スローロリスってどんな動物(知らないといけない生態と特徴)

リスではない

スローロリスとピグミースローロリスは分類的に近縁なサルで、同じ種類として扱われることがあります。

分類・生態

いろんなロリス

ロリスはスローロリス属のサルの総称で、スローロリスとピグミースローロリスが属しています、両者は大きさや毛色などに地域による変異が見られ、亜種に分けるなどの諸説もあります。また、スローロリスはさらに、ベンガルスローロリス、ボルネオスローロリス、ジャワスローロリス、スンダスローロリス、レッサースローロリスの5つの亜種も報告されていますが、分類は流動的で確立されていません。

原猿類ロリス科スローロリス属スローロリスベンガルスローロリス
ボルネオスローロリス
ジャワスローロリス
スンダスローロリス
レッサースローロリス
ピグミースローロリス
表: ロリスの分類

マイクロチップを入れて登録

スローロリス属は2007年にワシントン条約CITESⅠ掲載種に改正され、種の保存法 (絶滅のおそれのある野生動物の種の保存法に関する法律) により、国内流通規制の対象となりました。販売・頒布目的の陳列及び広告、販売、譲渡等が原則として禁止され、あらかじめ個体を環境大臣の登録(登録票)を受けることにより、販売や譲渡が可能になります。個体登録を受けずに販売や譲渡をすると、5年以下の懲役または500万円以下の罰金が科せられます。環境大臣の登録票を受けるには、マイクロチップの挿入が必要になります。ペットショップやブリーダーから入手する際は、親個体の登録を受けているかどうか明確に確認した上で購入して下さい。

サルの法的規制の詳細な解説はコチラ!

スローロリス

分類

学名:Nycticebus coucang                                                                            英名:Slow loris

スローロリス

分布

バングラデシュからベトナム、マレーシア、スマトラ、ジャワを経たボルネオ

身体

頭胴長:26.5-38.0cm                                                                                尾長:1.3-2.5cm                                                                                    体重:230‐610g

身体

毛色の変異は大きく、全体的に茶褐色~灰色を帯びています。目の周りに黒色の輪と鼻には白色の筋が入ります、額から背中に沿ってお尻まで黒色の線が走っています。亜種の鑑別は難しいです。

スローロリス

生態

環境:常緑林の熱帯雨林                                                                              寿命:15~20年

行動

夜行性で単独で生活をしています。特にオスは縄張りが強く、他のオスに対して攻撃的です 〔Wall 2012,Ankel-Simons 2007〕。昼は枝分かれした木の間や、葉の密集した木の上で休んでいます。生涯の樹上で過ごし、ほとんど地上に降りることはありません。

食性

ロリスは雑食性で、主食は樹液、花蜜や果物で、その他にも昆虫や節足動物、新芽や鳥の卵なども食べています。ある報告の餌の内容は、最もよく食べているのは樹液で、次いで花蜜、果物 、昆虫は他の物よりも少ない 〔Wiens 2002,Nekaris et al.2007〕。

ピグミースローロリス

分類

学名:Nycticebus pygmaeus N. coucangpygmaeus)                                                          英名:Pygmy slow loris

ピグミースローロリス

分布

インドシナ半島東部

ロリス分布地図

身体

頭胴長:21.0-29.0cm                                                                      尾長:0cm                                                                                  体重:オス 約462g,メス 約372g

毛色

全体的に明橙色で、背中にわずかな白色の刺し毛が見られ、目の周りに黒色の輪と鼻には白色の筋が入っています。

ピグミースローロリス

性格と習性

スローな動作

性格は穏やかで、動きはとてもスローで、スローロリス(Slow loris)と呼ばれています。木々の間を移動する際に隣接する木の末端の枝を注意深くつかみ、小さな隙間を横切って自分自身を引っ張って移動し、殆ど音を立てません。しかし、移動を邪魔されると、すぐに動きを止め、動かないままになることもあります 〔Sussman 1999〕。

インドネシアでは、ロリスは発見されると凍って顔を覆うため、内気という意味のマルマル (Malu Malu) または恥ずかしがり屋 (Shy one) と呼ばれます 〔Nekaris et al.2010〕。外敵に追い詰められた場合、丸まって突進するような防御的な姿勢をとることがあります 〔Nekaris et al.2010〕。アチェ語 (※) の名前であるブアアンギン (Buah angin) は「艦隊であるが静かに逃げる (Fleetingly but silently escape)」という意味です 〔Nekaris et al.2010〕。
※ インドネシアのスマトラ地方、アチェ州で使用されているオーストロネシア語族に属する言語です。

