チンチラとのコミニケーション(ボディーランゲージと鳴き声)

コミニケーションをとろう!

チンチラは内向的な性格でありながら活発な面もあり、行動は気分や態度などの意思表示として現れます〔Pavia 2003〕。安堵や遊び、好奇心、恐怖感、攻撃などの意思や意図は容易に判断できます。安堵したチンチラは人をはじめとする動物との相互作用として、積極的に接触してきます。つまり、安堵や遊び、好奇心、恐怖、攻撃などの意思・意図を表し、馴化したチンチラは、人をはじめとする動物との相互作用として、積極的に接触してきます。新しい物や環境では、好奇心旺盛な性格のために熱心に探索します。見慣れない物や外敵に遭遇すると脅威的な鳴き声をあげ、素早く逃走し、逃げ場がないとかみついたり、相手に尿を振りかけることもあります〔Vanderlip 2006〕。チンチラは行動(ボディーランゲージ)以外にも、嗅覚信号や発声によってコミュニケーションをとります。チンチラと接触する上で、発声(鳴き声)とボディーランゲージを理解して意思を理解できるようになることは、管理や治療において、とても重要です。

鳴き声

チンチラの鳴き声は多彩ですが、実際にはいくつかの基本的な音しかもたず、同じ音でありながら音量を自由自在に変えることで意思表示をしています。鳴き声を注意深く聞くと、人の発声音や感情との類似性が高いことも分かります。多くの研究者は,独特の行動やコミュニケーションの試みによって、これらの意思表示を評価してきました〔Ross 2006,Termathe 2006〕。しかし、チンチラの発声は、ブリーダー、飼い主、獣医師、愛玩動物飼養管理士などの立場で、それぞれ考えられた推論であり、多少の解釈の相違もあります。その結果、残念ながら全員一致の解釈できていません。

例として、孤立した個体は自分の存在を仲間に知らせる声を出す、防御や威嚇時は吠えるような鳴き声やうなり声を上る、相手に注意を促すために警笛のような鳴き声を上げる、攻撃前はガラガラとした深い声でうなる、満足感を得たときは優しい声を上げる、動揺すると唾を吐くような鳴き声を上げる、苦痛があると大きく高い声を悲鳴のように繰り返す、発情期にはハトの鳴き声のように甘ったるい声を出す、母子間で愛情を示す優しいさえずりのような声を上げる、はじめての相手や物に遭遇あるいは攻撃的になると歯を鳴らす,などと様々な解釈がMがあります、以下に,いくつかの代表的な鳴き声を紹介する。

接触時の鳴き声

チンチラが仲間と一体感,つまり相互作用によって穏やかな気持ちで満足感を示す鳴き声は、接触音(Contact sound)と呼ばれるます。低く穏やかで不規則な「プップップ」「キュッキュッ」「クックッ」という声のような音で,コミュニケーションをとっています。接触音は頻繁に使用され、自分の存在を他人に知らせる探索音(Exploratory sound)場所音(Positional sound)と一緒に聞かれる鳴き声で、これらは幼体時から反応できます〔Termathe2006〕。探索音は穏やかな「チャープ」「チャーピー」という鳴き声で、飼い主や同居個体に対して何か面白いことに遭遇したことを知らせる場合にも使用されます。接触音は通常,探索音よりもやや低い声です。

興奮時,恐怖や警戒時の鳴き声

興奮した際には継続的で切迫した感じの「キューキュー」というきしみ声(Squeaking:スクイーキングと呼ばれる)が聞かれます。恐怖を感じると耳障りで高強度な騒がしく吠えるような「ギャーギャー」という鳴き声を出します。攻撃前の威嚇として、後肢で立ち上がって背を高くし、Barking(バーキング)と呼ばれる鳴き叫び声を上げ、尿を相手に噴射する動作もみられます。なお,疾病による苦痛の際にも同様の音が聞かれます。群れの中では、捕食者や危害が近づくと、見張りのチンチラが状況を知らせる声を上げ、他の個体は反応して数分以内に巣内に隠れるという共同防衛が見られます。発声音は「キッキッ」「ギャッギャッ」「グーグー」など緊迫感を感じさせる大きな鳴き声を上げます。Warning call(ウォーニングコール:警報音)とも呼ばれ、生後 13 日齢の幼体もこの鳴き声に反応するために、本能的な Alarm call(アラームコール:警告音)とされています〔Termathe2006〕。

