寒さに保温弱いので保温する
  • 日光浴か紫外線ライトを当てる
  • ビタミンCはサプリメントでも与える
  • 馴れるには時間がかかる

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参考文献

  • Adams SR, Muchone E, Richardson JH. Biosafety. In Bennett BT, Abee CR, & Henrickson R. eds. Nonhuman Primates in Biomedical Research: Biology and Management. Academic Press. New York. 1995: 375-420.
  • Cebul MS, Alverio MC, & Epple G. Odor recognition and attachment in infant marmosets. In Rothe H, Wolters HJ, & Hearn JP. eds. Biology and Behaviour of Marmosets: Proceedings of the Marmoset Workshop, Göttingen, W-Germany, September 2-5, 1977. Rothe H. Gottingen. 1978: 141-146.
  • Epple G. Communication by chemical signals. In Mitchel G & Erwin J. eds. Behaviour, Conservation and Ecology. Comparative Primate Biology, Vol. 2 Part A. Alan R. Liss. New York. 1986: 531-580.
  • Hay AW. The transport of 25-hydroxycholecalciferol in a New World monkey. Biochem J. 1975; 151 (1): 193-196.
  • Holick MF. Vitamin D: photobiology, metabolism, mechanism of action, and clinical application. In Favus MJ. ed. Primer on the Metabolic Bone Diseases and Disorders of Mineral Metabolism 3rd ed. Lippincott-Raven. Philadelphia. 1996: 74-81.
  • Knapka J, Barnard DE, Bayne KAL, Lewis SM, Marriot BM, & Oftedal OT. Nutrition. In Bennett BT, Abee CR, & Henrickson R. eds. Nonhuman Primates in Biomedical Research: Biology and Management. Academic Press. New York. 1995: 211-248.
  • McKenzie SM, Chamove AS, & Feistner ATC. Floor-coverings and hanging screens alter arboreal monkey behavior. Zoo Biol. 1986; 5 (4): 339-348.
  • Tardif SD, Clapp NK, Henke MA, Carson RL, & Knapka JJ. Maintenance of cotton-top tamarins fed an experimental pelleted diet versus a highly diverse sweetened diet. Lab Anim Sci. 1988; 38 (5): 588-591.
  • Yamaguchi A, Kohno Y, Yamazaki T, Takahashi N, Shinki T, Horiuchi N, Suda T, Koizumi H, Tanioka Y, & Yoshiki S. Bone in the marmoset: a resemblance to vitamin D-dependent rickets, type II. Calcif Tissue Int. 1986; 39 (1): 22-27.

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。