サルの飼育の法的規制

サルの種類

サルは約200種の色々な種類が存在し、下等な種類から知能指数が高い高等な種類もまで動物学的差異が極めて大きいです。また、体重が100g以下のネズミキツネザルから100kg以上のゴリラまでといった身体の大きさの幅もあります。分類学的に、人も含む類人猿、真猿類、原猿類に分けられ、類人猿と真猿類は高等な霊長類です。

原猿類は下等で原始的なサルで、身体が小さいです。

真猿類はさらに広鼻類と狭鼻類に分類されます。広鼻類は鼻梁が横に広がっており、中南米に生息しているために新世界ザルとも呼ばれています。狭鼻類は鼻梁が広鼻類と比較して狭く、アジアとアフリカ大陸に生息しているために旧世界ザルとも呼ばれています。日本では旧世界ザルのニホンザルが固有種として有名で、尻ダコや頬袋を持っています。尻ダコや頬袋は旧世界ザルにあるもので、原猿類や新世界ザルには認められません。

原猿類はかつて霊長目原猿亜目に属する動物の総称とされ、名前の通りに原始的なサルの仲間で、キツネザル、ロリス、メガネザルなどが属しています。原猿類は真猿以外の霊長類になりますが、現在の分類学的には曲鼻猿亜目(キツネザルとロリス)とメガネザルに別れました。メガネザルは実際は真猿類に近いことが明らかになったため、霊長類は曲鼻亜目としての原猿類、直鼻亜目としての真猿類とメガネザルに分けられるようになりました。形態的にも真猿類のサルの特徴と、サルになりきれない部分とが混在してます。

サル目(霊長目)原猿類
曲鼻亜目・スローロリス
・ピグミースローロリスなど

直鼻亜目

メガネザル
真猿類旧世界ザル・二ホンザル
・カニクイザルなど
新世界ザル・リスザル
・コモンマーモセット
・オマキザルなど
類人猿・ゴリラ
・ヒト
・チンパンジーなど
表:サルの分類

サルの飼育の法的規制

サルを飼育する上で動物愛護管理法、感染症法、外来生物法、ワシントン条約などの法的な規制を知っておく必要があります。

動物愛護管理法

動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)は1973年に制定され、その後何度も法改正が行われています。法律の目的は、動物の愛護と動物の適切な管理(危害や迷惑の防止)です。その中には人に危害を加えるおそれのある危険な動物を特定動物として、飼養施設の構造や飼養・保管の方法についての基準を定め、申請しないと飼育ができないように定められ、トラ、クマ、ワニ、マムシなどの哺乳類、鳥類、爬虫類の約650種が対象となっています。しかし、2021年から、法改正により特定動物は動物園や試験研究施設以外での愛玩目的いわゆるペットでの飼育は禁止されました。サルにおいても人に危害を与える恐れがある種類が特定動物に指定され、動物園にいるようなゴリラやオランウータンはもちろんのこと、チンパンジーやテナガザルなどがいます。

アテリダエ科アロウアタ属(ホエザル属)全種
アテレス属(クモザル属)全種
ブラキュテレス属(ウーリークモザル属)全種
ラゴトリクス属(ウーリーモンキー属)全種
オレオナクス・フラヴィカウダ(ヘンディーウーリーモンキー)
オナガザル科ケルコケブス属(マンガベイ属)全種
ケルコピテクス属(オナガザル属)全種
クロロケブス属全種
コロブス属全種
エリュトロケブス・パタス(パタスモンキー)
ロフォケブス属全種
マカカ属(マカク属)全種(特定外来生物であるタイワンザル、カニクイザル、アカゲザルを除く)
マンドリルルス属(マンドリル属)全種
ナサリス・ラルヴァトゥス(テングザル)
パピオ属(ヒヒ属)全種
ピリオコロブス属(アカコロブス属)全種
プレスビュティス属(リーフモンキー属)全種
プロコロブス・ヴェルス(オリーブコロブス)
ピュガトリクス属(ドゥクモンキー属)全種
リノピテクス属全種
センノピテクス属全種
シミアス・コンコロル(メンタウェーコバナテングザル)
テロピテクス・ゲラダ(ゲラダヒヒ)
トラキュピテクス属全種
テナガザル科テナガザル科全種
ヒト科ゴリルラ属(ゴリラ属)全種
パン属(チンパンジー属)全種
表:特定動物の種類

感染症法

感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)は日本での感染症対策として1998年に制定・公布され、1994年からが施行されています。感染症の発生動向が把握できるように、医師の届け出に基づく感染症サーベイランスシステムが強化されています。人獣共通感染症の恐れのある動物は輸入禁止になり、現在はペット用のサルは全面的に輸入禁止ですが、動物園や試験研究施設のサルは禁止地域が設けられた上で輸入されています。海外ではエボラ出血熱やマールブルグ病がサルから人に感染した地域があり、これらの病気が日本に侵入しないようにするためです。輸入可能な地域は、アメリカ、中国、インドネシア、フィリピン、ベトナム、スリナム、ガイアナ、カンボジアで、輸入したサルは検疫を受けてから日本の各地に持ち込まれますが、これ以外の地域から日本にサルを輸入できません。

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外来生物法

特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)は、海外から持ち込まれた指定した外来生物によって、日本の生態系、人の生命・身体、農林水産業に被害が生じるのを防ぐことを目的とし、2004年に制定され、2005年に施行されました。いわゆる輸入、飼育、拡散が禁止され、対象となるものは動物以外に、植物も含まれ特定外来生物として指定されています。サルでは、タイワンザル、カニクイザル、アカゲザルの3種になります。

ワシントン条約

ワシントン条約の正式名称は絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)で、1973年にアメリカのワシントンで採択されたことから、ワシントン条約という通称で呼ばれています。また英文の頭文字をとってCITES(サイテス)とも呼ばれることもあります。ワシントン条約では野生動植物の国際取引の規制を輸出国と輸入国とが協力して実施することにより、絶滅のおそれのある野生動植物の保護を図ることを目的としています。野生動植物の種類を、絶滅のおそれの程度に応じて附属書(サイテス)I、サイテスⅡ、サイテスIIの3つに分け(サイテスⅠが最も規制が強い)、それぞれの必要性に応じて、国際取引の規制を行うこととしています。サイテスⅠに掲載種は最も絶滅のおそれのあるもので、商業目的のための国際取引は原則禁止されています。また、国内における取引についても、種の保存法に基づく国際希少野生動植物種として規制されています。サルの全種類がサイテスⅠあるいはⅡ掲載種ですが、スローロリスやピグミースローロリスは2007年にサイテスⅠに登録され、国内では種の保存法により飼育にも制限がかけられ、現在はマイクロチップを挿入して、登録票がないと飼育ができなくなりました。もちろん感染症法からもペットのサルは輸入禁止なので、国内繁殖した個体だけがペットで流通しています。

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日本でのペットサル

現在、日本で飼育されているサルは、上記の理由から国内繁殖個体とされています。ペットのサルは、マーモセット、リスザル、マイクロチップを入れて登録証を得たスローロリスやピグミースローロリスが大半を占め、一部オマキザル(フサオオマキザル)を見かける程度です。

ポイントはコレ!

・サルは類人猿、真猿類、原猿類に分けらる
・原猿類は原始的なサルで体が小さい
・真猿類は新世界ザルと旧世界ザルに分けられる
・ペットのサルは輸入ができない
・サル全種類がワシントン条約の輸出入の規制対象
・日本で飼育されているペットのサルは全て国内繁殖個体

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この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。