鳴き声でなく、「ギリギリ」「ゴリゴリ」という音をたてることがあり、Teeth chattering(ティースチャタリング:歯ぎしり)と呼ばれます。恐怖を感じたときに,近づかれることを拒む警告の意味ですが、満足している際にも発するために、その違いをボディランゲージから判断します。

要求時の鳴き声

おやつをねだる、ケージから出たい、遊んでほしいなどの要求や探索する際に、柔らかい響きのような小さな声で「キュッキュッ」「キューキュー」「プップッ」「プープープー」という、Decoy sound(デコイサウンド:おとり音)と呼ばれる鳴き声が聞こえる。一方で、餌をめぐって争っている時や他の個体に圧迫されていると感じた時には、不機嫌そうな声(つまり抗議の鳴き声)を上げます(Don’t hurt me call と呼ばれる)。

防衛時の鳴き声

人がチンチラを持ち上げようとしたり、保定したりする時、短く力強い声で「ケッケッ」や「ギャッギャッ」と拒否を意味する鳴き声を出します。この発生音は Kacking(カッキング:粘り気のある声)としても知られ、突然の鋭い唾を吐くような音にも聞こえるためにSpitting(スピッティング:唾吐)とも呼ばれています。この音は通常、怒っているか防御していることを意味します。

寝言

神経質なチンチラは相手がいなくても、突然の些細な音や動きに反応して,「ギャーギャーギャー」と悲鳴のような声、Screaming(スクリーミング:絶叫音)を上げます。しかし、ペットのチンチラでは睡眠中に突然鳴き叫ぶことがあり、人が確認できない音や動きがあるのか、あるいはチンチラが夢をみて寝言として鳴き叫んでいるとも言われています。

行動(ボディランゲージ)

様々なボディーランゲージが報告されていますが、逸話的な解釈をされた行動や仕草もあります。

笑顔とウインク

チンチラは仲間からグルーミングをされたり、飼い主から触れられたり、幸せを感じると満足そうに頬を上げている表情が見られ、笑顔と表されています。また、チンチラがウインクや瞬きをすることで、人に反応しているといわれていますが、これはペットの飼い主が一般的に行う擬人化です。しかし,ヒゲが横に広がっている表情は,まさに幸せを感じた笑顔のように見えます。

イラスト:「モルモット・チンチラ・デグーの医学」緑書房より引用

壁乗り/ウォールサーフィング

チンチラが勢いよく壁を登り上がり、勢いよく滑り落ちながら跳躍する行動を Wall surfing(ウォールサーフィング)と呼ばれます。ケージから出た際の純粋な興奮の一部と捉えられていますが、一部の専門家はこれは優位性を示していると考えています。声を出して、または静かにきしみ声(Squeaking)を出しながらこの行動をとることもあります。

イラスト:「モルモット・チンチラ・デグーの医学」緑書房より引用

尾を振る

チンチラが尾を振る理由は解明されていませんが、喜びや楽しみを表すわけではなく、不安を示している可能性が高いです。また発情期のオスも尾を振る、Swishy tail dance(スウィッシーテールダンス)と呼ばれる行動を示します。

イラスト:「モルモット・チンチラ・デグーの医学」緑書房より引用

手を優しくかじる

チンチラが人の手を軽くかじった場合、それは攻撃して傷つけようとしているわけではなく、グルーミング様行動あるいは愛情を示す行動です。気に入った人にのみこの行動をとります。

イラスト:「モルモット・チンチラ・デグーの医学」緑書房より引用

常同行動(反復行動)

常同行動とは、意味なく無意識に繰り返される行動で、不安やストレスを感じた時などに落ち着くために行われます。ケージの中では、宙返りや縦横に反復した動きをします。

硬直

走り回っていたり、普通に餌を食べている最中に突然凍りついて動作を完全に静止します(Freezing:フリージング)。何か音が聞こえたり、気配を感じて固まっている状態で、聞き耳を立てて危険を感じ取っています。準備もできないような緊張状態で、ストレス徴候の 1 つです。

イラスト:「モルモット・チンチラ・デグーの医学」緑書房より引用

警戒

後肢で立ちあがり高い姿勢を保つのは、好奇心旺盛で周囲に興味がある時、または危険や脅威を感じて警戒している時です。見慣れないものや外敵に遭遇するとうなり声のような脅威的な鳴き声を上げ、素早く逃走し、逃げ場がないと咬みついたり、相手に尿を振りかけたり〔Vanderlip 2006〕、まれに糞塊を投げることもあります。「キューキュー」「ギャーギャー」とバーキングコールや「ケッケッ」などのカッキングの鳴き声を上げて、前肢で抵抗し、強く咬んで攻撃する個体もいます。

