鳥の人工孵化

人工孵化器

人工孵化では、多数の卵を同時に孵化させることができます。人工孵化器は自家製でも市販品でもかまいませんが、通常は熱源、空気循環器(ファン)、温度調節器( サーモスタット)、容器、卵トレイがセットになっています。市販されている孵化器は、有精卵に最適な環境条件(温度、転卵、湿度)を提供して自然の孵化を再現できるように設計されています〔French 1997〕。

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 温度

母鳥は数個産卵してから、一斉に孵卵するため、産まれたその日に孵化させるべきではないとも言われています〔ISA 2016〕。一方で産卵直後から孵卵開始も行われており、一般的には36~38C、熱帯産の鳥では39.4°〔Musa et al.2007〕が孵卵温度として推奨されています〔Musa et al.2007,Ferguson 1994〕。受精卵は適切な温度と相対湿度でのみ発生し、特に温度が孵化効率において最も重要な要素であることが示され、低温や高温は適せず、胚の成長が止まった卵を中止卵と呼ばれています〔Hill 2001,Lourens et al.2007,Wilson 1991〕。40.5℃を超えると胚の奇形または死亡が発生する可能性があり〔Conway et al.2000,Webb 1987〕、低温では胚の成長が停止または減速し、最終的には死滅します〔Boerjan 2016〕。胚が成長して雛に発育して、その段階で死亡した卵を死籠(しごもり)卵と言います。

表:主な鳥の孵化温度と孵化日数〔Sartell 2018〕

転卵

転卵とは、鳥が孵化して温めている卵を転がすことで、 1日に数回転がします。卵黄にある胚が卵殻に接したすることで中止卵になる可能性が高くなります。自然界では親鳥が1日数回立ち上がり、嘴や翼、尻で卵を回転させます。 卵は親鳥と接する面と巣と接している面で温度差が生じますが、転卵することでまんべんなく卵全体を温めることもできます。そして胚の水分吸収が均等にいきわたる効果もあります。人工孵化の場合は一定の温度と湿度を管理しながら、人の手で定期的に転卵を行なわなければなりませんが、機械による人工孵化器では設定をすれば自動で転卵を行います。 親鳥は1時間に1度程度の頻度で転卵をしていますが、人工孵化の場合は鶏においても最低1日4回の転卵が必要です。転卵角度は上下に180度回転させるのがよいとされていますが、機械の人工孵化器では2時間に1回左右に45度づつ卵が傾くようになっている製品が多く、角度などは神経質にならず、とりあえず動かしとけば問題ないとも言われています。手動で転卵するときは卵の上面に記しをつけておくとわかりやすいです。転卵回数が少ないと中止卵になるとは限らず、殻への癒着は孵化率が低下したり、病弱の雛が生まれることが多いです。そして、人工孵卵をする場合、孵化予定日の2~3日前に転卵を止めてください。転卵すると肺など圧迫されて、雛が死亡することがあるので、孵化器の転卵機能を解除する設定をして下さい。

検卵

鶏卵などを人工孵化させる際に、孵卵器に入れた卵の中の無精卵や中止卵を取り除くために卵を検査します。検卵は、検卵器を用いて光線による透視で行い、発育中の胚の様子を観察します。検卵器が無い場合は、 真っ暗な暗室で、光量の強いペンライトや懐中電灯を使い、卵の気室側からライトを当て、中を確認します。筒状になる光を通すものを用意し、上に卵を置いて調べると行いやすいです。無精卵は卵黄が透明で陰影を欠き、有精卵は中央に胚の存在を示す小黒点があり,その周囲に赤い血管網も認められます。なお、孵卵器から出して卵を触る時間が長かったり、頻度も多いほど、卵が冷えてしまい、成長が止まってしまう可能性も高くなります。なお、ウズラなど卵に模様があったり、卵殻の厚い卵は、確認しづらいかもしれません。

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孵化率

もちろん、卵の保管条件以外にも、鳥の系統、殻の質、季節、転回頻度が有精卵の孵化率に影響を与えます〔Benneth 1992,Jayarajan 1992,Obioha et al.1986〕。 一般的に鳥類では、自然孵化で産まれた卵の孵化率は約80%が正常ですので、人工孵化では60~70%の範囲であれば満足できると考えられています。

参考文献

  • Benneth CD.The influence of shell thickness on hatchability in commercial broiler breeder flocks.Journal of Applied Poultry Research:61-65.1992
  • Boerjan M.A Practical interpretation of ‘physiological zero’ in hatchery management:p41.2016
  • Conway JC,Thomas EM.Effects of ambient temperature on avian incubation behaviour. Behavioural Ecology:178-188.2000
  • Ferguson MWJ.Temperature dependent sex determination in reptiles and manipulation of poultry sex by incubnce.Glasgow.UK:p380-382.1994
  • French NA.Modelling incubation temperature:The effect of incubation design on embryonic development and egg size.Poultry Science:124-133.1997
  • Hill D.Chick length uniformity profiles as a field measurement of chick quality.Avian and Poultry Biology Reviews:188.2001
  • ISA.ISA Brown Commercial Stock.A Hendrix Genetics Co.2016
  • Jayarajan S.Seasonal variation in fertility and hatchability of chicken eggs.Indian Journal of Poultry Science:36-39.1992
  • Lourens A,van den Brand H,Hectkamp MJW,Meijerhof R,Kemp B.Effects of eggshell temperature and oxygen concentration on embryo growth and metabolism during incubation.Poultry Science:2194-2199.2007
  • Musa U,Haruna ES,Lombin LH.Quail Production in the Tropics.Vom:NVRI Press:p158.2007
  • Obioha FC,Okorie AU,Akpa MO.The effect of egg treatment,storage and duration on hatchability of broiler eggs.Archiv Fur Geflugelkunde:213-218.1986
  • Sartell J.Incubation station: A reference guide to incubation terms,temperatures, times and humidity levels.Community Chickens Newsletter.Available from: https://www.communitychickens.com/category/coops/;https://www.beautyofbirds.com/eggincubationtemperature.html
  • Webb DR.Thermal tolerance of avian embryos:A review.The Condor (The Cooper Ornithological Society):874-898.1987
  • Wilson RH.Effect of egg size on hatchability,chick size and post-hatching growth.In Avian Incubation.Hocking PM ed.CAB International.Wallingford,Oxfordshire.UK:p279-283.1991

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。