毛引き症とは?
鳥は羽を毛づくろいをして綺麗に保ちます。何らか理由で、毛づくろいが過剰になると、羽をつついたり、かんだりして羽をボロボロにしたり (羽咬症 〔うこうしょう〕: Feather chewing)、抜いてしまいます (毛引き: Feather picking)。これらを総称で羽毛損傷行動 (Feather Damaging Behavior: FDB) と呼ばれています。
自分の皮膚をつついて損傷させることもあります (自咬症: Self biting)。羽や皮膚を傷つける行動を総括して自傷 (自傷行動: Self-Mutilating behavior: SMB) と言います。
自傷行動 (SMB) | 羽 | 羽毛損傷行動 (FDB) | 羽咬症 (Feather chewing) |
毛引き (Feather picking) | |||
皮膚 | 自咬症 (Self biting) |
症状は?
一般的に嘴が届く範囲で、首、胸、脇腹、内腿、翼腹部などの羽咬や毛引きが見られ、皮膚の自傷することもあります。
顔や頭には嘴が届かないので、羽は正常に生えそろっています。皮膚まで傷つけると出血して、「キーキー」と鳴きさけびながら痛がります。
好発鳥種
オウム類に多発し、これは野生でも社交性が高く、群れの中で相互での刺激がある環境です。特にセキセイインコ、ボタンインコ、コザクラインコに多く発生し、フィンチでの発生は少ないです。文献ではキソデボウシインコでは、羽毛損傷行動の遺伝率確立が高いことが研究されましたが 〔Garner, et al., 2006〕、他の鳥種ではこれからの研究になります。
原因は何?
自傷行動は飼鳥に多発し 〔Lumeij, et al., 2008〕、一部病気によって引きおこされます。根本的な原因には、ケージのサイズにより鳥の動きが制限されること、ケージの環境が鳥に不快なこと、鳥の社会的ニーズが満たされない単独飼育がなどの社会的・環境的要因とストレスがあげられますが、衝動制御障害のような脳の問題や遺伝的素因があるかもしれません 〔van Zeeland, et al., 2009; Reinhardt, 2005; Bordnick, et al., 1994〕。原因が一つとは限らず、複雑に絡んでいますので、具体的に特定できないことも珍しくはありません。
社会的および環境的要因
初期の経験不足
仲間から羽つくろいを教えてもらい学習するため、社交性の低下や育雛期間中の親の不在 (手乗り) など、羽繕い行動を学習できなくなります〔Schmid, et al., 2006; Luescher, et al., 2005〕。
単独飼育 (分離)
飼育下では、ペットの鳥は同種から隔離されることがよくありますが、野生では安定した、時には大きな群れを形成します。 これらの鳥は孤独な生活にうまく対処できない可能性があります。 社会的または性的パートナーの剥奪は、分離不安、孤独、退屈、性的欲求不満、注目を求める行動につながる可能性があります。人に馴れている鳥では、飼い主がいなくなることで寂しくなり、人が少し離れただけでも落ちつかなくなり、鳴き声を上げて呼んできます。愛着の対象となっている人と離れることに極度に恐れる分離不安になります 〔Chitty, 2003〕。
不毛な環境
環境の複雑さが増すと羽毛損傷や自傷は減少するあるいは安定化する報告があります 〔Meehan, et al., 2003; van Hock, et al., 1997〕。つまりケージにいれて単に餌を与えるだけの単調な生活が問題となります。
採餌行動不足
採餌の機会が増えると、羽毛損傷や自傷行為が大幅に減少します。 飼鳥はすぐに餌が入手できる環境にいおり、餌を探すことに時間も費やさないが、野生ではこれを見つけるために何時間もかけて採餌しなければなりません。
ストレス
羽をむしる行為は、ネガティブな感情状態への対処戦略としても解釈されています。 不適切な社会的または環境的要因によって引き起こされる、孤独、退屈などがストレスになります 〔Seibert, 2006〕。ドアに近接して直接視線を向けた場所で飼育されていたキソデボウシインコ は、ドアから遠く離れて飼育されていた個体と比較して、羽毛損傷行動が著しく多かった。これは、原因因子としてストレス要因の存在を示している 〔Garner, et al., 2006〕。さらに、羽毛損傷や自傷するオウムで、コルチコステロンのレベルが高いことがわかっています。 また、日長が長いと問題行動を起こす可能性があることも示唆されており 〔Chitty, 2003〕、これは鳥が過度に疲れてストレスを感じていることが関係しているのではないかと考えられています。