咬む

優位性を示すために下位の個体に対して、あるいは威嚇や攻撃の際に相手を咬みます。保定を嫌がって咬むケースは非常に多いです。

探索

好奇心旺盛な性格のため、新しい物や環境に置かれると熱心に探索します。

イラスト:「モルモット・チンチラ・デグーの医学」緑書房より引用

発情行動と発情/繁殖時の鳴き声

チンチラは発情期になると雌雄ともに落ち着きがなくなり、「アンアン」「ワンワン」「ホォホォ」「ヴォッヴォ」などの特有の鳴き声を上げ、ケージや物をかじる頻度も増えます。メスは外陰部が赤く腫脹して粘液が分泌されます。オスは「フォーフォー」「ホーホー」とフクロウに似た鳴き声を上げながら、メスに向かって臀部ならびに尾を小刻みに左右に振る求愛行動を示します。この動作は Swishy tail dance(スウィッシーテールダンス)と呼ばれ、メスの注意を引くために行われます。また,母子間の連絡的作用として多彩な鳴き声があります。幼体が母親のにおいを嗅ぐ時きは「 キィーキィー」と大きな鳴き声で母親にシグナルを送ります。母親は「キャンキャン」とうなり声で答えて幼体の世話をし、幼体は満足した気持ちを「キューキュー」と高音の鳴き声で表現します。

人馴れ

チンチラは飼い主とのコミュニケーションがきちんととれると非常に人に馴れます。特に幼い時に頻繁に扱われると、馴れやすく、精神的な結び付きが生まれます〔Hillyer et al.1997〕。優しいハンドリングと軽い接触に最もよく反応し〔Hrapkiewicz et al.2007〕、馴れたチンチラは扱いやすくなります〔Donnelly et al.2002〕。 通常、人に対して攻撃的ではなくほとんどかまない動物ですが〔Hillyer et al.1997,Hoefer1994,Hrapkiewicz et al.2007〕、精神的にストレスがかかったり、動揺するとかむ傾向にあります〔Hrapkiewicz et al.2007〕。鳴き声からもチンチラの要求が理解できますので、積極的に向き合って対応すれば、素晴らしいペットになりえます。

参考文献

  • Donnelly TM,Quimby FW, 2002.Biology and diseases of other rodents.In Laboratory Animal Medicine,2nd ed.Fox, JG,Anderson LC,Loew FM, Quimby FW.eds.Academic Press,San Diego:p247-307.2002
  • Donnelly TM,Brown CJ.Guinea pig and chinchilla care and husbandry.Vet Clin North Am Exot Anim Prac7.2004
  • Heffner RS,Heffner HE. Behavioral hearing range of the chinchilla.Hear Res52(1):13-16.1991
  • Hillyer EV,Quesenberry KE,Donnelly TM.Biology,husbandry,and clinical techiques,In Ferrets,Rabbits,and Rodents:Clinical Medicine and Surgery.hailler EV,Quesenberry KE eds.WB Saunders.Filadelphia:p243-259.1997
  • Hrapkiewicz K,Medina L.Chinchilla.In Clinical Laboratory Animal Medicine.Blackwell Publishing.Ames:p180-197.2007
  • Hoefer H.Chinchillas.Vet.Clin.North Am Exot Pet Med24:103-111.1994
  • Miller JD.Audibility curve of the chinchilla.Journal of the Acoustical Society of America48(2):513-523.1970
  • Nowak RM.Walker’s mammals of the world,Sth Ed.VolII.The John Hopkins University Press.Baltimore,MD.1991
  • Pavia A.Chinchillas:a new owners guide.TFH Publications.Neptune City.NJ.2003
  • Vanderlip SL.The chinchilla handbook.Hauppauge.Barron’s.NY.200
  • Ross A.Sounds Made by the Chinchilla. Crystal Chinchillas Belgium.2006 Retrieved19.2007,from www.etc-etc.com/chinsnd.htm.
  • Termathe M.Michael’s chinchilla homepage. Retrieved,2006 November20, 2007,from www. http://www.chinchilla-sounds.de/index-en.htm
  • Vanderlip SL.The chinchilla handbook.Hauppauge.Barron’s.NY.2006
  • Vogt SC.Unpublished master’s thesis,University of Wisconsin-Madison.Madison.Wisconsin.1980

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。