フェネックってどんな動物(知らないといけない生態と特徴)

キツネの仲間

ネコ目(食肉目)イヌ科にする属するキツネの仲間で、イヌ科最小種の動物です。大きな耳とふさふさの毛と尾が特徴で、とても愛くるしい顔をしています。

フェネックという名前は「キツネ」を意味するベルベル語-アラビア語 のfanakに名前(fanak)に由来しています。

人気アニメキャラクターである「けものフレンズ」にもアニマルガールフレンズ (動物が擬人化して女の子になったキャラクター) にフェネックとして登場し、以前よりも知名度が上がりました。

アルジェリアの国の動物はフェネックになっているため、サッカーのアルジェリア代表の愛称はLes Fennecs (フランス語のデザートフォックス: フェネックの意味) です。

フェネックは分布域が非常に広く、生息数も安定していると考えられていましたが、一方で道路建設や油田開発、ペット用や毛皮用などの乱獲による影響で、1976年にチュニジアの個体群がワシントン条約附属書IIIに掲載され、1985年に種として附属書IIに掲載されました。

フェネックは日本に輸入する際に動物検疫のために6ヵ月の係留することが義務付けられています。動物検疫とは、狂犬病等の感染症の侵入を防止するための検疫制度になります。

分類・生態

分類

ネコ目 (食肉目) イヌ科キツネ属

学名Fennecus zerda
英名Fennec, Desert fox
別名フェネックギツネ
亜種フェネックは個体によって毛色が顔つきが異なるものもあり、3亜種に分類されているともいわれていますが、明確には定まっていません。

分布

北アフリカからアラビア半島 (アルジェリア、エジプト、スーダン、チャド、チュニジア、ニジェール、マリ共和国、モーリタニア、モロッコ、リビア)

身体

頭胴長オス:39~39.5cm、メス:34.5~39.5cm 〔Asa et al.2004〕
尾長23~25cm 〔Asa et al. 2004〕
体重1~1.9kg (オスは1.3kg以上) 〔Asa et al. 2004〕

毛色

体色は保護色になっており、背側は赤色を帯びたクリーム色、腹側は白色を帯びており、砂漠の砂と同化しています。尻尾の背側基部に黒い斑点があり、先端は黒色をしています。目の内側から口唇にかけて、赤褐色の筋模様が入ります。鼻は黒色をしています。耳介の背側に縦方向の赤色を帯びた縞模様があり、白く縁取られています 〔Asa et al. 2004〕。

ほとんど全身が白色に近いものもいます。

寿命

12~14年 (野生のフェネックの寿命は最大でも10年程)

生態

環境

基本的に気温が高く、強い日射と強風のある砂漠に生息し、多少の植物が生えている土壌もある場所です 〔Louw et al.1982〕。

行動

他のキツネはほとんどが1頭で生活していますが、フェネックは社交的で10頭以下の家族単位の群れを作っています。多くは雌雄のペア (一夫一婦) とその子たちから構成されています。時に新しく子が生まれた時に前年の幼体たちも残っていることがあり、一時的に大所帯になります 〔Gauthier-Pilters 1967〕。固められた土壌に数 mに達する巣穴を掘り、昼間の暑さや夜間の寒さをしのいでいます 〔Lariviere 2002〕。巣穴の入り口は複数あり、また他の家族の巣穴に隣接して巣穴を作ることもあり、一部相互に連絡する通路もあるそうです。日中の砂漠の暑さを回避するために夜行性で、夕方になると巣穴から出てきて活動を始めます。巣穴は34℃を超えることはなく、夜の気温も25〜30℃の範囲です 〔Kirmiz 1962〕。気温が下がった夜では、1日の大半を巣穴の中で過ごしていることもあります 〔Malloiy et al.1982〕。詳しい行動範囲は知られていませが、巣穴は120 m2の面積まで広がります 〔Asa et al.2004〕。

夜行性の動物の詳細な解説はコチラ!