ストレスの原因
- 1羽で寂しい
- 退屈でヒマ
- 発情
- 気に入らない物
- 脳内セロトニン不足
医学的および身体的要因
羽毛損傷や自傷の根底にある多くの医学的原因として、感染症 (オウム病、前胃拡張症候群など)、内部寄生虫、外部寄生虫、皮膚炎 (細菌性、真菌性毛嚢炎など)、栄養欠乏症 (特にビタミンA欠乏症)、皮膚の乾燥や黄色化、全身疾患 (特に肝疾患、腎疾患・痛風)、低カルシウム血症、PBFD、甲状腺機能低下症、疼痛、腫瘍あるいは肥満や発情なども挙げられています 〔van Zeeland, et al., 2009; Chitty, 2003〕。上記の要因の多くについては、因果関係や相関関係が確立されていないこともあり、単に偶然の発見の結果である可能性があります。特異的にオカメインコでは内部寄生虫 (オカメインコの回虫やヘキサミタ)、セキセイインコやラブバードではPBFD等のウイルスなどの病気が多発し、問題行動の原因となることが多い。一方で、オウムの約50% は、皮膚と羽の生検検査に基づいて炎症性皮膚疾患を患っていると診断されている 〔Garner, et al., 2008〕。これは鳥は羽づくろいをすることで掻痒を和らげようとしますが、これはしばしば過度の羽づくろいにつながり、皮膚炎が先か、羽つくろいが先か、原因は分からないです。
病気の原因
- 羽に寄生しているダニやシラミ
- 皮膚炎
- 羽のウイルス (PBFD)
- 肝不全 (脂肪肝症候群)
- お腹の寄生虫
- どこかに痛みがある
神経学的要因
羽をむしる際の脳機能障害については、現時点ではほとんど解明されていません。 しかし、特に行動介入や環境変化による治療に敏感に見える症例では、異常な脳機能が関与しているとの仮説が立てられています 〔van Zeeland, et al., 2009〕。 鳥に対する向精神薬療法は反応にはばらつきがあるようです 〔Chitty, 2003〕。
診断つけれるの?
羽毛行動や自傷の発生原因を調べるのが容易ではありません。原因が病気であれば、健康診断を行い、糞便検査、血液検査や、PCR検査、X検査などを適宜に行い鑑別をします。オカメインコでは腸の寄生虫などが原因になることが多いです。セキセイインコでは慢性的な発情、ボタンインコやコザクラインコではストレスが原因になることが多いです。ストレスの原因は鳥に聞くしかないです。
対応
ストレスは環境エンリッチメントを整えないことで起こります。鳥の本来の正常な行動を引き出し、異常行動を減らすために、飼育環境に対して行われる工夫を指します。環境エンリッチメントの内容は鳥の種類によっても異なります。これらの問題行動は脳内セロトニン不足が大きく関与します鳥の本来の習性をみたすために、飛ぶこと、群れの中でも刺激を受けることが、体調やホルモンバランスを整えるのでしょう。
餌の見直しをして下さい。ビタミン不足やタンパク質の不足はセロトニン不足につながり、毛引きの原因になります。また規則正しい生活を心掛けることで、体内時計が整ってストレスが減ります。夜は暗くして早くに寝かせて、昼は時に日光浴などをさせましょう。
- 部屋で飛ばせる
- 餌の見直し
- 規則正しい生活
- 夜は暗くして寝かせる
- 日光浴をさせる
かまってやる
本来鳥は群れで生活をしている種類が多く、群れの中で社交性が求められています。1頭で飼育することで退屈になりますが、いきなり複数で飼育するにしても相性が繁殖の問題があります。飼い主が鳥との交流する時間を増やします。
しかしながら、1日中、鳥に構う時間をとるわけにいかないで、人にべた馴れになっても、困ることがあります。分離不安は、雛の時に早くから親から放したり、挿し餌を与えていた飼い主のみに精神的依存をしているため、本来はこれも問題なのです。1羽で寂しい時には以下の方法をとって下さい。
- 鏡や鳥のおもちゃを与える (おもちゃは発情に注意)
- テレビをつける (人の話しているシーンや声を聞いて刺激をもらう)
- ビデオをつける (鳥や森の動画などを流す)
- 飼い主を撮影したビデオを流す
退屈解消
野生の鳥は群れで刺激を受けたり、また何十 kmも飛翔して餌を探し、採食に要する時間はかけて暮らしています。しかし、ペットの鳥は刺激も少なく、餌を探す必要もないので、退屈で暇な時間が多くなります。退屈で暇そうな時には以下の方法をとって下さい。
- ケージを大きくする
- 鳥のおもちゃを与える (おもちゃは発情に注意)
- アスレチックやロープ渡りの運動をさせる
- 部屋での放鳥時間を増やす
鳥のケージの大きさの詳細な解説はコチラ!
