リスザルの飼育

ストレスのない環境を!

リスザルはストレスを非常に嫌います。性格的なこともあり、狭いところ、嫌なことを明確に表現します。わがままにだけはしないで下さい。

飼育

わがままな子供ように扱いましょう。十分に運動させて、しつけもしっかりとやって下さい。

サルの飼育をする心構えを読んで下さい!

飼育頭数

群れで生活をしていますが、ペットとして複数飼育を行うことは管理が難しく、多くは1頭で飼育されます。そのような時には飼育者とのコミュニケーションが重要となります。

リスザル

リスザルは野生でも多重特異性の関連を形成し、多種のサルとも同居が可能で、リスザルとオマキザルの関係は野生では特に一般的です。しかしリスザルはヘルペスタマリヌスと言うウイルスをキャリアとして持っていることもあり、感受性の高いマーモセット種では発症するので同居はさせないで下さい 〔Adams, et al., 1995〕。

ケージ

ケージは大きいものが理想的ですが、サルが立っても窮屈さがない程度が最低限必要となり、水平方向よりも垂直方向の動きが重要で高さがあるケージが理想です。最低でもオウムなどの金網の大型鳥類用のケージがお薦めですが、正直これでも小さいと感じます。

リスザルケージ
リスザルケージ

ケージ内には、木の枝や踊り場、餌容器や給水器などをレイアウトして設置して下さい。餌容器や給水器はリスザルが遊んで外さないように、しっかりとした商品を選らびましょう。

踊り場・寝具

リスザルは樹上性で縦横無尽に動き回るため、木の枝、ブランコ、複数の踊り場を設置し、休息にも使われます。リスザルは旧世界ザルのような角質の尻ダコを欠くため、硬い木の枝や板状の踊り場で長時間休んだり、睡眠をとると、尾の付け根に褥瘡を発症する可能性があります 〔Abee, 1985〕。寝具にもなるハンモッグは動きに変化を生じることもでき、褥瘡の予防になります。

トイレ

決まった場所でトイレをする習性がないので、糞や尿はケージ下のスノコに落とすか、オムツをしつけることも可能です。

床敷

床敷は種類を問いません。ハンモックなどで休むために金網床でも構いませんが、糞や尿が床網の下のスノコに落ちるので、頻繁に掃除をしましょう。床にタオルなどを敷くと、そこで休みますが、糞や尿で汚れがちになります。

賢くて手先が器用であるため、ケージの鍵をいじったり、脱走しようと考えるため、鍵はしっかりとしたものをつけましょう。とにかくリスザルはケージから外に出ようと考える賢さがあるので、注意して下さい。

リスザル

温度・湿度・照明

温度

熱帯にいるので、暑さに強く、寒さに弱いです。冬の寒い時は、保温器具で寒さを防ぐ工夫をし、夏は冷房や送風などで温度が上がりすぎないように注意して下さい (温度・湿度)。特にストレスがかかると低体温症になりやすく、気温が24°Cを下回る環境では、背中をアーチ型にし、尻尾を体に巻き付ける姿勢が見られます。群れでいると体を寄せ合うことで保温します 〔Abee, 1989〕。

湿度

熱帯で多湿な環で生活しているので、冬などは加湿器をつけてあげましょう。

表: リスザルの温度と湿度 〔京都大学霊長類研究所, 2010〕
26‐27℃
湿度40‐70%

照明

昼行性の動物で、室内飼育の場合には紫外線ライトを設置するか、あるいは温暖な季節には、ケージに収容した状態で日光浴をさせるべきです (照明)。紫外線不足の飼育では、カルシウムの吸収が阻害され、代謝性骨疾患などの骨の病気になりやすいです。

とりあえずの紫外線ライトならコレ!

太陽光に近い自然なライト!ズーメッド社の爬虫類飼育用ライトですが、自然の太陽光に近いのが特徴で、屋外で日光浴ができないリスザルに使って下さい。ケージの大きさに合わせて15 W,20 W,40 Wのライトを使いわけます。

専用のソケットならコレ!

自然の太陽光に似せて作った紫外線ライト!

