感染症法と輸入届出制度

感染症法

日本では、感染症を取り巻く状況の激しい変化に対応するため、1998年に制定・公布され、1994年から感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律が施行され、感染症対策がとられています。感染症の発生動向が把握できるように、医師の届け出に基づく感染症サーベイランスシステムが強化されています。症状の重さや病原体の感染力などから、感染症を一類~五類の5種の感染症 (感染症を危険性が高い順に一類から五類に分類)、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症の8種類に分類し、それぞれの管理体制をとっています。これらの対象となる病原体は、その所持や輸入を禁止するほか、許可や届出などで細かく規制して管理しています。また、必然的に人獣共通感染症への対策も含まれています。

分類感染症名
第一類感染症エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱
第二類感染症急性灰白髄炎、結核、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(病原体がコロナウイルス属SARSコロナウイルスであるものに限る。)、中東呼吸器症候群(病原体がベータコロナウイルス属MERSコロナウイルスであるものに限る。)、鳥インフルエンザ(H5N1)、鳥インフルエンザ(H7N9)
第三類感染症コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス
第四類感染症E型肝炎、ウエストナイル熱(ウエストナイル脳炎を含む)、A型肝炎、エキノコックス症、黄熱、オウム病、オムスク出血熱、回帰熱、キャサヌル森林病、Q熱、狂犬病、コクシジオイデス症、サル痘、ジカウイルス感染症、重症熱性血小板減少症候群(病原体がフレボウイルス属SFTSウイルスであるものに限る。)、腎症候性出血熱、西部ウマ脳炎、ダニ媒介脳炎、炭疽、チクングニア熱、つつが虫病、デング熱、東部ウマ脳炎、鳥インフルエンザ(鳥インフルエンザ(H5N1及びH7N9H5N1)を除く)、ニパウイルス感染症、日本紅斑熱、日本脳炎、ハンタウイルス肺症候群、Bウイルス病、鼻疽、ブルセラ病、ベネズエラウマ脳炎、ヘンドラウイルス感染症、発しんチフス、ボツリヌス症、マラリア、野兎病、ライム病、リッサウイルス、リフトバレー熱、類鼻疽、レジオネラ症、レプトスピラ症、ロッキー山紅斑熱
第五類感染症アメーバ赤痢、ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く)、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症、急性脳炎(ウエストナイル脳炎、西部ウマ脳炎、ダニ媒介脳炎、東部ウマ脳炎、日本脳炎、ベネズエラウマ脳炎及びリフトバレー熱を除く)、クリプトスポリジウム症、クロイツフェルト・ヤコブ病、劇症型溶血性レンサ球菌感染症、後天性免疫不全症候群、ジアルジア症、侵襲性インフルエンザ菌感染症、侵襲性髄膜炎菌感染症、侵襲性肺炎球菌感染症、水痘(入院例に限る)、先天性風しん症候群、梅毒、播種性クリプトコックス症、破傷風、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症、バンコマイシン耐性腸球菌感染、百日咳、風しん、麻しん、薬剤耐性アシネトバクター感染症、RSウイルス感染症、咽頭結膜熱、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、感染性胃腸炎、水痘、手足口病、伝染性紅斑、突発性発しん、ヘルパンギーナ、流行性耳下腺炎、インフルエンザ(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く)、急性出血性結膜炎、流行性角結膜炎、性器クラミジア感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症、クラミジア肺炎(オウム病を除く)、細菌性髄膜炎(侵襲性インフルエンザ菌感染症、侵襲性髄膜炎菌感染症及び侵襲性肺炎球菌感染症を除く)、マイコプラズマ肺炎、無菌性髄膜炎、ペニシリン耐性肺炎球菌感染症、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症、薬剤耐性緑膿菌感染症
新型インフルエンザ等感染症新型インフルエンザ、再興型インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、再興型コロナウイルス感染症
指定感染症一~三類および新型インフルエンザ等感染症に分類されない既知の感染症の中で、一~三類に準じた対応の必要が生じた感染症
新感染症人から人に伝播すると認められる感染症で、既知の感染症と症状などが明らかに異なり、その伝播力および罹患した場合の重篤度から判断した危険性が極めて高い感染症
表:感染症法の分類

感染症法において人に感染させるおそれが高い動物(指定動物)として、イタチアナグマ、コウモリ、サル、タヌキ、ハクビシン、プレーリードッグおよびヤワゲネズミが指定されており、定められた地域からの輸入が禁止されています。

指定動物感染症
サルエボラ出血熱、マールブルグ病
プレーリードッグペスト
イタチアナグマ、タヌキ、ハクビシンSARS
コウモリニパウイルス感染症、リッサウイルス感染症、狂犬病
マストミス(ヤワゲネズミ)ラッサ熱
表:人に感染させるおそれが高い指定動物と感染
指定動物輸入禁止地域
サル全ての地域
ただし、試験研究用又は展示用サル(厚生労働・農林水産大臣の指定を受けた試験研究機関又は動物園で飼育されるもの)に限り、アメリカ合衆国、インドネシア共和国、ガイアナ協同共和国、カンボジア王国、スリナム共和国、中華人民共和国、フィリピン共和国及びベトナム社会主義共和国から輸入可能。
イタチアナグマ、コウモリ、タヌキ、ハクビシン、プレーリードッグおよびヤワゲネズミ全ての地域
表:輸入禁止地域

輸入届出制度

これまで、輸入動物に対する日本における法的な規制は、感染症法においての人への重大な感染症をもたらすおそれのある動物の輸入禁止措置ならびにサルの輸入検疫、狂犬病予防法における犬猫等への輸入検疫、家畜伝染病予防法に基づく家畜や家禽への輸入検疫により対応してきました。しかし、これらの対象動物以外のげっ歯類などに対しては規制が全くありませんでした。ところが2002年にはアメリカから野兎病の疑いのあるプレーリードッグ、2003年にはサル痘の疑いのあるアフリカ産のアフリカヤマネが日本に輸出されていたという事例が起こりました (いずれも、その後の検査等で陰性が確認) 〔大曽根 2006〕。そこで、これらの動物に関与する感染症を予防する目的で、輸出国政府機関発行の感染症に罹っていない旨の衛生証明書添付とともに、種類や数量などを届け出をしなければならない輸入届出制度が2005年に導入されました。現在、日本での発生はありませんが、シマリスではライム病などが懸念されています。

対象動物感染症
生きた陸生哺乳類げっ歯目ペスト、狂犬病、サル痘、腎症候性出血熱、ハンタウイルス肺症候群、 野兎病、レプトスピラ症
ウサギ目 (ナキウサギ科のみ)野兎病、狂犬病
その他狂犬病
哺乳類の死体げっ歯目ペスト、サル痘、腎症候性出血熱、ハンタウイルス肺症候群、野兎病、レプトスピラ症
ウサギ目(ナキウサギ科のみ)野兎病
生きた鳥類ウエストナイル熱、高病原性鳥インフルエンザ、低病原性鳥インフルエンザ
表:輸入届出対象動物と対象感染症

参考文献

  • 大曽根誠.動物の輸入届出制度と輸入の現状.モダンメディア52(11) [感染症].343‐351.2006

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。