爬虫類の冬眠とクーリング

冬眠は必要か

冬眠は冬などの寒い時期に餌が少なくて過酷な環境をなんとか乗り越えるためにする手段で、生き延びるために代謝を低下させて体のエネルギーの消費を抑えています。具体的には消化・運動・呼吸などの機能を抑制して、暖かくなる春に冬眠から覚醒して活動を再開します。冬眠中の体重減少は通常は10%以下 〔Derickson 1976〕 で、ほとんど餌をとらないにも関わらず、消耗が最小限に抑えられています。また毎年冬眠させている爬虫類は長生きするとも言われています。冬眠期間はエネルギーの消費を抑えるため、体の各細胞はエネルギー消費に伴う酸化がされず、老化への進行を抑えることがその理由とされています。

メリットとデメリット

冬眠のメリット・デメリットは以下の通りです。メリットは、冬眠期間は毎日エサを与えたり、掃除や水換えをしなくてもよいので、手間が省けて管理が楽になります。デメリットは、無事に冬眠から覚醒せずに、最悪の場合は死んでしまうことがあることです。飼育下で冬眠させるのは実際には簡単でなく、健康に飼育するためには冬眠が必ずしも必要というわけではありませんので、年中暖かな環境 (至適環境温度域での飼育) で、動物にとって安全で快適な生活をさせるか、リスクを承知で冬眠をさせるかの選択になります。冬眠を成功させるには、動物の条件と飼い主の知識が必要になります。

適応

全ての爬虫類が冬眠すると思われがちですが、冬眠できる種類とできない種類がいます。冬眠できるのは四季がある地域に生息している種類で、冬眠できないのは四季がない地域に生息している種類になります。

種類冬眠する種類冬眠しない種類
爬虫類カメ目水生二ホンイシガメミナミイシガメ (ヤエヤマイシガメ)
クサガメ 
アカミミガメ 
陸生トルコギリシャリクガメコーカサスギリシャリクガメ、アナムールギリシャリクガメ、アラブギリシャリクガメ
ムーアギリシャリクガメ: スペイン南部の山地にいる個体は冬眠する/アルジェリア北部~モロッコ北東部の個体は冬眠しない
ヨツユビリクガメ: 生息域の北部や高地にいる個体は冬眠する / 南部にいる個体は冬眠しない
ヒガシヘルマンリクガメニシヘルマンリクガメ/温暖な地域にいる個体は冬眠しない
インドホシガメ
ビルマホシガメ
ケヅメリクガメ
有鱗目トカゲ ヒョウモントカゲモドキ
フトアゴヒゲトカゲ
 グリーンイグアナ
カメレオン カメレオン
ヘビアオダイショウ
コーンスネーク:南部生息体は冬眠しない
カリフォルニアキングスネーク
ミルクスネーク
両生類イモリ・サンショウウオアカハライモリシリケンイモリ
ハナダイモリ
ファイアサラマンダー (地域個体による)
タイガーサラマンダー (地域個体による)
オビタイガーサラマンダー (地域個体による)
カエルニホンアマガエルアカメアマガエル
シュレーゲルアオガエルイエアメガエル
ツノガエル
表:冬眠の有無

飼育下で冬眠させる場合は、夏に十分な栄養を与えることが重要です。栄養状態の悪かったり、身体が小さい、または病気であると冬眠のリスクが高いので見合わせます。なお、幼体は体力がないため、冬眠を推奨できない。もちろん、冬眠させるには飼い主も知識も必要なので、爬虫類を飼い始めた人や冬眠の知識がない人は、冬眠をさせない方が賢明です。また、カメは氷点下にさらされると、中枢神経障害と眼疾患に罹患しやすいとも言われ、ギリシャリクガメとヘルマンリクガメでの報告があります。眼瞼炎結膜炎、眼瞼下垂、ぶどう膜炎白内障、硝子体損傷、網膜症、一過性あるいは永続的な失明を伴う中枢神経損傷が含まれます 〔Reavill et al.2012〕。

冬眠の方法

冬眠させるには、冬眠前に行うこと、冬眠方法と温度と湿度管理、冬眠明けに行うことの3つの知識が必要になります。日本では冬眠は外気温が15°C前後になる11月を目安に行います。

(冬眠前に行うこと)

餌を与えるのをやめる

冬眠前には消化管内を空にしておく必要があります。特に腸内に餌が遺残していると、腐敗して腸炎を起こす可能性があります。少なくとも冬眠に入る数日~2週間前から徐々に低温に慣らしながら、自然に採食量を減らしていき、腸内の糞を全て排泄させ、最後は与えないようにします。水も十分に飲ませて、尿もしっかり排泄させます(温浴が効果的です)。消化管と同様に膀胱内も空にしないといけません。

徐々に温度を下げる

エサを与えるのをやめたら、徐々に温度を下げていきます。ケージの赤外線ライトを消して、体温を上げるホットスポッを無くして下さい。ケージの中の温度が5~6°Cは下がると思います。赤外線ライトを消してから環境に生体を慣らすために5日間くらい様子を観察し、水ガメであれば水中ヒーター、その他の種類ではパネルヒーターも撤去して、さらにまた5日間くらい温度を徐々に下げながら観察して下さい。生体はかなり動作も鈍くなり、動かなくなってきているはずです。いつものように動いているようであれば、ケージを置く場所を廊下や玄関など少し寒い場所に移動してみましょう。窓際は室温が暖かくなるので避けて下さい。

冬眠場所へ移す

10°C以下の場所にケージや水槽を置いて数日するとさらに動作が鈍くなり、冬眠に入るはずです。予め考えていた陸場あるいは水場の冬眠場所に移してましょう。

(冬眠方法と温度と湿度管理)