フォージングをする
鳥が採食行動に費やす時間を増やします (フォージング: Foraging/採餌行動)。パイプの中に入れたおやつやオモチャを探させたりするフォージングトイが注目されています。
発情対策
多くの鳥は一夫一婦性のペアを作ります。手乗りの鳥は、飼い主とペアの相手を認識しています。常に一緒にいないと、そして繁殖行動ができないことがストレスになります。発情によるストレスが原因である場合は、ペアの相手を当てがう、反対に発情を起こす飼い主、止り木、おもちゃ、巣箱などの性の対象を避けるような発情対策をするしかありません。しかし、ペアの相手は必ずしも相性があるとは限りません。
コラム:気にいらない物を与える???
鳥が嫌がる物や環境がストレスになります。隣のケージにいる鳥、飼い主の家族の中での嫌いな人、知らない来客、ぺットホテル、ケージやレイアウトの変更、気に入らないおもちゃ、部屋の模様替え、地震、台風、工事の騒音、犬や猫の声など色々と考えられます。特に多頭飼いでは相性が悪い鳥がストレスになり、よくケンカをしている姿が観察されます。嫌いな物は最終的に鳥に聞かないと分かりません。神経質な鳥にはできる限り急な変化を起こさないよう気をつけましょう。
- 相性が悪い鳥や飼い主から放す
- 鳥が知らない人とは接触させない
- 気に入らないケージ、レイアウト、おもちゃを避ける
- 部屋の模様柄をしない
- 犬や猫と接触させない
とりあえずエリザベスカラー?
自傷が重篤で出血まで起こしている場合は、エリザベスカラーを装着して、予防しなければいけません。ただし、 鳥のその行為をより困難にしますが、根本的な原因には対処していませんので、外すと再び繰り替えす可能性が高いです。
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薬剤療法は?
ハロペリドールを投与すると、強迫的な行動は減少することが示されていますが、鳥は投薬を中止するとすぐに必ず再発してしまいました。 クロミプラミンも、一般にハロペリドールほど効果的ではありませんが、症状の長期的な軽微な改善にも関連しています。フルオキセチンの投与は、行動を減少させることも知られていますが、それはごく短期間であり、通常、鳥は数週間の治療後に再発し、継続的に薬剤の用量を増加させる必要があります。また、それぞれの薬剤には副作用の問題もあります 〔Mertens, 1997; Eatwell, 2009〕。
まとめ
毛引きは根気よく対応しないといけません。焦らずにじっくりと、考えて対策を練りましょう。定期に健康診断をして、病気の早期発見だけでなく、飼育の見直しも獣医師に相談しましょう。
これがポイント!
- セキセイ、ボタン、コザクラに多い
- 原因はストレスか隠れた病気
- イライラするストレスは脳内のセロトニン不足が原因
- ストレスだと原因は特定がむずかしい
- 環境が悪い、餌が悪いなどの要因がセロトニン不足を起こす
参考文献
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