ピグミースローロリス

素早い時もある

動きが遅いと思いながら、餌をとる時や天敵に遭遇した時だけ、素早く動けます。獲物を捕らえる時は両足で木や枝をつかん状態で、素早く両手で捕まえることができます。飛んでいる昆虫を捕まえることもできるそうです。また、威嚇で頭を素早く回してかみつこうとすることもありますので、油断しないで下さい。

ピグミースローロリス

鳴き声

スローロリスはほとんど鳴き声をあげません。威嚇や警戒した時に、「チッチッチッ」、「ジッジッジッ」、「ブーブー」などといった声を出します。他にも友好的な鳴き声、そしてメスの発情期のオスを誘う鳴き時は高い笛のようです 〔Wall, 2012; Ankel-Simons 2007〕。

ピグミースローロリス

臭腺とマーキング

スローロリスは肘の内側にある上腕腺の臭腺から分泌物を生成し、それを舐めて唾液と混合して毒液を作ります。子を安全な場所に隠しておく前に、メスは自分の上腕腺をなめて、次に櫛歯で子を手入れし、子の毛皮に毒液を付着させます。外敵に遭遇した場合、外敵をかんで毒液を相手に与えたり、毒のある唾液で自分の被毛をなめて寄生虫も防御すると言われています 〔Alterman 1995〕。毒液の成分はよく分かっていませんが、酸性の刺激臭があります 〔Matsuda et al.1972〕。スローロリスは名前の通りゆっくりしか動くことができないため、このような手段で身を守っています。人がかまれた場合は、軽くしびれたり、ひどく腫れることもあるので取り扱いには十分に注意して下さい。致命的なアナフィラキシーショックを引き起こす可能性があります。なお、この毒液はスローロリスが飲み込んでも素早く胃腸を通過するため、何も症状が現れないと言われています 〔Swapna et al.2010〕。尿によるマーキングも主要なコミュニケーションとして行われます 〔Wall 2012,Ankel-Simons 2007〕。手や足を尿で濡らして、縄張りの物に擦りつけ、特にオスでよく見られます 〔Rowe 1996〕。特に体臭は強くないのですが、マーキングによる尿でのために、オスではかなり臭います。

外敵への抵抗

スローロリスの外敵はニシキヘビやオランウータンなどです 〔Utami et al.1997〕。ロリスの性格は温和で攻撃的でないため、一般的に保護色によって隠れて危険を回避します 〔Wiens et al.2003〕。襲われた場合の手段は、鋭い歯でかんだり、体を丸くして毒液を含む唾液を塗布した毛皮で抵抗したり、丸まって木から落ちて逃げると言う行動をとります 〔Tenaza et al.1984〕。

特徴

ひょうきんな顔

頭は丸く、耳は小さく、目は丸くて大きく、顔の模様からも、ひょうきんな風貌です。体の割には大きな目が顔の正面に並んで位置し、サルらしくない顔つきをしています。

寸胴で筋肉質

体は寸胴で丸みを帯び、前足後足ともに同じ長さで、筋肉質です。

ピグミースローロリス

短い尾

尾は退化しており、毛の中に隠されています。

フワフワとした短毛

フワフワとした羊毛状の短い被毛が、びっしりと体を包んでいます。原猿は他の霊長類と比べて基礎代謝が低いため 〔Ialeggio, 1989〕、この密集した被毛で体温を逃がなさいようにしているからです 〔Junge 2003〕。

強い物を掴む力

指の数は、四肢全てに5本ですが、前肢の第2指は短いです。また、後肢の第2指だけは鉤爪になっていますが、他の爪は人と同じ平爪になっています。

ピグミースローロリス

四肢の関節がよく動き、把握力は強靭で、長い時間、物をしっかりと掴むことができます 〔Junge 2003〕。物を掴んだスローロリスを掴んで放すような場合、なかなか放してくれません。

ピグミースローロリス

櫛のような歯

歯の数は36本です。下顎の前歯は細く櫛のように萌出しているため、櫛歯と呼ばれ、昆虫を樹洞から掘り出すの有利な形、あるいは毛繕いに使用されていると言われています 〔Junge 2003〕。

雌雄鑑別

雌雄鑑別は成熟していないと難しく、オスは生殖孔の下に精巣が収納されている陰嚢が見れます。

ピグミースローロリスのペニス

メスの生殖孔 (外陰部) はオスと似ており、突出しています。一見しただけでは間違えやすいです。

ピグミースローロリス

乳頭は2対 (4個) あります。

繁殖

繁殖は周年繁殖動物で一年中繁殖する周年繁殖です 〔Wall 2012〕。交尾は水平の枝にしがみついた状態で行われます 〔Fisher, et al., 2003〕。妊娠期間は約6ヵ月と長く、新生子の出生体重も軽く、授乳期間が長いのが特徴です 〔Nekaris et al.2010〕。つまり、スローロリスは身体が同じサイズの他の哺乳類と比べて成長速度が遅いのです 〔Starr et al.2010〕。産子数は通常1頭ですが、ピグミースローロリスは双子を産む可能性が高いです。乳子は両親が餌を見つけている間、枝に止まっているか、親にしがみついています 〔Ankel-Simons 2007〕。