食性

フェネックは主に小型哺乳類 (げっ類やウサギ)、鳥類や卵、爬虫類、昆虫 (バッタやイナゴ)、植物の葉、根、果実などを食べる雑食です 〔Allen et al. 1996 Dempsey et al.2009〕。獲物の狩猟は主に音によって行われ、 大きな耳で聴力を高め、穴を掘る昆虫や小さな哺乳類を検出することを可能にします 〔Gauthier-Pilters 1967〕 砂に隠された獲物は、掘って捕獲します。餌を一時的に、穴を掘って保管することもあり、砂を餌の上にかけて隠します 〔Gauthier-Pilters 1967〕

水があれば自ら飲みますが、乾燥した砂漠で生活するのに体が適しており、普段は生活に必要な水分のほとんどを植物から取ります。したがって、葉や根、果実などの植物質は、水分の少ない生息地での大切な食物となっています。

習性

俊敏性

フェネックは他の動物よりも俊敏で優れた運動神経を持っています。特にジャンプ力が高く、垂直方向には最大で60~70 cm、水平方向には最大で約120 cmも跳躍をすることができます〔増井 1991〕。

穴掘り

フェネックは地面に巣穴を掘る習性があります。時には数 mの深さまで掘り進むこともあります。

マーキング

特にオスは縄張りの中でオシッコや尾のスミレ腺によるマーキングをします 〔Gauthier-Pilters 1967〕。

性格

フェネックの性格は神経質で警戒心が強いです。犬や猫のように飼いやすく品種改良が進んでいないため、人に馴れにくい性格をしています。そのため、フェネックを人に懐かせるには時間をかけて警戒心を解き、少しずつ信頼関係を築く必要があります。人の手で育てられたフェネックでも性格にムラがあり、人馴れして好奇心旺盛な性格から臆病な性格の場合もあります。幼体期に人と沢山触れ合っていると比較的人馴れした性格になります。

表情

社交的な性格のフェネックは意思疎通のために特徴的な仕草や振る舞い、そして様々な鳴き声を出します 〔Lariviere 2002〕。基本的に甲高い鳴き声ですが、様々な鳴き声を使い分けて自分の気持ちを伝えようとしてきます。

寂しい

夜中や留守番で一人ぼっちになって寂しい時に「オロロロロ」「クカカカカ」と小さな声で鳴きます。フェネックを家に迎えて間もなく環境に馴れない時にも鳴き続けることがあります。

甘えたい

体を優しく触ってあげている時など「キューン」「クーン」と小さな声で鳴きます。鼻にかかったやや低い声で、「ク、ク、ク」、「クンクン」と短く鳴くこともあります。一緒に遊んでいる時などに、「クーン」、「ニャ」という甘え声も出します。寝返りをうって行動で示すこともあります。

喜んでいる

尻尾を振って、転がり回る仕草をし、「キャ」「ニャ」と短く小さい声や「キャン」「ギャン」と甲高い声で鳴くこともあります。

嫌がっている

体を無理に触わられたり、抱っこしようとすると、「ニャー」と小さく鳴いて抵抗しますが、それでも止めない時は甲高く大きな声で「ギャー」と鳴いて激しく抵抗します。

怒っていている

知らない人が近づいて来たり、不安を感じる物が近くにあったりすると、険しい目をして「ワンワン」と犬のような鳴き声を出して警戒します。さらに怒ると、「ギャー」「キャンキャン」と悲鳴ような大きな声を上げることもあります。

特徴

特徴的な体の構造は、砂漠で適応するために進化した、被毛、耳、足裏、腎臓機能です。フェネックは暑さに弱く、体温が37℃を超えると喘ぎが起こり、熱中症が起こります。〔Maloiy et al.1982〕

ふわふわの毛

ふかふかの被毛は柔らかくて厚い毛皮になっており、寒暖差の激しい砂漠に適しています。昼は太陽光から、夜は寒さから身を守るります。一般的には夏毛と冬毛の換毛が起こります。

足裏の毛

足裏は長くて柔らかい毛皮で覆われ、熱い砂から保護し、歩行を容易にするためです 〔Bekoff 1975〕。

大きな耳

フェネックは長い耳が特徴で、オスは10cm、メスは9~9.5cmの長さをしています 〔Asa et al.2004〕。熱を放散するのに役立ち、また集音効果もあります。フェネックは聴力に優れているので、いち早く天敵の迫ってくることを察知でき 〔Dempsey et al.2009〕、獲物が地下に移動するのを聞けるほど敏感です。

