鳥の尾脂腺(油塗り)

目次 [非表示]

尾の油の分泌腺

尾脂腺は尾羽の付け根にある分泌腺で、尾部の背側中央に存在します。名前の通りに脂を分泌する腺で、英語ではプリーン腺(Preen gland)またはオイル腺(Oil gland)とも呼ばれている。形と大きさは鳥の種類で大きく変化しており、鳥のほとんどの種類に存在しています。最大の腺をもつ種類は、ハクチョウや カモ類などの水鳥で、オウム目の尾脂腺 は未発達な傾向ですが、セキセイインコはまだ発達している方です〔Cameron 2007〕。しかし理由は不明ですが、ダチョウ、エミュー、レア、ヒクイドリ、キウイ、ノガン、ガマグチヨタカ、多くのハト、多くのキツツキ、スミレコンゴウインコ、コスミレコンゴウインコ、アオコンゴウインコ、ボウシインコなどのオウムは尾腺がありません〔Salibian et al.2009.Montalti et al.2000,Moyer et al.2009〕。これらの鳥は通常、羽の維持のために粉を生成したり、砂浴びをするなど、羽毛を清潔で乾燥した状態を保つために、脂の代わりの他の手段をとります。季節変化、生息地、体重、性別などでも尾脂腺の大きさが変化する報告がありますが、一貫していません。なお多くの種類ではオスとメスの相対的な腺の大きさに有意差が見られます〔Salibian et al.2009〕。

腺構造

腺の構造は二葉の皮脂腺で、基本的に2つの開口部があり、乳頭状に突出し、羽毛がついています〔Salibian et al.2009〕。鳥が分泌腺の羽毛を口にすると、分泌される仕組みになっています〔Evans 1982〕。尾脂腺の分泌物は、羽毛の維持、防水以外にも、ビタミンD前駆体など、いくつかの役割りをします。


http://www.scielo.br/img/revistas/bjb/v69n2/29f1.gif

セキセイインコの尾脂腺
カナリアの尾脂腺

羽毛の維持

脂の分泌物は羽を綺麗に保ち、羽毛の柔軟性を維持して小羽枝が折れるのを防ぎます〔Vincze et al.2013〕。羽毛だけでなく、角質の嘴や脚鱗の維持にも役立っていると考えられています。

防水

尾脂腺が水鳥で発達しているのは、脂の分泌物によって、羽毛の撥水性を高めています〔Vincze et al.2013,Montalti et al.2000〕。

ビタミンD

一部の種類では、尾脂腺にビタミンDの前駆体が含まれていると推測されています。日光の紫外線部分にさらされると、分泌物は活性型のビタミンD3に変換されます〔Coore et al.1994〕。

求愛

尾脂腺の分泌物は求愛ならびに個体識別に関与しているとも言われていますが、詳細は不明です。分泌物の粘度の変化が、求愛時に必要な鮮やかな羽毛に関連しています。

殺菌

ヤツガシラの尾脂腺には共生細菌が生息しており、その排泄物は羽毛を分解する細菌の活動を低下させ、羽毛の保護に役立っています〔Martin-Vivaldi et al.2009〕。

駆虫

カワラバトの尾脂腺の分泌物がシラミに対して効果的であることが示唆されていますが、飼鳥で研究された結果では、駆虫効果はなかったそうです〔Moyer et al.2009〕。

ディスプレイ

オオフラミンゴの尾腺の分泌物には、フラミンゴのピンク色の源であるカロテノイドが含まれています。繁殖期のフラミンゴの羽根の色を濃くして、求愛に有利になります〔Amat et al.2011〕。

尾脂腺の疾患

腺の大きさと形状は種によって異なりますので、腫大した場合、病気との鑑別に悩むことがあります。ヨウムの尾脂腺はハート状に隆起し、異常と間違いやすいです。

ビタミンA欠乏による過貯留

ビタミンA欠乏症により腺の化生と角質増殖を引き起こすことがあります〔Bauck et al.1997〕。腺の開口部が腫大し、分泌物の過剰の貯留や角質増殖性のプラグが形成します。対応は、餌のビタミンAを補充したり(ペレットや緑黄野菜)、湿った綿棒などで腺を優しくマッサージで排泄させます。

腫瘍

尾脂腺の腫瘍は、セキセイインコに好発します。腺腫、腺癌、扁平上皮癌、乳頭腫などが報告されています〔Cooper 1994,Bauck et al.1997〕。腫瘍は様々な外観を示し、片側性または両側性であり、表面的に潰瘍化することもあります。基本的に外科的に手術をするしかありません。

鳥の腫瘍の詳細な季節はコチラ!

炎症

単なる炎症は少なく、ビタミンA欠乏症や腫瘍における二次感染、、または外傷に続発します。

参考文献

  • Amat JA,Rendón MA,Garrido-Fernández J,Garrido A,Rendón-Martos M,Pérez-Gálvez, A.Greater flamingos Phoenicopterus roseus use uropygial secretions as make-up.Behavioral Ecology and Sociobiology65(4):665–673.2011
  • Bauck L,Orosz S,Dorrestein GM.Avian dermatology.In Avian medicine and surgery.Altman RB,Clubb SL,Dorrestein GM,Quesenberry K eds.WB Saunders CO. Philadelphia:540-541.728-729.1997
  • Cooper JE,Harrison GJ.Dermatology.In Avian Medicine: principles and application.Ritchie BW, Harrison GJ,Harrison LR eds.Wingers Publishing Inc.Lake Worth.FL:613-614.1994
  • Cameron M.Cockatoos.CSIRO Publishing. Australia.2007
  • Evans HE,Anatomy of the budgerigar.In Diseases of cage and aviary birds.2nd.Petrak ML ed.Lea and Febiger.Philadelphia.127:613.1982
  • Kanakri K,Muhlhausler B,Carragher J,Gibson R,Barekatain R,Dekoning C,Drake K,Hughes R.Relationship between the fatty acid composition of uropygial gland secretion and blood of meat chickens receiving different dietary fats.Animal Production Science58(5):828.2016
  • Martin-Vivaldi M et al.Antimicrobial chemicals in hoopoe preen secretions are produced by symbiotic bacteria.Proc.R.Soc.B277(1678):123–30.2009
  • Montalti Diego,Salibian Alfredo.Uropygial gland size and avian habitat.Ornitologia Neotropical11(4):297–306.2000
  • Moyer BR et al.Experimental test of the importance of preen oil in Rock doves(Columba livia).Auk120 (2):490–496.2003
  • Salibian A,Montalti D.Physiological and biochemical aspects of the avian uropygial gland.Brazilian Journal of Biology69(2):437-46.2009
  • Vincze et al.Sources of variation in uropygial gland size in European birds.Biological Journal of the Linnean Society110(3).543-563.2013

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。