【解剖】げっ歯類のヒゲ(切ってはいけない)

ヒゲって重要

マウスやラットなどのげっ歯類はヒゲを使った触覚情報を多く活用して生活しています。実際にヒゲを使って物体識別や隙間などの間隔識別を行います〔Staiger et al.2004〕。チンチラもげっ歯類の仲間であり、特にヒゲも長く発達しています。

バレルって樽のこと

げっ歯類の大脳には,ヒゲから入力された感覚情報を処理するバレル皮質と呼ばれる領域があります。ヒゲからの感覚は、脳幹と視床を中継して大脳皮質に投射され、その入力を処理する細胞群が筒状になっていることから(ヒゲからの入力を担う軸索が終止し、その周りに主に有棘星状細胞が取り囲むように集まり、視床軸索とできるだけ多くシナプス結合できるように、樹状突起を伸ばしています)、バレル(樽構造:Barrel)と呼ばれる単位構造(モジュール構造)として呼ばれています〔Chu et al.2013〕。1個のバレルは基本的には1本のヒゲからの入力を受け、個々のバレルはヒゲのならびに対応した配列と同じパターンで位置しています。脳皮質への入力も末梢であるヒゲの位置関係をそのまま投射してような位置を保持した状態で大脳皮質に入力されているのです。バレルが分布している領域をバレル皮質 (barrel cortex)と呼ばれます〔Sehara et al.2010〕。

ヒゲは抜かない

このバレル構造は生後まもない時期にヒゲの除去を行うなど,ヒゲからの入力を阻害し十分な神経入力を受けることができない状況下にすると、バレル形成が起こらなくなります〔Iwasato et al.2000,Rhoades et al.1997〕。バレル構造を持つことによって触覚機能の精度を高めているものと考えられています。

カピバラにはバレルはない

バレルはラットやマウス、ハムスター、チンチラ、モルモット、リス、ヤマアラシなどで確認されていますが、カピバラには存在しません〔Fox 2008〕 。

参考文献

  • Chu YF,Yen CT,Lee LJ.Neonatal whisker clipping alters behavior,neuronal structure and neural activity in adult rats.Behavioural brain research238:124-133.2013
  • Fox K.Barrel Cortex Cambridge University Press.2008
  • Iwasato T,Datwani A,Wolf AM,Nishiyama H,Taguchi Y,Tonegawa S,Knopfel T,Erzurumlu RS,Itohara S.Nature406:726‐731.2000
  • Rhoades RW,Strang V,Bennett-Clarke CA,Killackey HP,Chiaia NLJ Comp Neurol389:185-192.1997
  • Sehara K et al.Whisker-Related Axonal Patterns and Plasticity of Layer 2/3 Neurons in the Mouse Barrel Cortex.Journal of Neuroscience30(8):3082-3092.2010
  • Staiger JF,Flagmeyer I,Schubert D,Zilles K,Kötter R,Luhmann HJ.Functional diversity of layer IV spiny neurons in rat somatosensory cortex:quantitative morphology of electrophysiologically characterized and biocytin labeled cells.Cerebral cortex14(6):690-701.2004

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。