マジで一押しメタハラライト!定器機が内臓されて一体化されており、熱効果はやや強化した反射鏡により保温効果もあるライトです。80 Wと100 Wの商品があります。ソケットはケージに取り付けやすいものであればなんでも大丈夫ですので、購入して下さい。

食事

ペレット

新世界猿用ペレット (モンキーフード) を中心に、野菜や果物、動物性タンパク質 (昆虫ミルワーム、ゆで卵、ピンクマウス) などを与えます。ただし新世界ザル用ペレットが入手できない場合は、犬や猫用ペレットを代用します。リスザルは毎日長期間にわたって少量の食物を食べます。少しの餌をかじってからそれを落とし、後で再びそれを取り戻しても食べる特徴があります。容器に入れておいた餌を散らかすのも習性です。床がメッシュの金網床であると、餌が簀子に落ちると、一生懸命に取り出そうとします。散らかった種子やペレットなどの小さな餌を探し出す行為も習性を満たし、のストレス予防につながります 〔National Research Council, 1998〕。餌は1日に体重の3~5%の採食しますが 〔Johnson, 1981〕、多くは餌を散らかすために、より多くの量の給餌を行う必要があります。1日に1回全量を餌容器に入れて与えるより、2~3回に分けて与えるとよいです。新世界ザル用のペレットの粗タンパクは旧世界ザルよりも多く、18~22% 〔Nijboer, 2020〕、20~25% 〔Johnson, 1981〕 が理想とされています。特に真猿類用のペレットにはビタミンCとカルシウム代謝に必要なビタミンDが強化配合され、ビタミンC欠乏症代謝性骨疾患を予防します。リスザルでは成長期や妊娠期はさらに高栄養が必要とも言われています。新世界ザル用ペレットが入手できない場合は、犬や猫用ペレットを代用するしかありません。

リスザル用モンキーフードはコレ

サル用の高タンパク質のトリーツ(モンキービスケット)なども補助的に与えることができます。

リスザルペレット

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リスザルをはじめとする真猿類はビタミンCを身体内で合成できないため、餌から与えなければなりません。1~4 mg/kg/日が必要量とされています 〔Holmes, 1984〕。犬や猫用ペレットを代用している場合は、サプリメント、果物や野菜などから摂取させます。

リスザル

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ペットのサルの餌で問題となるのは、嗜好的な理由からペレットをあまり好まず、人の食物や果物などを欲しがり、偏食になることです。

偏食により太りやすくなりますので肥満に注意して下さい。リスザルでは巨大に成長する脂肪腫がよくできます。

飲水

リスザルは、水を与えないと、24時間以内に脱水して低血糖症を発症する可能性があります 〔Abee, 1985〕。常に新鮮な水を与えましょう。飲水は給水ボトルを使用して与えるのが最適で、糞や尿による汚れをなくし、水で遊ぶことを防げます。床に置くタイプの給水器であると、容器で遊んだり、放り投げたりすることもあるので注意して下さい。

ケア

ケージの中にリスザルをいれて餌を与えるだけという単調な飼育は、成長や健康維持、繁殖のみならず、精神的的なストレスの原因になります。リスザルが持つ野生本来の行動を発現できるような環境作りのために、生息地に適応した体の特徴や生態を環境エンリッチメントに沿って考えて下さい。リスザルの場合、「ケージを広くしたり、部屋で運動をさせる」「玩具で遊ぶ (退屈対策)」「人とのコミュニケ―ション (順位付け)」が重要で、他にもしつけトイレ対策を練って下さい。群れで生活をするために、仲間とコミュニケーションをとっていますが、ペットの場合は飼い主とのコミュニケーションがとても大切です。ストレスが溜まると、しつけも難しくなります。

リスザル

運動としつけ

リスザルは活発で、運動量も多いです。ケージから出して部屋の中で自由に運動させる時間も必要です。部屋の中で遊ぶ時は、物が崩壊されたり、かじり壊されたりしますので、注意して下さい。いたずらをされた時など、簡潔に「ダメ」といえば、最低限分かってくれるようになるはずです。

リスザル

動物病院への通院あるいは屋外へ散歩する際には胴輪を装着しないと逃走する恐れがあります。日頃から装着することに慣れるように訓練をしておくべきでしょう。

リスザル

玩具

小さなケージに収容しなければならない場合には、特に行動的および生態学的スキルを発達させるための環境を考慮しなければなりません。リスザルは玩具にも興味を示します。野生でも移動していない時は、ほとんどの時間は手で何かをいじっています 〔Fragaszy, et al., 1991〕。食餌や睡眠以外の時間は、彼らは常にケージ内あるいは周囲近くの物体に注意が向けられます。手先で転がすボール、人形、あるいはかじり木で遊ぶような行動が好まれます。しかし、玩具はサルによって好みが異なり、玩具に飽きてしまうこともあり、ローテーションをしたり、新しい玩具を用意しなければなりません。