腎機能

腎臓の機能は、高温と少量の水で生きていけるよう砂漠の環境に適しています。体内の水分の損失を防ぐために、汗やパンティング (舌を出してハアーハアーする動作) は最小限で、尿も濃縮されて排泄されます 〔Banholzer  1976〕。少ない水分でも効率よく生きていけるようになっているのです 〔Noll-Banholzer, 1979〕。心拍数も他の哺乳対と比べて少なく、98-105回/分と報告されています。少ない心拍数は、低い安静時代謝率を維持する砂漠生息息動物の循環における特徴かもしれません 〔Dawson 1973〕。

歯式は (3142/3143本) の計42本あります 〔Asa et al.2004〕。

臭腺

尾の基部の背面に黒斑があり、この部分の皮膚にはキツネ特有の強いにおいを出すスミレ腺がありますスミレの花のような独特の匂いがしますが、不快な匂いではありません。

消化器

消化器の解剖はイヌと類似しており、胃は単純で、小腸と大腸の全長は短く、盲腸は痕跡的て小さいです 〔Stevens et al.1995〕。

繁殖

フェネックの繁殖情報は少ないです。現在文献等で記載されている事項だけをピックアップしました。

性成熟

性成熟は生後6~9ヵ月 〔Lindblad-Toh et al.2005〕、9~11ヵ月 〔Lariviere 2002〕 という報告があります。

繁殖期

繁殖期は冬の1~2月で、年に1回交尾し、3~4月に出産します 〔Lindblad-Toh et al.2005〕。発情期は非常に気性が荒くなります。

発情

メスの発情期は約6日間で適期は1〜2日の単発情周期で、外陰部の腫れを特徴とします 〔Valdespino et al.2002〕。

交尾

メス尾を水平に曲げて、オスはメスをマウントして、うなじを押さえ込んで交尾をします。交尾時にペニスが膨張して射精するまで抜けないようになり、交尾時間は1時間に達し、最長2時間45分続くことがあります 〔Valdespino 2000〕。交配後、オスは攻撃的になり、メスを保護し、妊娠中および授乳中はメスにエサを与えます。

妊娠

妊娠期間は50~53日で、2~6頭の子供を産みます 〔Lindblad-Toh et al.2005〕。

子育て

新生子は耳と目が閉じた赤子として生まれます。新生子の体重は20~40gで、8~11日で目や耳は開きます。

オスは交尾後は非常に攻撃的になり、メスに食べ物を運んでくるなど、子育ては家族によって共同で行われます。離乳は約3ヵ月で 〔Lindblad-Toh et al. 2005〕、子は、生後9〜11ヵ月で成体のサイズと性的成熟に達します 〔Lariviere 2002〕。

参考文献

  • Asa CS,Valdespino C,Cuzin F.Fennec fox (Vulpes zerda) (Zimmermann, 1780). In Canids:Foxes,Wolves,Jackals and Dogs:Status Survey and Conservation Action Plan.Sillero-Zubiri C,Hoffman M,Mech D.eds.World Conservation Union.Gland,Switzerland:205–209.2004
  • Allen ME,Oftedal OT,Baer DJ.The feeding and nutrition of carnivores.In Wild Mammals in Captivity:Principles and Techniques.Kleiman DG,Allen ME,Thompson KV,Lumpkin S,Harris H eds.University of Chicago Press.Chicago.IL.USA:139-147.1996
  • Banholzer U.Water balance,metabolism,and heart rate in the fennec.Naturwissenschaften63(4):202-203.1976
  • Bekoff M.Social behaviour and ecology of the African Canidae:a review. In The Wild Canids:Their Systematics,Behavioral Ecology and Evolution.Fox MW ed.Van Nostrand Reinhold.New York:120-142.1975
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  • Gauthier-Pilters H.The fennec.Afr Wildl21:117-125.1967
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  • Lindblad-Toh K,Wade CM et al.Genome sequence,comparative analysis and haplotype structure of the domestic dog. Nature. 2005; 438 (7069):803–819.2005
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  • Stevens CE,Hume ID.The mammalian gastrointestinal tract.In Comparative Physiology of the Vertebrate Digestive System.Cambridge University Press.New York:57-60.1988
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  • Valdespino C,Asa CS,Bauman JE.Estrous cycles,copulation,and pregnancy in the fennec fox (Vulpes zerda). J Mammal 83(1):99-109.2002
  • 増井 光子.イヌ科の分類.世界の動物 分類と飼育2.食肉目.今泉吉典監修. 東京動物園協会:124-149.1991

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。