チンチラの歴史とワシントン条約

チンチラは古代から南米のアンデス固有の動物で、ペルーのインカ族やチリ北部のアタケメニョス族はチンチラを毛皮や食肉目的で捕獲していました。16世紀頃、スペイン人がインカ族を征服するまではチンチラは原住民しか知られていませんでした。スペイン人はチンチラの毛皮を王様へ贈り、その後1828年から毛皮の商業利用で、ヨーロッパの市場に出回るようになりました。1枚のコートを作製するのに100枚以上の毛皮を使用し、1900年代初頭では毛皮のために絶滅寸前まで乱獲されました。野生の数が激減したが、現在は政府の保護下に置かれ、ワシントン条約第Ⅰ掲載種になり、国際間の取引きは禁止されています。

人の手で最初に繁殖されたのが、チリの鉱山技師のアメリカ人、マティアス・F・チャップマン(Mathisas F.Chapman)氏によるものでした。彼はチンチラに興昧を引かれ、現地で個体を買い取って飼育を試み、1923年にアメリカにはじめて輸出しました。しかし、飼育を始めて11年後、1934年チャップマンは亡くなりましたが、子供のレジナルド(Reginald Chapman)氏は繁殖に成功したのが現在のペットのチンチラの始まりです。日本では1961年に静岡県三島市の動物愛好家によって導入されたのが最初と報告されています〔富永1977〕。現在、日本のペットショップにいるチンチラは野生個体ではなく、当然繁殖された個体であるためワシントン条約に違反していません。野生のチンチラを捕獲した場合、それらは野生個体であり、販売を目的とした輸出入はできませんが、外国のブリーダーが繁殖した繁殖個体であれば、販売用に輸出入が可能です。

毛皮産業で大活躍と問題点

現在の毛皮産業で衣料品やその他のアクセサリーに使用されているチンチラは、農場(ファーム)で飼育されている個体群です〔Jiménez 1996〕。これまでの歴史から、チンチラは毛皮の産業動物の歴史が長く、感染症の調査や報告の大半は、チンチラを繁殖しているファームでのデータです。野生動物と異なり、本来の習性と異なる環境で、しかも狭くて不衛生な金網ケージの中で一生を過ごしていました。チンチラは大きなストレスを受け、多種の感染症も蔓延して過大な被害を被ってたこともあるでしょう。

実験動物は一部だけ

チンチラは1950年代から研究に使用され、1970年代以来、研究者がチンチラに最も関心を持っているのは聴覚系です〔Suckow et al.2012〕。

参考文献

  • Jiménez JE.The extirpation and current status of wild chinchillas Chinchilla lanigera and C.brevicaudata(PDF).Biological Conservation77(1):1‐6.1996
  • Suckow MA,Stevens KA,Wilson RP.The Laboratory Rabbit,Guinea Pig,Hamster,and Other Rodents.Academic Press.p949ff.2012
  • 富永聡、辻紘一郎.チンチラ.実験動物技術編.田嶋嘉雄編.朝倉書店.東京.1977

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。