フェネックの飼育(試行錯誤)

野生動物

フェネックは大変魅力的で可愛いらしいですが、ペットとして飼うことはとても難しいです。人に飼いならされておらず、かなり野性味が残っています。平均体重は1 kgと最小のイヌ科の動物で、体重は1.5 kgが最大で、全長も60 cmを超えることはめったにありません。小さい体ながらも他のキツネのように、サークルを飛び越したり、地面を掘る習性があります。また、鳴き声もうるさいので、近所迷惑にもなり、ペットとして飼育する場合は少し大変な思いをすることも多いです。神経質で臆病な面もあるので、しっかりと性格と習性を理解してあげることが大切です。

夜行性

フェネックは巣穴で眠ることによって日中の砂漠の暑さを回避し、気温が低くなる夜に活動的になる夜行性です 〔Maloiy et al.1982〕。しかし、人の生活に合わせて昼に活動的にもなります。

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ケージから部屋の放し飼い

フェネックはイヌ科の動物であるため、犬と同じようにケージで飼う時間と部屋に放す時間を設けます。しかし、犬とは違ってフェネックは問題行動を起こすことが多いため、ケージで飼育する時間が必然的に大半を占めるかもしれません。また、オスのフェネックは発情期になると尿を使いマーキング行います。そのため、放し飼いにしたい場合はマーキングで汚されても問題ないフェネック専用の部屋を用意することをお薦めします。

温度管理

アフリカの気温が高くて強い日差しの砂漠に生息しており 〔Louw et al.1982〕、夜は気温も下がり寒暖差が激しいです。寒さと暑さに対してはある程度耐性がありますが、気温が32°Cを超えると体調が崩れ 〔Noll-Banholzer 1979〕、食欲も低下します 〔Lariviere, 2002〕。体温が37℃を超えると喘ぎが起こり、熱中症が起こります 〔Maloiy et al.1982〕。野生での巣穴は34°Cを超えることはなく、生息地の夜の気温は25〜30°Cです〔Kirmiz, 1962〕。そのため、最低気温が一ケタ台に落ち込む冬場や気温が30℃を超えるような真夏日は必ずエアコンを使ってフェネックが快適に過ごせる温度 (20~30℃) に保ってください。

トイレ

フェネックはトイレの場所を覚えにくい傾向にあります。個体によっては短期間でトイレを完璧に覚える場合もありますが、大半はトイレを覚えるまでにかなりの時間が必要になりますので、幼体期からトイレのしつけが行う必要があります。

フェネックは肉食動物と言われ、主にげっ歯類、小型の鳥類や爬虫類、昆虫、鳥の卵などの動物質の餌を食べますが、動物以外の植物の葉や根、果物なども大量に摂取し 〔Allen et al.1996〕、雑食性ともいえます 〔Dempsey et al.2009〕。げっ歯や鳥類は追いかけて襲撃をして捕食しますが、獲物は主に音によって見わけます。穴を掘る昆虫や小さな哺乳類を検出します 〔Gauthier-Pilters 1967〕。また、捕獲した獲物を貯蔵する習性もあり、一般的に穴を掘って餌を隠します 〔Gauthier-Pilters 1967〕。

飼育下のフェネックの栄養は良く分かっていませんので、他のキツネ (ホッキョクギツネなど) や犬・猫のデータを流用しているに過ぎないです 〔Dempsey et al. 2009〕。一般的には犬・猫用ペレット、コオロギやミルワーム等の昆虫、野菜や果物が与えられています。しかし、主食にしている犬・猫用ペレットは摂取量あるいはカロリー過多なの、肥満の個体が増えています。狩猟本能が強いので、生き餌のコオロギやワームなどを不定期に与えるとストレス発散にもなります。

給餌回数

フェネックを飼育するときは毎日朝と夜に2回与えるようにしましょう。フェネックは夜行性の動物なので、朝よりも夜の方は餌をよく食べます。給餌は朝は少なめに、夜多めに与えるとよいかもしれません。

飲水

フェネックは獲物の体内の水分だけで生存し、通常はあまり飲水をしません 〔Noll-Banholzer, 1979〕。しかし、飼育下では餌と共に普通に給水ボトルや皿から自由に飲水させて下さい

掃除

フェネックの排泄物で、刺激臭がします。トイレの場所をしつけは難しいので、あちこちで用を足してしまいます。すぐに処理し、消臭スプレーで消毒します。マーキングのためにフェネックは排泄物の上で寝転がったりもします。もちろんケージの掃除は毎日行って清潔に保ち、定期的にケージの丸洗いも必要になります。