順位付けとコミュニケーション

一般的にリスザルは旧世界ザルよりも人に対して攻撃的である可能性が低いです。しばしば人間に対して好奇心を示し、身近な人々に近づき、手で提供された食物や物をすぐに受け入れます 〔Abee, 1985〕。毎日顔を合わしたり、世話をする飼い主など、すぐに身近な人を認識することを学び、自分の経験に基づいて反応します。つまり、ここでサルにとっての順位付けが行われるのです。ケージの掃除や餌やりの時にリズザルの要求も聞くことが必要で、もちろん捕獲などを嫌がることをすることは禁忌です。ケージの近くで突然の動きや大きな音をたてるのも避ける必要があります。嫌悪感を抱かれた場合、サルと飼い主との良好な関係は保てません。群れで生活しているリスザルは、飼い主の家族も一緒に順位付けを行いますので、自分より下位とした場合はバカにしたり、言うことも聞かず、気に入らない行動をとるとかみついてくることもあります。リスザルは知能が高いので、しつけも行うことができますが、きまぐれな性格の個体も多く、長い目で行います。抱っこしたり、スキンシップをとりたいのであれば、慌てずにゆっくりと慣らしていきましょう。無理に触ろうとしたりりすると、その後は警戒され、接触できなくなります。信頼度を高めてから行わないといけません。

リスザル

人間に対して一般的に攻撃的でない行動にもかかわらず、ストレスを感じて自咬症や自傷を起こし、抜毛したり、手足や尾をかじることがあります。

オムツ

リスザルはトイレのしつけができないため、部屋が臭うことが問題となります。リスザルはもともと移動をしながら生活するため、決まった場所で排泄をする習慣があないため、トイレを覚えるという概念がありません。刺激を受けやすい性格で、興奮すると容易に脱糞や失禁します。したがって、ケージから部屋に出す場合はオムツをするべきです。オムツを覚えないと糞尿の掃除がとても大変になります。体に糞がつくことにも無頓着なので、不衛生にもなります。幼体からオムツをつける訓練をしないと、成体になったら難しいです。

リスザルおむつ
リスザルおむつ

リスザルは、糞便や尿、生殖器分泌物、唾液、および皮膚の特殊な香りの腺からの分泌物をマーキングで使用します。特に、尿を体に付けることで個体識別や繁殖行動などの相互作用に役立ちます。しかし、飼い主にとっては悪臭かもしれません 〔Williams, et al., 1995〕。

爪切り

平爪なので、人用の爪切りで切ることができますが、とても難しいです。

リスザル爪
リスザル

人獣共通感染症

リスザルは人が発症する一般的なウイルス性上気道疾患のほとんどに感染します 〔Adams, et al., 1995〕。そのような病気の症状がある人は、リスザルとの緊密な協力を避けるべきです。はしか (麻疹ウイルス) は、新世界ザルにも容易に感染します。リスザル旧世界ザルよりも結核に耐性があるようですが、よく分かっていません。

これがポイント!

  • 遊んでたわむれさせる
  • ケージの中だけでは要求不満
  • 冬は保温が必要
  • 日光浴か紫外線ライトをあてる
  • ビタミンCを特別に与える
  • 餌はペレットがベスト
  • 知能が高くしつけもできる
  • おもちゃを与える
  • オムツをする
  • 胴輪やリードに慣れさせる

リスザル好きならこの本はバイブルです

生態から飼育のことまで、詳しくリスザルのことが書いてあります。

動物健康研究センター監修

絶版になるかもしれないので、飼っておいた方がよいです。

参考文献

  • Abee CR. The squirrel monkey in biomedical research. ILAR J. 1989; 31 (1): 11-20.
  • Abee CR. Medical care and management of the squirrel monkey. In Rosenblum LA & Abee CR. eds. Handbook of Squirrel Monkey Research. Plenum Publishing. New York. 1985: 447-488.
  • Adams SR, Muchmore E, & Richardson JH. Biosafety. In Bennett TB, Abee CR, & Henrickson R. eds. Nonhuman Primates in Biomedical Research: Biology and Management. Academic Press. San Diego. 1995: 375-420.
  • Fragaszy DM & Adams-Curtis LE. Generative aspects of manipulation in tufted capuchin monkeys (Cebus apella). J Comp Psychol. 1991; 105 (4): 387-397.
  • National Research Council. New World Monkeys: Cebids.In National Research Council. The Psychological Well-Being of Nonhuman Primates. The National Academies Press. Washington, D.C. 1998: 80-89.
  • Nijboer J. Nutrition in Primates. MSD Veterinary Manual. https://www.msdvetmanual.com/management-and-nutrition/nutrition-exotic-and-zoo-animals/nutrition-in-primates (Last Revised: 2020 Aug; Last accessed: 2024/8/22)
  • Williams LE & Bernstein IS. Study of primate social behavior. In Bennett TB, Abee CR, & Henrickson R. eds. Nonhuman Primates in Biomedical Research: Biology and Management. Academic Press. San Diego. 1995: 77-100
  • 京都大学霊長類研究所. サル類の飼育管理及び使用に関する指針 (第3版). 2010. 京都大学ヒト行動進化研究センター. https://www.ehub-kyoto-u.com/_files/ugd/0d1b96_751b6a5625b04d0395b567c1f0a7597f.pdf (Last accessed: 2024/8/22)

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。