項目スローロリスピグミースローロリス
性成熟オス:17-20ヵ月齢
メス:17-21ヵ月齢
オス:17-20ヵ月齢
メス:17-21ヵ月齢
繁殖形式周年繁殖
性周期:37-54日
周年繁殖
性周期:42.3 (29-45) 日
妊娠期間約188日約191日
産子数1-2頭1-2頭
離乳5-7ヵ月齢133 (123-146) 日
表:ロリスの繁殖知識 〔Rowe 1996〕

ポイントはコレ!

  • 原猿類(原始的なサル)に分類される
  • 東南アジアに分布し、単独で樹上に生息
  • ロリスは登録票とマイクロチップが入っていないと飼えない
  • 亜種の鑑別難しい
  • 主食は樹液、花蜜や果物で、昆虫や節足動物、新芽や鳥の卵など
  • 普段は動きがゆっくりだが、いざとなる素早く動ける
  • オスは特に臭う
  • ひょうきんな顔
  • 一本だけ鉤爪で残りは全部平爪
  • 物をつかむ力が半端ない
  • 毒 (刺激性のある唾液) をもつ

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ロリスの飼育はコチラ!

ザル好きならぜひ読んで

飼育員がつくったサルの図鑑: かならず会いたくなっちゃう56のなかまたち.くもん出版

参考文献

  • Alterman L.Toxins and toothcombs: potential allospecific chemical defenses in Nycticebus and Perodicticus.In Creatures of the Dark:The Nocturnal Prosimians.Alterman L,Doyle G,Izard M eds.Springer.Berlin:413-424.1995
  • Ankel-Simons F.Primate Anatomy:An Introduction 3rd ed.Elsevier Academic Presss.Boston.2007
  • Fisher HS,Swaisgood RR,Fitch-Snyder H.Countermarking by male pygmy lorises (Nycticebus pygmaeus): do females use odor cues to select mates with high competitive abilities? Behav Ecol Sociobiol53:123-130.2003
  • Ialeggio DM.Practical medicine of primate pets.Compend Contin Educ Pract Vet11(10):1252-1259.1989
  • Junge RE.Prosimians.In Zoo and Wild Animal Medicine:Current Therapy 3.Fowler ME ed.WB.Saunders.Philadelphia:378-389.2003
  • Matsuda G,Maita T,Watanabe B,Ota H,Araya A,Goodman M,Prychodko W.Amino acid compositions of all the tryptic peptides from the and polypeptide chains of adult hemoglobin of the slow loris (Nycticebus coucang).Biochemical studies on hemoglobins and myoglobins.X.Int J Pept Protein Res4(6):405-413.1972
  • Nekaris KAI,Bearder SK.The strepsirrhine primates of Asia and Mainland Africa:diversity shrouded in darkness.In Primates in Perspective.Campbell CJ, Fuentes A,MacKinnon KC,Bearder S,Panger M eds.Oxford University Press.Oxford:24-45.2007
  • Nekaris KAI,Munds R.Using facial markings to unmask diversity:the slow lorises (Primates: Lorisidae: Nycticebus) of Indonesia.In Gursky S,Supriatna J. eds.Indonesian Primates.Springer.Berlin:383-396.2010
  • Rowe N.The Pictorial Guide to the living primates 1st ed.Pogonias Press. New York.1996
  • Starr C,Nekaris KAI,Streicher U,Leung L.Traditional use of slow lorises Nycticebus bengalensis and N. pygmaeus Cambodia: an impediment to their conservation.Endangered Species Res12(1):17-23.2010
  • Sussman RW.Primate Ecology and Social Structure.Pearson Custom Publishing. Massachusetts.1999
  • Swapna N,Radhakrishna S,Gupta A,Kumar A.Exudativory in the Bengal slow loris (Nycticebus bengalensis) in Trishna Wildlife Sanctuary,Tripura,northeast India. Am J Primatol72(2):113-121.2010
  • Tenaza R,Fitch H.The slow loris.Zoonooz57(4):10-12.1984
  • Utami SS,van Hooff JARAM.Meat-eating by adult female Sumatran orangutans (Pongo pygmaeus abelii).Am J Primatol43 (2):159-165.1997
  • Wall T.Three new species of venomous primate identified by MU researcher.MU News Bureau.2012
  • Wiens F.Behavior and ecology of wild slow lorises (Nycticebus coucang): social organization,infant care system,and diet.2002
  • Wiens F,Zitzmann A.Social dependence of infant slow lorises to learn diet.Int J Primatol24(5):1007-1021.2003

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。