ケア

社会性があるフェネックは、オスとメスの番とその子孫です 〔Dempsey et al.2009〕。仲間との結びつきが強く、 遊びを含めて社交性を持たすさないとストレスの原因になります。1頭での飼育では飼い主との結びつきが強くなり、明確な意思表示を表します 〔Lariviere 2002〕。 きちんと顔を見て声をかけたり、遊んであげたり、一方でいけないことをしたら、叱ることも必要です。その他、被毛の管理のためにブラッシングをしたりします。屋外の散歩を行うようであれば、ノミやダニ、そしてフィラリアの予防、そして予防接種を考えないといけません。

遊び

ケージの外で遊ぶ時などは、キャットタワーも喜んで使ってくれます。

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ブラッシング

換毛期には細くて柔らかいふわふわの毛が抜けて、中に舞い散ります。ストレスにならないようにやさしくブラッシングをしてあげましょう。毎日のスキンシップに取り入れ行うと良いかもしれません。もし、シャンプーできるようであれば、匂いに敏感な動物のため、無香料の製品を使用して下さい。

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問題行動

夜中に突然と鳴き声を上げたり、穴を掘ろうとして床を傷つけてるといった問題行動を起こす場合もありますので、飼育に考えている方は十分な設備と計画を立てるようにしてください。

穴掘り対策

フェネックは地面に巣穴となる穴を掘る習性があります。ケージの中あるいはケージの外にせよ、絨毯やフローリングを痛めてしまうので、前肢で地面を掘る行為をしてもよい場所を決めて下さい。掘る行為をさせたくない場所には、物を置くなどの対策をするとよいでしょう。動物が嫌うスプレーを振りかけておく方法もあります。

鳴き声対策

フェネックは夜行性の動物であるため、基本的には夕方から夜中にかけて活動的になります。フェネックの鳴き声は高く大きく、犬のような「ワンワン」といった基本的な鳴き方をはじめ、猫が怒った時に出すような高い声で「ギャーギャー」とも鳴きます。また、喜んでいるときの猫のような喉鳴り、脅迫としての叫び声、挨拶としてのきしむ音など、様々な呼びかけがあります 〔Lariviere 2002〕。フェネックの鳴き声は鳴き声はしつけでは治らないので、一軒家で飼育するか、防音の部屋を設けるしか対策はありません。

低コストで生存するための体の仕組み

フェネックは体が小さいですが、これは資源が豊富でない過酷な環境で生き延びるために、エネルギー消費を最小限にするために体の特殊な機能を備えています 〔Roth 1990; Noll-Banholzer 1979〕。基礎代謝率も同じ体重の動物よりも低く、カロリーが少なくても生存することが可能で、乾燥地域に生息していることから、蒸発水分損失の抑制、心臓血管における体液の蓄えの増加などの特徴があります。信じられないほど濃縮された尿を生成することができます 〔Banholzer 1976〕。心拍数はかなり低く (98~105回/分) と報告され、低い心拍数は、低い安静時の代謝率を維持する砂漠の動物の能力かもしれません 〔Dawson 1973〕。

参考文献

  • Allen ME,Oftedal OT,Baer DJ.The feeding and nutrition of carnivores.In Kleiman DG,Allen ME,Thompson KV, Lumpkin S,Holly Harris eds.Wild Mammals in Captivity:Principles and Techniques.University of Chicago Press.Chicago:139-147.1996
  • Banholzer U.Water balance,metabolism,and heart rate in the fennec.Naturwissenschaften63(4):202-203.1976
  • Dawson TJ.Primitive mammals.In Comparative Physiology of Thermoregulation.Whittow GC ed. Academic Press.New York:1-46.1973
  • Dempsey JL,Hanna SJ,Asa CS,Bauman KL.Nutrition and behaviour of fennec foxes (Vulpes zerda).Vet Clin North Am Exot Anim Pract12(2):299-312.2009
  • Kirmiz JP.Adaptation to Desert Environment;A Study on the Jerboa,Rat and Man.Butterworths.London.1962
  • Lariviere S.Vulpes zerda.Mamm Species714:1-5.2002
  • Louw G,Seely M.Ecology of Desert Organisms. Longman Group Limited.Essex.1982
  • Malloiy GMO,Kamu JMZ,Shkolnik A,Meir M,Arieli R.Thermoregulation and metabolism in a small desert carnivore: the fennec fox (Fennscus zerda)(Mammalia).J Zool198:279-291.1982
  • Noll-Banholzer U.Body temperature,oxygen consumption, evaporative water loss and heart rate in the fennec.Comp Biochem Physiol A Physiol62(3):585-592.1979
  • Roth VL.Insular dwarf elephants:a case study in body mass estimation and ecological inference.In Body Size in Mammalian Paleobiology:Estimation and Biological Implications.Damuth J,MacFadden BJ.eds.Cambridge University Press.Cambridge:151-179.1990

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。