冬眠環境

冬眠は土と水で冬眠させる2つの方法があります。冬眠中は温度を確認し、5~10°Cを保って下さい。外気温が上がってくると、冬眠から覚醒して、食欲がないのにも関わらず、代謝が高くなりエネルギーを消費して体力を消耗します。逆に0°Cになると低温すぎて死亡するリスクが高まります。冬眠しているケージや水槽を、温度変化を受けない場所に置くことがポイントになります。

陸場での冬眠

水ガメ以外の多くの爬虫類は土の中で冬眠させます。プラケースや水槽などに少し湿らせた水ゴケやヤシガラ土などを大量に入れて下さい。

カメ冬眠

生体の大きさにもよるので一概に言えませんが、容器に土を30~40 cmほど入れます。その上に生体をのせて、自から土の中に潜るまで待ちます。

カメ冬眠

無事に土の中に潜ったら、温度が下がって土の表層が凍らないように、その上に軽く落ち葉などを乗せたります。そして、冬眠中は土が乾燥しないように、こまめに霧吹きなどを使って土を湿らせてください。

カメ冬眠

水場での冬眠

水ガメは水中でも呼吸が可能なため、冬眠もできます。水を張った水槽の中にカメを入れて下さい。水面とカメの距離は20~30cmくらい保つような水深にします。水深を深くする理由は、水中の温度変化も少なくする、そして水面と一緒にカメが凍結しないようにするためです。カメは水中で土に潜るようにして冬眠します。水底に水コケや落ち葉、必要に応じてシェルターを入れてあげます。冬眠中のカメは肺呼吸ではなく、喉や副膀胱の粘膜から水中の酸素を取り込みますので、窒息の心配は不要です。そして、明るいとカメが上手く冬眠することが出来ないので、暗い部屋に水槽を置きます。カメが凍結しまわないように、水槽の温度が0°C以下にならないか確認し、乾燥で水が減ったら水を足して管理します。

水ガメの水中での呼吸の詳細な解説はコチラ!

(冬眠明けに行うこと)

一般的に冬眠したら、3~4月には覚醒するはずです。気温が上がってくると次第に生体は活動的になりますが、いきなりホットスポットを設けたり、ヒーターをつけるのではなく、冬眠に入る前に行っていたことと反対のことを少しずつ行います。ケージや水槽を少し暖かい部屋に移動し、その後にヒーターなどをつけてみて下さい。それぞれ3~5日くらい様子を観察しながらホットスポットを作ります。冬眠明けは、しばらくは餌を食べませんが、少しずつ食べる採食量が増えてくるはずです。まずは水を与えてみましょう。

冬眠させずに20~25°Cで飼育をする越冬方法

冬眠させる準備も面倒と思っている飼い主も多いと思います。赤外線ライトやヒーターは、そのままつけておいても部屋の室温が下がっているため、生体の代謝ならびに活動も低下します。水槽やケージ内の温度が20°C以下になると、冬眠するわけでもなく、体力が消耗してしまうだけになります。至適環境温度域以下であっても、20~25°Cで飼育できれば、夏と比べて採食量は減り、活動は最小限になるだけなので掃除や水換えの回数も減り、管理も楽になります。2~3月の春に近づいてきたら、外気温も上がり徐々に活動的になり、餌を食べる量も増えてきます。しかし、20~25°Cという微妙な温度設定にするのが難しく、種類や個体によって、その温度も微妙に異なるため、積極的にはお薦めできません。

各動物の冬眠

陸ガメ

陸ガメの冬眠は陸場で行います。人工的に冬眠箱を作ることもできます。

 断熱材を使用して外部の温度変化を受けないようにし、サーモスタットなどを使用して温度管理に努めます。

水ガメ

冬眠は水中と陸場で冬眠させる方法があります。やりやすい方で冬眠させるとよいでしょう。

トカゲ・ヘビ

トカゲはカメと同じ冬眠温度でよいですが、 ヘビの冬眠は10~18℃が適しており、ケージは温度が一定な物置や廊下などの暗い場所に置くとよいです。

ニホンアマガエル・シュレーゲルアオガエル

水槽に湿らせた水ゴケを入れる と、自ら適当な場所に潜って冬眠します。

アカハライモリ

陸場に湿らした水ゴケをいれる と、自ら適当な場所に潜って冬眠します。

クーリング (Cooling 冬化処理)

繁殖を行うためには、冬眠をさせることで翌春に発情が起こりやすいという考えもあります。本来よりも短い時間で人工的に冬眠させることが繁殖家の間では行わており、これをクーリング (Cooling: 冬化処理) と呼ばれています。

冬眠中は活動や代謝が低下して越冬しますが、冬眠明けに生殖腺が刺激されて、繁殖を促す作用があります。特に季節繁殖動物は繁殖期があり、自然下では冬に温度が下がった後に始まることが多いです。そのために飼育下でも、冬に疑似させることが繁殖を誘発させます。本来冬眠をする動物を冬眠をさせないことで、ホルモンのバランスが崩れて、繁殖障害や寿命に影響を与えるという考えがあります。一部の繁殖を目的とする飼育者は、冬眠ほどの長い期間でなく、冬に短期間のみの低温飼育をさせるだけでもよいといわれています。クーリングは繁殖をさせるのに、絶対に必要な行為というわけではありません。一時的とはいえ、低温状態で飼育することは体調を崩す可能性があります。クーリングの方法や温度は色々な方法が書物に書かれていますが、正確な方法はありません。人為的に行う処置なのでそれぞれの成功例が書かれているのです。

参考文献

  • Derickson WK.Lipid storage and utilization in reptiles.Amer Zool16:711‐723.1976
  • Reavill D et al.Pathology of the reptile eye and ocular adnexa.Proceedings Association of Reptilian and Amphibian Veterinarians:p87-97.2012

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。