【解剖】爬虫類の同形歯(ギザギザ)

歯と嘴

爬虫類の歯は哺乳類と同様に、エナメル質、象牙質、セメント質で構成されていますが、形状は種毎に特化し、哺乳類での切歯、犬歯、臼歯と言った歯の異なる形状がなく、ワニと毒ヘビ以外では基本的には同じ形状の歯が並んだ同形歯をしています(サイズが異なる場合はあります)。また、多くの爬虫類では、何度も生え替わる多生歯で、つまり、古い歯が摩耗するにつれて新しい歯が生えてくるのですが、これは成体になると頻繁に起こるものではありません。幼若期では頻繁に萌出しますが、高齢になると萌出しなくなり、古い歯が磨耗してすり減っていることもあります。また、孵化時の爬虫類では、卵を割るのに使用する歯的な構造物を備えています(卵歯)。

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歯の分類

爬虫類の歯は、種類によって歯の付着構造や強度が異なり、アクロドント(Acrodont)プレウロドント(Pleurodont)テコドント(Thecodont)の3つのタイプに分類されます。なお、カメは歯を欠く唯一の爬虫類で、代わりに鋭い嘴を備えています。

Reptile Dentition: The Details on Reptile Teeth – Reptiles Magazine

アクロドントの歯

アクロドントの歯は、顎骨に歯槽を欠きなく、上顎骨と下顎骨の咬合面の隆起部にある浅いクレーター状の窪みの縁に、表面的に癒着しています。硬骨魚類に特徴的な歯ですが〔Plough et al.2002〕、爬虫類ではトカゲのアガマ科(ウォータードラゴン、アゴヒゲトカゲ、トゲオアガマ属)、カメレオン、ムカシトカゲなどのいくつかの種で知られています〔Budney et al.2006〕。アクロドントの歯は歯根が短く、顎骨にしっかりとは固定されてない状態です〔Plough et al.2002,Smith et al.1958〕。歯を支えている骨や顎に癒着はしているものの、しっかりとした固定でなく、歯根が短いこともあり、抜けやすく、そのため餌を食べたり獲物を捕らえたりする際に歯が失われることがあります〔Klaphake 2015,O’Malley 2005,Mehler 2003,Cooper et al.1970,Edmund 1970〕。また、歯周病や口内炎などの感染症にもかかりやすく、飼育下ではアクロドントの歯を持つアガマやカメレオンに発生しますが、野生での発生は稀だそうです〔Wellehan 2014,Mehler 2006〕。一般的に歯は加齢とともに摩耗する傾向にあり、老体の歯冠は、鋸歯状を保った嘴のようになります〔O’Malley 2005.Mehler 2003,Cooper et al 1970,Edmund 1970〕。

プレウロドントの歯

プレウロドントの歯は、イグアナ科、オオトカゲ科、ヤモリなど、多くのトカゲに見られます〔Klaphake 2015,Edmund 1970〕。歯の唇側(頬側)は歯を収容する顎骨の内側に癒着し、舌側は骨に付着していませんが、通常は結合靭帯によって固定されています〔Plough et al.2002,Smith et al.1958〕。一見するとアクロドントの歯のように見えますが、顎骨と接触する表面積が大きいため、アクロドントの歯と比べて強く癒着しています。本来のプレウロドンの歯は、食物を噛み砕くために爪のように硬い歯を必要とする肉食のトカゲに適しています。また、獲物を捕らえたり、逃げようとしたりする強靭な力がかかると歯が抜け落ちるため、歯は生涯を通じて絶えず脱落し、新しい歯に置き換わる多性歯です。しかし、歯の交換は、個々の歯の摩耗や損傷に応じて発生するわけではないようで、歯の寿命はそれぞれ異なり、多くは数ヵ月で脱落して生え替わります〔Cooper et al 1970,Edmund 1970〕。イグアナ科では、歯の急速な交換が一般的で、1年に5回位交換されると言われています〔Edmund 1970〕。

テコドントの歯

テコドントの歯は爬虫類の中で最も珍しく、ワニにのみ見られます。ワニは大きな獲物を食べ、激しい縄張り争いを繰り広げます。強い歯はまさにそれを助けます。テコドント歯が最も強いのは、顎の骨の最も深いところに彫られたソケット内に配置されているためです。これは、歯がソケットに配置され、四方を骨に囲まれているコドント移植とは対照的です〔Plough et al.2002,Smith et al.1958〕。ワニでは失われた歯は限られた数の歯で置き換えることができますが、加齢とともに、その頻度と速度は低下します〔O’Malley 2005,Mehler 2003,Edmund 1970〕。

トカゲの歯

トカゲにはアクロドントあるいはプレウロドント歯のタイプの歯を持ち、通常、鋭い三尖歯または円錐形の歯列を持っています 。歯列弓の歯の数は、通常、幼体よりも成体の方が多くなっています 〔O’Malley 2005,Mehler 2003,Edmund 1970〕。そして、アガマ科のうちアクロドントとプレウロドントの歯の両方を備えるものもいます〔Klaphake 2015,O’Malley 2005,Mehler 2003,Edmund 1970〕。

カメの嘴

カメは歯の代わりに口に嘴を備えています。上顎骨と下顎骨を角質の鞘で覆われ〔Gaffney 1979,Pritchard et al.1999〕、この硬い嘴を備えた顎を用いて、餌を剪断したり、引き裂きや咀嚼もします〔Schwenk 2000〕。なお、カメは餌を飲み込むために舌を用います〔Moldowan et al.2016〕。カメはの祖先であるプロガノケリス(Proganochelys) 〔中生代三畳紀後期の約2億1000万年前に生息し、現在は絶滅しています〕には歯が生えていたと言われていますが、歯は次第に退化し、鳥類のように嘴に置き換えられたと考えられています〔Davit-Beal et al.2009,Lautenschlager et al.2013〕。鳥の祖先である始祖鳥(Archaeopteryx)〔中生代ジュラ紀後期の約1億5000万万年前に生息し、現在は絶滅しています)は歯が生えていましたが、嘴の獲得は、体重の軽量化、飛行に翼(前肢)が関与するため、口腔内での食物の検索の簡略化、孵化までの短縮などと考えられています。しかし、カメの歯が喪失した理由は不明です。甲羅で覆われた体は保護には有利ですが、器用に前肢を使っての採食はできないために、歯が欠如し、引き裂いて餌を食べたり、水中で吸い込むように食べることに特化した結果、嘴が出現したのかもしれません。この角質でできた嘴は、咬耗することで整形されていますが〔Wyld et al.1983,Homberger et al.1986〕、ある程度は上顎骨や下顎骨の形状に沿った形をしています〔Schwenk 2000,Gerlach 2001〕。 口が閉じている時は、下嘴は上嘴の内面に隣接して位置し、 下顎は上顎内に収まり、口がハサミのような動きで開閉します〔Schwenk 2000〕。最終的にはカメの摂食習慣に関連した種類によって形状が異なります。植物を食べるリクガメの嘴は斧のような直線状あるいはわずかに凹んだ形状をしており〔Lilywhite 2008〕、一部の種類ではかみ砕くために鋸状にギザギザになっていたり〔クーター属のカメ(Pseudemys spp.)に多いです 〕、かみ砕くために厚くなっていることもあります〔Joyce 2007〕。攻撃的で肉食性のカミツキガメやワニガメは嘴の先端が尖っています〔Moldowan et al.2016〕。カメの嘴は、欠けても時間とともに再生されるようになっていますが、根本の法で欠けると再生しないこともあります。

ヘビの歯

伝統的にヘビの歯はプレウロドントとして説明されてきましたが、各歯が浅いソケットの縁に癒合しているため、最近では変形したプレウロドントとして解釈されています〔Jacobson 2007,Edmund 1970〕。ヘビの歯の配置と数は種毎に様々で、獲物を丸呑みするため、つまりへビの歯は噛む機能ではなく、主に獲物を捕らえるための機能を備え、ほとんどの種の歯は長くて細く、獲物が逃げられないように後方に曲がっています〔O’Malley 2005,Edmund 1970〕。そして、口蓋部の骨(口蓋骨・翼状骨)にも歯が生えているため(口蓋歯)、上顎には左右合わせて合計4列の歯列があります〔O’Malley 2005,Mehler 2003,Edmund 1970〕。

多くのヘビは無牙性、つまり牙なしですが、一部の種は毒蛇として、獲物に毒を注入する特殊な円錐形の先細りの上顎歯または牙を持っています。毒液は変形した唾液腺または眼窩後部の毒腺から牙の根元に運ばれます。毒蛇は毒の送達システムに基づいて分類され、 毒牙の位置によって、上顎の前方にある前牙類(コブラ科やクサリヘビ科の大多数の種)と後方にある後牙類(ナミヘビ)という分け方、毒牙の中に管状の管牙(クサリヘビ)、表面に溝がある溝牙(コブラ)という分け方があります。クサリヘビの管牙は普段は折り畳まれており、咬む時に立ち上がる可動式になっているのも特徴です〔O’Malley 2005,Edmund 1970〕。牙は約2ヵ月位に定期的に脱落し、予備の歯に置き換わります〔O’Malley 2005〕。

ワニの歯

多くのワニ類の歯は円錐形で、2列に並んでいます 。歯は生涯を通じて生え変わりますが、最大50回生え変わるほどの多生歯性です〔Wu et al.2013〕。アリゲーター科とコロコダイル科では上顎骨と下顎骨の解剖学的構造に違いがあり、アリゲーターの上顎骨は下顎骨よりも幅が広く、オーバーバイトを形成し、閉口時に下顎の歯は外からは見えませんが、クロコダイル科は、下顎の4番目の歯が見えます〔Mehler 2003〕。

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参考文献

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この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。